ドクターダーリン【完結】

桃華れい

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第2部

フェーズ7.9-22

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 室内の探索をしてから、私は何気なくテレビの前にあったリモコンを取ってベッドに座った。電源ボタンを押す。直後に目と耳に飛び込んできた内容に衝撃を受けた。裸で絡み合う男女とモザイクと喘ぎ声。もしかしなくても、アダルトチャンネルだ。見てはいけないものを見てしまった気がしてチャンネルを変えようとしたけど、ラブホテルだし、テレビをつけたら映っただけだし、せっかくだし、いいよね。何より目が離せない。
 画面に釘付けになっていたら、しばらくして涼がバスルームから出てきた。振り向くとばっちり目が合った。
「テレビつけたらエッチなのやってた……」
 涼はため息をつき、近づいてきてベッドの上に乗っかった。
「そういうとこなの、ここは」
 手にしていたリモコンを取り上げられそうになる。私は渡さなかった。
「もう少しだけ見たい」
「見るのかよ」
 今度は呆れたように眉を寄せた。
「涼もさっき見てたんじゃないの。チャンネルがこれになってたよ」
「見てねえよ。あんあん言ってなかったろ。デフォルトのチャンネルがこれになってて、テレビつけるたびにこれが映るようになってんの」
 言われてみれば、私がお風呂から出たときいやらしい声はしてなかった。普通のバラエティー番組だったように思う。でも、ということは一瞬は見たのね。
「私に見せたくないなら、テレビつけっぱなしにしておけばよかったのに」
「ムードがないから消したんだよ。お前、バラエティーとかすぐ夢中になるし」
「ならないもん」
 エッチなのを涼が見ていなかったことに安心しつつ、一緒に観賞する。一人でこっそり見られるのは嫌だけど、一緒ならいいかな。私はベッドの上に座り、涼は私の後ろで片肘をついて横になっている。
「女優さん、かわいいね。アイドルみたいだね」
 振り返り、黙ったままの涼に目をやった。無表情だ。
「興奮する?」
「別に」
「しないの?」
 私の前だから痩せ我慢してるのか。疑いつつ視線をテレビに戻した。
「目の前にもっといい女がいるからじゃない」
 バスローブの上から私の腰を撫でながら涼が言った。どうせ調子のいいことを言っているだけだと思って応えずにいたら、
「今の誘い文句なんだけど」
 とぼやいていたけれど、画面の中がさらに盛り上がってきたからそれどころではなかった。女優さんの豊満なバストが、男優さんの動きに合わせて大きく揺れている、何カップあるんだろう。私もあれくらいあったらいいのに。自分の胸を寄せて上げてみた。
 テレビに夢中になっていたら、ふいに後ろから涼に捕らえられてしまった。ベッドの上に私を組み伏せ、リモコンでテレビを消された。いいところだったのに。
「エッチなビデオ見るためにきたわけじゃないだろ?」
「うん……」
 唇が重ねられ、ねっとりと舌が入ってきた。涼の背中に腕を回す。ふんわりとしたバスローブの手触りと、石鹸のいい香りで幸せな気分になる。あ、忘れてた。涼のバスローブ姿をちゃんと見ていない。
「いい匂いがする。洗面台にあったボディーソープ使った?」
 唇から離れて私の首筋を嗅ぎながら涼が言った。
「うん。アメニティの、バラの香りのやつ」
「彩に合ってる。家でもこういうのにすればいいのに。俺と同じの使ってないで」
「涼と同じ匂いがいいの」
「じゃあ、俺がバラにしようか」
「ダメ」
「なんで」
「それ以上色気が増したら困る」
 真面目に答えたのだけど笑われた。
「俺ってそんなにセクシー?」
「うん」
「お前もな」
 私のバスローブが脱がされる。ブラジャーはつけていない。あらわになった膨らみを優しく揉まれて、同時に先端を舐められた。
「俺は彩の胸のほうが好きだよ」
 ビデオを見ながら考えてたことがバレている。
「目の前の生おっぱいに勝るものはない。揉み心地最高だし」
 なま……。画面の中では触れられないものね。でも、ということは。
「患者さんのを見ても興奮する?」
「診療中はそういう目で見てないからしない」
 きっと女性の体としてではなく人体として診てるんだろう。手術中なら治療する部分以外は布で覆われているからなおさらだ。
 パンツも脱がされて、脚を広げられた。
「ここもバラの匂い」
「やっ……」
 ひと舐めされただけで下半身が跳ねた。気に入ったらしくて涼はしばらくそこから離れなかった。そのあとはビデオと同じ体勢で、ビデオに負けないくらい激しくされた。涼いわく、私の胸もしっかり揺れているらしかった。

 宿泊ではなく休憩だから、ベッドで一回だけしてお風呂にゆっくり入ることにした。ジェットバスで泡風呂なんて憧れだった。バスタブにはスイッチがあって、押すとレインボーカラーにライトアップされた。
 二人どころか四人くらいでも入れそうな広いバスタブだ。もこもこの泡を体に塗ってみたり、手に取って息を吹きかけてみる。
「実際にきてみて気が済んだ?」
「うん。お部屋もお風呂も豪華ですごく楽しい」
 それに、普段と違う雰囲気の中で気持ちが新鮮になれて、いつもより盛り上がった。またきたいな。
「またくるか」
「いいの? 汚らわしいからつれていきたくないんじゃなかったっけ?」
「彩が一緒に風呂入ってくれるから」
 家では恥ずかしくてなかなか一緒には入れないのに、ホテルだとなぜか許せてしまう。非日常的な雰囲気に飲まれて、気持ちが高揚しているせいだ。あろうことか今日は自分からお風呂に誘ってしまった。
「ああ、でもお前またAVに夢中になるからな」
「もう見ないよ」
 初めてだったから、もの珍しさで思わず見入ってしまっただけだ。
 向かい合っていた涼が隣に移動してきて、私の肩を抱き寄せた。
「見たくなったら家で一緒に見よ」
「見ないってば」
 参考になるようなものでもないし。演出なんだろうけど、いろいろ激しすぎて現実離れだった。涼はいつももっと優しくて丁寧にしてくれる。ビデオより涼のほうがいい。

 三時間滞在した部屋を出て、エレベーターを待ちながら私は涼に言った。
「誰かに会っちゃうと気まずいね」
 ラブホテルという場所柄、知り合いに会ってしまうのは気まずい。今日は土曜日の夜で混んでいるから遭遇率は高そう。愛音だってこういうところにきたのだ。他の同級生もくるかもしれない。
「俺の後ろに隠れてたら」
 私は涼の背後に重なるようにして身を隠した。ほどなくしてエレベーターが到着し、人が降りてきたのが足音でわかった。
「あんた! こんなところで何やって……」
 男の人の声だ。涼に言ってるの?
「何と言われても」
 涼が冷静に返した。誰だろう? 気になって涼の後ろからそーっと覗いてみる。そこにいたのは正木さんだった。もちろん女性と一緒だ。驚く私と正木さんの目が合った。
「なんだ、安心したよ」
 正木さんはほっとした表情を浮かべた。それ以上は何も言わず、連れのロングヘアの女性と廊下を進んでいった。彼女も同じ大学生だろうか。大人っぽくてきれいな人だった。
 入れ替わりでエレベーターに乗り、私は涼に疑問を投げかけた。
「なんで安心したんだろう。気まずいのに」
「俺が別の女を連れてると思ったんだろ。彩とわざわざこんなところにくるはずないと思って」
「あ、なるほど」
 納得した。そういうことか。正木さん、驚かせてごめんなさい。
「正木さん、彼女できたんだ。よかった」
「それでも相変わらずお前のこと心配してるみたいだな、あの反応だと」
 去年の夏に私は正木さんを傷つけてしまった。それなのに私のことを心配してくれてるの? せつなさが込み上げてきて、私は黙ってしまった。
 エレベーターが一階に到着し、涼が私の手を握ってきた。私はしっかりとその手を握り返した。
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