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第11話 君の傷に、触れてはいけない過去
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隔離ルームに閉じ込められてから、すでに数日が経過していた。
緊急対応のはずだった検疫隔離は、一向に解除されない。
外部からの連絡も遮断され、救助の兆しはない。
「……どうなってるんだ」
部屋の隅で通信装置をいじっていたカイルが、小さく舌打ちをする。
本来ならこんな状況、上層部が黙っているはずがない。
(何かが、おかしい)
カイルの中で、司令官としての直感が警鐘を鳴らしていた。
だが、それ以上に――目の前の“番”の様子が気になって仕方がなかった。
「レイ、食欲はあるか?」
「……ちょっとだけ」
ベッドで毛布にくるまっていたレイが、返事をする。
咬み跡はきちんと治りつつあるが、どこか怯えるような目をしていた。
「レイ、何か……俺に、隠してることはないか?」
「……っ、どうして?」
問いかけに、レイの肩がぴくりと震える。
図星だったのか、あるいは何かを思い出したのか――。
「お前が“番”を嫌がっていた理由、俺にはわからない。でも、知りたい」
「知らなくていい」
レイはきっぱりと、冷たく言い放った。
「これは、俺の問題だから」
「違う。俺たちはもう、番だ。お前だけの問題じゃない」
「……っ、カイルには、わかんないよ」
それは怒りでも反発でもなかった。
ただ、どうしようもなく脆くて、悲しい響きだった。
「番になったら、幸せになれるわけじゃない。
ただ、利用されるだけかもしれない。……そうだったから」
「――利用?」
カイルの眉がわずかに動く。
レイは唇を噛み、やがてぽつりと語り出した。
「昔、訓練校にいたころ……番になれって、迫られた」
「……」
「俺は拒んだ。でも、相手はアルファだった。上位種ってだけで、全部許された。
俺のフェロモンを利用して、権力を得ようとした。
その後、俺は“問題児のΩ”として転属されて……今の部隊に来たんだ」
それは初めて語られる、レイの過去だった。
「……誰も、俺を守らなかった」
「今度は違う。俺がいる」
レイはゆっくりと顔を上げ、カイルを見た。
その目には、わずかな迷いと、わずかな希望が宿っていた。
「……信じて、いいの?」
「信じろ。お前が俺を信じられるまで、俺は何度でも言う。
お前は誰にも利用されない。……俺が、そうさせない」
その言葉が、レイの中で何かを溶かしていった。
ずっと凍りついていた心が、少しだけ、温かさに触れたようだった。
緊急対応のはずだった検疫隔離は、一向に解除されない。
外部からの連絡も遮断され、救助の兆しはない。
「……どうなってるんだ」
部屋の隅で通信装置をいじっていたカイルが、小さく舌打ちをする。
本来ならこんな状況、上層部が黙っているはずがない。
(何かが、おかしい)
カイルの中で、司令官としての直感が警鐘を鳴らしていた。
だが、それ以上に――目の前の“番”の様子が気になって仕方がなかった。
「レイ、食欲はあるか?」
「……ちょっとだけ」
ベッドで毛布にくるまっていたレイが、返事をする。
咬み跡はきちんと治りつつあるが、どこか怯えるような目をしていた。
「レイ、何か……俺に、隠してることはないか?」
「……っ、どうして?」
問いかけに、レイの肩がぴくりと震える。
図星だったのか、あるいは何かを思い出したのか――。
「お前が“番”を嫌がっていた理由、俺にはわからない。でも、知りたい」
「知らなくていい」
レイはきっぱりと、冷たく言い放った。
「これは、俺の問題だから」
「違う。俺たちはもう、番だ。お前だけの問題じゃない」
「……っ、カイルには、わかんないよ」
それは怒りでも反発でもなかった。
ただ、どうしようもなく脆くて、悲しい響きだった。
「番になったら、幸せになれるわけじゃない。
ただ、利用されるだけかもしれない。……そうだったから」
「――利用?」
カイルの眉がわずかに動く。
レイは唇を噛み、やがてぽつりと語り出した。
「昔、訓練校にいたころ……番になれって、迫られた」
「……」
「俺は拒んだ。でも、相手はアルファだった。上位種ってだけで、全部許された。
俺のフェロモンを利用して、権力を得ようとした。
その後、俺は“問題児のΩ”として転属されて……今の部隊に来たんだ」
それは初めて語られる、レイの過去だった。
「……誰も、俺を守らなかった」
「今度は違う。俺がいる」
レイはゆっくりと顔を上げ、カイルを見た。
その目には、わずかな迷いと、わずかな希望が宿っていた。
「……信じて、いいの?」
「信じろ。お前が俺を信じられるまで、俺は何度でも言う。
お前は誰にも利用されない。……俺が、そうさせない」
その言葉が、レイの中で何かを溶かしていった。
ずっと凍りついていた心が、少しだけ、温かさに触れたようだった。
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