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私の夫
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南村家は壮太との付き合いを再開し、たびたび食事などしているらしい。
壮太はグラットングループの会長となり、グラットン、ノルテフーズをはじめとする関連会社のトップとして仕事に励んでいる。
雨降って地固まるという状態だが、これから先も、どんな変化が起きるかわからない。会社経営、家族関係、人々の繋がり……
でも、希美は確信している。
(私と壮二を結ぶ縁という名の糸。その糸が切れることは、決してない。何があっても……)
「さて、俺とお母さんはちょっと出かけてくるよ。壮二、社長業は大変だろうが、お前なら立派にやっていける。体に気を付けて頑張れよ」
「じゃあね、壮二さん。今度は夕食をご一緒しましょうね」
食事が済むと、両親はいそいそと出かけていった。
「お父様たち、またデートかしら」
「今日はドライブだそうです。ラブラブでございますよ」
武子が食器を片付けながら、嬉しそうに希美に教えた。
「食後のお茶をお持ちいたします。壮二さんも、ごゆるりとお待ちくださいね」
「あ、ありがとう。武子さん」
壮二はちょっと困った感じで受け答えする。武子は彼の反応が可笑しくて、わざと丁寧な言葉遣いで接しているようだ。
「武子さんたら、意地悪ねえ」
そう言いながら、希美の瞳は感謝に満ちている。
武子は恋のキューピッド。
思い返せば、要所要所でフォローを入れて、二人の恋を後押ししてくれた。希美を思い、壮二のことを信じて、辛抱強く見守ってくれたのだ。
「でも武子さん、最近は特に親切なんですよ。スタミナのつくメニューとか教えてくれて、僕の体調を心配してくれるんです」
「スタミナ? 壮二、それって……」
しばし見つめ合い、互いにぽっと頬を染めた。二人はもうすぐ新婚さんである。
「ねっ、ねえ壮二。お茶は庭で飲まない? 天気が良くて気持ちいいわよ」
照れた顔で誘うと、壮二は微笑んで手を差し出した。
「いいですね。行きましょう、希美さん」
ダイニングルームの窓を開け、手を繋いで庭に出る。そよ風が吹き、常緑樹の梢を優しく揺らした。
希美はふいに、深い感動を覚える。
こんなにも穏やかな午後を過ごす日が来るなんて――
「ありがとう、壮二」
「希美さん?」
何となく涙声になった。でも、満ち足りた表情で壮二と向き合う。
両手を取って、感謝の瞳で見つめた。
「あなたがいるから、私は幸せ。寂しさなんてもう、ひとつも感じない」
「希美さん……これからも、あなたを抱きしめます。力いっぱい」
「壮二……」
「僕は、あなたの夫です」
明るくて、あったかい。
大好きな男性の腕に抱かれ、希美はうっとりと目を閉じる。
一途な愛とやわらかな秋の陽射しが、女神を包んでいた。
壮太はグラットングループの会長となり、グラットン、ノルテフーズをはじめとする関連会社のトップとして仕事に励んでいる。
雨降って地固まるという状態だが、これから先も、どんな変化が起きるかわからない。会社経営、家族関係、人々の繋がり……
でも、希美は確信している。
(私と壮二を結ぶ縁という名の糸。その糸が切れることは、決してない。何があっても……)
「さて、俺とお母さんはちょっと出かけてくるよ。壮二、社長業は大変だろうが、お前なら立派にやっていける。体に気を付けて頑張れよ」
「じゃあね、壮二さん。今度は夕食をご一緒しましょうね」
食事が済むと、両親はいそいそと出かけていった。
「お父様たち、またデートかしら」
「今日はドライブだそうです。ラブラブでございますよ」
武子が食器を片付けながら、嬉しそうに希美に教えた。
「食後のお茶をお持ちいたします。壮二さんも、ごゆるりとお待ちくださいね」
「あ、ありがとう。武子さん」
壮二はちょっと困った感じで受け答えする。武子は彼の反応が可笑しくて、わざと丁寧な言葉遣いで接しているようだ。
「武子さんたら、意地悪ねえ」
そう言いながら、希美の瞳は感謝に満ちている。
武子は恋のキューピッド。
思い返せば、要所要所でフォローを入れて、二人の恋を後押ししてくれた。希美を思い、壮二のことを信じて、辛抱強く見守ってくれたのだ。
「でも武子さん、最近は特に親切なんですよ。スタミナのつくメニューとか教えてくれて、僕の体調を心配してくれるんです」
「スタミナ? 壮二、それって……」
しばし見つめ合い、互いにぽっと頬を染めた。二人はもうすぐ新婚さんである。
「ねっ、ねえ壮二。お茶は庭で飲まない? 天気が良くて気持ちいいわよ」
照れた顔で誘うと、壮二は微笑んで手を差し出した。
「いいですね。行きましょう、希美さん」
ダイニングルームの窓を開け、手を繋いで庭に出る。そよ風が吹き、常緑樹の梢を優しく揺らした。
希美はふいに、深い感動を覚える。
こんなにも穏やかな午後を過ごす日が来るなんて――
「ありがとう、壮二」
「希美さん?」
何となく涙声になった。でも、満ち足りた表情で壮二と向き合う。
両手を取って、感謝の瞳で見つめた。
「あなたがいるから、私は幸せ。寂しさなんてもう、ひとつも感じない」
「希美さん……これからも、あなたを抱きしめます。力いっぱい」
「壮二……」
「僕は、あなたの夫です」
明るくて、あったかい。
大好きな男性の腕に抱かれ、希美はうっとりと目を閉じる。
一途な愛とやわらかな秋の陽射しが、女神を包んでいた。
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