一億円の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
150 / 198
守ってあげたい

しおりを挟む
 今夜の夕飯は飲茶に決めた。
 といっても点心だけでは物足りないと思うので、小龍包や胡麻団子など定番の他に、いくつかの中華料理を組み合わせた『飲茶風』である。
 本場の味には遠く及ばないが、なかなか美味しそうに出来たと思う。

「そろそろかな」

 さっき織人さんから「あと10分で着く」とメッセージをもらった。
 テーブルセッティングを済ませてから玄関へと向かい、待機する。

「どうしよう。すごくドキドキする」

 織人さんとお見合いした日を思い出す。私はこんな風に緊張しながら、ラウンジで彼を待っていた。
 そして、驚きの再会。
 混乱したまま中華レストランで彼と向き合い、飲茶をいただいたのだ。

「あ……」

 ドアの向こうから足音が聞こえる。駆け足だ。
 織人さんが帰って来た。

「ただいま、奈々子!」
「……!?」

 玄関に現れた織人さんを見て、私は目を丸くする。
 息を切らし、両手にたくさんの荷物を抱えていた。どうやらすべて、ブランドショップの包装紙や袋のよう。

「ど、どうしたんですか、そんなに」
「奈々子に似合いそうな服とかアクセサリーとか、プレゼントだよ。あれもこれも欲しくなっちゃってさ、でも選んでる時間が惜しくて、全部買ってきた」
「ええっ?」

 織人さんはプレゼントの山を床に置くと、両手を広げた。
 そして、びっくり顔の私を思いきり抱きしめる。

「お、織人さん?」
「昨夜からずっと、生きた心地がしなかったよぉぉ。奈々子に嫌われたかと思って」
「え、嫌われ……?」

 翼さんの言ったとおりだ。
 子供みたいにしがみついてくる大きな人に、思わず噴き出してしまった。

「冗談ごとじゃないぜ?」

 腕の力を緩め、私を覗き込む。

「俺は本気で心配してたんだ。今朝は顔も見せてくれないし。知らないうちに、君を傷つけてしまったんじゃないかと」
「そ、それは……」

 やはり、この人は気づいていない。私の嫉妬心に。

「奈々子?」
「えっと……その、ごめんなさい。いろいろと理由があって……あの、あとでちゃんと話しますから」
「うん。ちゃんと聞かせてくれ。でないと俺は、心配しすぎてどうにかなりそうだ」

 再び抱きしめられる。強く激しく、もう逃さないとでも言いたげに。
 彼の身体は燃えるように熱く、私までポカポカしてきた。

「お、織人さん。私は……どこにも行きませんから」
「……」

 しばらくそのままでいたが、そっと解放された。潤んだ瞳が、縋るように私を見つめる。

「今夜のメニューは、飲茶メインの中華料理です。冷めないうちに、食べましょう?」
「……飲茶?」

 織人さんはハッとして、それから、嬉しそうに笑った。


◇ ◇ ◇


「おお、美味そうじゃないか!」

 点心の蒸籠をテーブルに並べると、織人さんが「凄い、凄い」と褒めあげた。
 私の料理をいつも褒めてくれる彼だが、今日は随分とテンションが高い。

「そんな、大げさですよ。簡単なものばかりですし」
「でも全部手作りなんだろ? 俺のために、ありがとうな、奈々子」
「ど、どういたしまして」

 確かに織人さんの好きな料理だけれど、感激しすぎである。それとも、思い出のメニューだから?
 いずれにしろ、飲茶にして良かったと思った。

「点心の他にもいろいろ作ったので、たくさん食べてくださいね」
「おう! ほら、奈々子も座って座って、乾杯しよう」

 私たちは向き合うと、まずは食事を楽しんだ。
 お酒を飲んで、お喋りもする。
 主な話題は、今日一日の出来事について。

 ボディガードの雲井さんに挨拶されたことや、花ちゃんの家に翼さんがいてびっくりしたことなど。
 といっても、私の行動については雲井さんから報告を受けたようで、彼は知っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの愉快な旦那さん

川上桃園
恋愛
 あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。  あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。 「何かお探しですか」  その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。  店員のお兄さんを前にてんぱった私は。 「旦那さんが欲しいです……」  と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。 「どんな旦那さんをお望みですか」 「え、えっと……愉快な、旦那さん?」  そしてお兄さんは自分を指差した。 「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」  そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

【完】ソレは、脱がさないで

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング2位 パッとしない私を少しだけ特別にしてくれるランジェリー。 ランジェリー会社で今日も私の胸を狙ってくる男がいる。 関連物語 『経理部の女王様が落ちた先には』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高4位 ベリーズカフェさんにて総合ランキング最高4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 『FUJIメゾン・ビビ~インターフォンを鳴らして~』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高11位 『わたしを見て 触って キスをして 恋をして』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高25位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『ムラムラムラモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】

てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。 変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない! 恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい?? You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。 ↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ! ※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。

思い出のチョコレートエッグ

ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。 慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。 秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。 主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。 * ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。 * 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。 * 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ
恋愛
 高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。 久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。  私、今日も明日も、あさっても、  きっとお仕事がんばります~っ。

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

処理中です...