夫のつとめ

藤谷 郁

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私の夫

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 壮二が社長になるという情報は、グラットンの社外秘だった。
 正式発表するまで他言するなと、壮二は南村壮太に厳命されていたのだ。

 希美はそのことを、利希に教えられた。希美がグラットンに乗り込んだあの日、南村壮太が入れ違いでノルテフーズを訪れ、初めて事情を明かしたとのこと。


「だから最後まで言えなかったのね」

 北城家のリビングで朝刊を眺めながら、希美は微笑みを浮かべる。
 経済面に、グラットン新社長についてのニュースが掲載されていた。壮二は少しかしこまった顔で、カメラに納まっている。

「もう、かっこつけちゃって」

 一人呟いていると、廊下を歩く音が近づいてきた。この重量感は武子である。

「お嬢様。壮二さんがおみえになりました」

 彼女は嬉しそうに来客を告げた。
 希美はジャンプするようにソファを立ち、にこやかに現れた壮二に駆け寄る。グラットン本社で行われた記者会見の帰りなので、スーツを着込んでいた。

「いらっしゃい、壮二……じゃなくて、南村社長サマ?」

 希美がからかうと、壮二は照れた顔になる。

「参ったな。それ、武子さんにも言われちゃいました」
「あはは、ほんとに?」

 武子もにっこりする。二人の仲睦まじい様子に、微笑ましさを感じているのだ。

「昼食をご用意しますので、ダイニングルームへどうぞ」
「はあい。行きましょ、壮二」
「ええ、希美さん」

 ダイニングルームに行くと、利希と麗子が既に座っていた。壮二を見ると、二人とも明るく声をかけて歓迎する。

「おお、来たな新社長」
「お忙しいでしょうに、お誘いしてごめんなさいね」

 壮二が社長になっても、北城家の接し方は変わらない。それは、壮二が望んだことでもあるし、自然な流れだった。
 なぜなら、壮二はもうすぐ家族の一員になるのだから。

「ご両親はお元気? 結婚式は来月に延びてしまったけれど、準備が整って良かった。またお会いできるのが楽しみだわ」

 嬉しそうな麗子に、壮二はきちんと答える。

「父も母も、北城家の皆様によろしくお伝えくださいと申しておりました」
「何だ、壮二。いやに堅苦しいじゃないか。ほら、リラックスしろ」

 利希に肩を叩かれ、壮二も笑顔になる。四人はテーブルで向かい合い、昼食会を始めた。

 本当に良かった――
 両親の元気な姿を前に、希美はあらためてホッとする。
 希美の政略結婚の相手が壮二だと知った時、利希も麗子も腰を抜かさんばかりに驚いた。だが南村壮太と壮二の関係を知ると、驚きを超越し、まるで夢のようだと素直に喜んでくれた。

 壮二の両親は、息子に口止めされたとはいえ、壮太との関係を黙っていたことを詫びた。しかし、彼らの気持ちを利希も麗子も穏やかに受け入れ、ともに結婚話の復活を祝ったのである。

 ちなみに、麗子が南村家の調査を興信所に依頼した際、なぜ南村家と壮太の関わりが報告書に記載されなかったのかというと……調査員に、ある方面から圧力がかかったからだと希美は推測する。

「お嬢様、ご飯のおかわりはよろしいですか? 十分ご用意しましたので、たんとお召し上がりくださいね」
「う、うん。ありがとう武子さん」

 彼女に脅さ……頼まれたら、誰であれ嫌とは言えないだろう。
 何はともあれ、丸く収まって本当に良かった。
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