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守ってあげたい
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「えっ、花ちゃんのお祖母さんが?」
「そうなんです。おじい様も翼さんをすっかり気に入ってしまって、結婚すると思ってますよ」
「へええ」
だが、本人たちはその気がなく、翼さんがお殿様と家臣にたとえたことを伝えると、彼は納得した。
「でもまあ、こればかりは分からんぜ? ちょっとしたきっかけで、意識するようになるかも」
「そうなんですか?」
織人さんが言うと、ありえそうな気がするから不思議だ。
「でも、もし花ちゃんと翼さんが結婚したら、思いきりお祝いしたいです」
「ああ、俺も。万が一、そんな日が来たらね」
可能性は低いが、ゼロではない。
互いの幼なじみについて、私たちはしばらく語り合った。
そして、ふと話が途切れて……
「花ちゃんの家には、相談に行ったのか? その、俺のことで」
織人さんがグラスを置き、少し赤らんだ顔を私に向ける。
今夜は、いつもよりペースが速かった。
「う、うん」
ずっと訊きたかったのだろう。
でも、なかなか切り出せずにいたのだ。私に気を遣って。
彼の思いやりに甘えず、きちんと答えなければ。
「昨夜も、今朝も、本当にごめんなさい。あんな態度を取ってしまって」
「いいんだ」
謝る私に、首を横に振る。
「とにかく、奈々子が心配でしょうがなかった。俺のせいで傷ついてるんだと、それだけは確かだから。ていうか……」
「えっ?」
織人さんが私を見つめ、目をうるうるとさせる。
「元気になって良かった。奈々子の可愛い笑顔が、俺の宝物なんだ」
「織人さん……」
どうして私は、ヤキモチなんて焼いたのだろう。
それは……織人さんこそ、いまや私の宝物だから。
「正直に話しますね。どうしてあんな態度を取ってしまったのか、理由を」
「うん」
織人さんはキリッとした顔になり、身構えた。
「え…………?」
話を聞き終えると、織人さんはぽかんとした。
よく理解できない、といった表情。
「へ、変ですよね。映画の登場人物に嫉妬するなんて。しかも、織人さんがメイに恋したのは子供の頃なのに」
「……」
「……呆れますよね」
恥ずかしくて頬が熱くなる。
私はもう、自分の部屋に引っ込みたくなった。
「いや、呆れてないし、問題はそこじゃない」
「……?」
織人さんは顎に手をあて、考える風にした。
「ええと……最後、なんて言った?」
「最後?」
「奈々子がメイに嫉妬して、怒ったんだろ? で、どうしてそんなに怒ったのかってところ。もう一度言ってくれないか」
「はあ」
もしかして、うまく伝わらなかったのかしら。
「あらためて言うのは、少し、恥ずかしいのですが」
「分かってる。でも肝心なところだから、俺はしっかり聞きたいんだ」
再びキリッとする織人さん。
私は仕方なく、もう一度同じ言葉を繰り返した。
「だ、だから、その……私がヤキモチを焼いたのは、織人さんを好きだから。いつの間にか、好きになりすぎてたんです……キングをひっくるめて」
「……」
織人さんはますます真剣な顔になり、私を見つめる。
「やっぱり聞き間違いじゃなかった。奈々子、君はとうとう」
「えっ?」
表情が崩れて、今度は泣き笑いになった。これまで見たことのない、情けない顔である。
「お、織人さん?」
私の視線をさけるように、彼は背中を向けた。大きな背中が震えるのを、オロオロしながら見守るのみ。
「ヤバい。強烈すぎる。真正面からストレートパンチを食らったぜ。だけど……めちゃくちゃ嬉しい!!」
「!?」
織人さんが吠えた。
いや、この雄叫びはキングだ。
彼は立ち上がり、体ごとこちらを向いた。
「それって、俺のすべてを愛してるってことだよな。そうだろ、奈々子?」
「え、あ……その」
テーブルを回り込み、私の前に跪いた。
輝くような笑顔がまぶしい。
「俺たちはとうとう、完全なる両思いになったんだな。ああ、どんなに待ち望んだことか、この瞬間を!」
私の手を取り、愛しそうに頬ずりする。
「ま、待ち望んで……?」
「待ってたよ、ずっと」
そうだったのかと、胸を突かれた。
結婚までは強引だったけれど、一緒に暮らし始めてからは、待っていてくれた。
すぐそばにいながら、私の気持ちを優先して。一緒に住めるだけで幸せだと、大切にしてくれた。
燃えるように熱い手のひら。
織人さんの想いが、ダイレクトに伝わってくる。
「織人さん、私ね……」
「うん」
彼に訊きたかった。
なぜそんなにも私を愛してくれるの? 結婚を決めたのはいつ、どのタイミングで?
だけどなんだか、そんなのは後でいいと思える。
私はもう、たまらない気持ちだった。
「今すぐ、あなたに抱かれたいの」
「そうなんです。おじい様も翼さんをすっかり気に入ってしまって、結婚すると思ってますよ」
「へええ」
だが、本人たちはその気がなく、翼さんがお殿様と家臣にたとえたことを伝えると、彼は納得した。
「でもまあ、こればかりは分からんぜ? ちょっとしたきっかけで、意識するようになるかも」
「そうなんですか?」
織人さんが言うと、ありえそうな気がするから不思議だ。
「でも、もし花ちゃんと翼さんが結婚したら、思いきりお祝いしたいです」
「ああ、俺も。万が一、そんな日が来たらね」
可能性は低いが、ゼロではない。
互いの幼なじみについて、私たちはしばらく語り合った。
そして、ふと話が途切れて……
「花ちゃんの家には、相談に行ったのか? その、俺のことで」
織人さんがグラスを置き、少し赤らんだ顔を私に向ける。
今夜は、いつもよりペースが速かった。
「う、うん」
ずっと訊きたかったのだろう。
でも、なかなか切り出せずにいたのだ。私に気を遣って。
彼の思いやりに甘えず、きちんと答えなければ。
「昨夜も、今朝も、本当にごめんなさい。あんな態度を取ってしまって」
「いいんだ」
謝る私に、首を横に振る。
「とにかく、奈々子が心配でしょうがなかった。俺のせいで傷ついてるんだと、それだけは確かだから。ていうか……」
「えっ?」
織人さんが私を見つめ、目をうるうるとさせる。
「元気になって良かった。奈々子の可愛い笑顔が、俺の宝物なんだ」
「織人さん……」
どうして私は、ヤキモチなんて焼いたのだろう。
それは……織人さんこそ、いまや私の宝物だから。
「正直に話しますね。どうしてあんな態度を取ってしまったのか、理由を」
「うん」
織人さんはキリッとした顔になり、身構えた。
「え…………?」
話を聞き終えると、織人さんはぽかんとした。
よく理解できない、といった表情。
「へ、変ですよね。映画の登場人物に嫉妬するなんて。しかも、織人さんがメイに恋したのは子供の頃なのに」
「……」
「……呆れますよね」
恥ずかしくて頬が熱くなる。
私はもう、自分の部屋に引っ込みたくなった。
「いや、呆れてないし、問題はそこじゃない」
「……?」
織人さんは顎に手をあて、考える風にした。
「ええと……最後、なんて言った?」
「最後?」
「奈々子がメイに嫉妬して、怒ったんだろ? で、どうしてそんなに怒ったのかってところ。もう一度言ってくれないか」
「はあ」
もしかして、うまく伝わらなかったのかしら。
「あらためて言うのは、少し、恥ずかしいのですが」
「分かってる。でも肝心なところだから、俺はしっかり聞きたいんだ」
再びキリッとする織人さん。
私は仕方なく、もう一度同じ言葉を繰り返した。
「だ、だから、その……私がヤキモチを焼いたのは、織人さんを好きだから。いつの間にか、好きになりすぎてたんです……キングをひっくるめて」
「……」
織人さんはますます真剣な顔になり、私を見つめる。
「やっぱり聞き間違いじゃなかった。奈々子、君はとうとう」
「えっ?」
表情が崩れて、今度は泣き笑いになった。これまで見たことのない、情けない顔である。
「お、織人さん?」
私の視線をさけるように、彼は背中を向けた。大きな背中が震えるのを、オロオロしながら見守るのみ。
「ヤバい。強烈すぎる。真正面からストレートパンチを食らったぜ。だけど……めちゃくちゃ嬉しい!!」
「!?」
織人さんが吠えた。
いや、この雄叫びはキングだ。
彼は立ち上がり、体ごとこちらを向いた。
「それって、俺のすべてを愛してるってことだよな。そうだろ、奈々子?」
「え、あ……その」
テーブルを回り込み、私の前に跪いた。
輝くような笑顔がまぶしい。
「俺たちはとうとう、完全なる両思いになったんだな。ああ、どんなに待ち望んだことか、この瞬間を!」
私の手を取り、愛しそうに頬ずりする。
「ま、待ち望んで……?」
「待ってたよ、ずっと」
そうだったのかと、胸を突かれた。
結婚までは強引だったけれど、一緒に暮らし始めてからは、待っていてくれた。
すぐそばにいながら、私の気持ちを優先して。一緒に住めるだけで幸せだと、大切にしてくれた。
燃えるように熱い手のひら。
織人さんの想いが、ダイレクトに伝わってくる。
「織人さん、私ね……」
「うん」
彼に訊きたかった。
なぜそんなにも私を愛してくれるの? 結婚を決めたのはいつ、どのタイミングで?
だけどなんだか、そんなのは後でいいと思える。
私はもう、たまらない気持ちだった。
「今すぐ、あなたに抱かれたいの」
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