夫のつとめ

あふれる光

2

　それは希美も同じである。夫の理想像なんて、関係ない。社長だろうが平社員だろうが、壮二と結婚できるなら、どこまでもついて行く。

「どうして早く言ってくれなかったの？」
「僕だって、希美さんに事情を話して安心させたかった。でも、それではいけないと思ったんです」
「え……」

　意味かわからず、彼の瞳を覗いた。

「希美さんには、自分で決断するという後継者としての仕事を全うしてほしかった。誰かに依存するのではなく、自分の力で」

　――これは仕事です。しっかりしてください。

「……突き放したのは、私のためだったのね」
「ええ」

　希美はあの頃、弱気になりがちだった。いつの間にか壮二にもたれ、甘えていたのだろう。そんな自分が後継者として決断する覚悟が持てたのは、他でもない彼が鬼になってくれたからだ。

「でも、ひどいわ。私がどれだけ辛かったか！」
「わかってます。見ている僕も苦しかった。でも、事情を話せなかった理由は他にもあって……」

　壮二は言いかけて、首を横に振った。

「いや、僕があなたを苦しめたんです。こうして、自分の手に入れるために」
「え？　あっ……」

　ふわりと抱き上げられた。
　壮二の腕が軽々と、希美の身体を運ぶ。

「ちょ……どうしたの、壮二」
「見てください、希美さん」

　彼は片手でリモコンを操作し、窓のスクリーンを全開にした。
　どこまで広がる青空のもと、街が輝いている。

「希美さん」
「はっ、はい？」

　引き締まった表情に、希美は見惚れてしまう。
　壮二はこんなにもイケメンだった。しかも、大企業グラットンの次期社長。彼は今、希美が結婚したくないと思い続けていたイケメンハイスペックそのものである。

　でも――

「あらためて、申し込みます」
「……」
「僕と、結婚してください」

　希美は胸を震わせた。こんな良い男、世界中探しても他に見つからない。
　南村壮二という最高の男性が、私の夫になるのだ。

「結婚します。一生、あなたの傍にいる！」

　優しい笑顔に、希美は蕩ける。誰よりも大好きで、誰よりも大切な存在。
　希美を愛して、愛し抜いて、ついに結婚観まで変えてしまったすごい男。

「壮二、誰よりもあなたが好き。愛してる」
「希美さん……」

　あふれる光の中、希美は運命の巡り合わせに、見守ってくれたすべての人々に、深く深く感謝した。