一億円の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
152 / 198
守ってあげたい

しおりを挟む
 ~一生に一度、ロマンス小説のような恋愛ができたら――例えば、彼のような人と。一夜限りでもいいから、忘れられない経験をこの身に刻んで~

 『まゆき』のラウンジで初めて彼を見たとき、そんな妄想をした。
 まさか、本当に結ばれる日が来るなんて思ってもみず。

 今、私は満たされている。
 ロマンス小説の王道ではなく、理想どおりの王子様とも少し違うけれど、妄想を超えるときめきがあった。


 時計を見ると、午前4時。
 まだ外は暗い。

 望みを果たした彼が、寝息を立てている。
 淡い照明に浮かぶ、美しく完璧な鼻梁。呼吸に合わせて上下する厚い胸板。
 私は隣に横たわり、永遠に見惚れてしまいそうになる。

「織人さん……」

 絶対に無理だと思った。外見と中身のギャップにびっくりして、混乱して……でも、そばにいるといつも明るい気持ちになった。なにより安心できた。
 わがままで、強引で、だけど誰よりあたたかな人。
 野性味あふれる王子様が、今は愛しい。

「ん……」

 寝返りを打ち、こちらを向いた。
 じっと見ていると彼の長い睫毛が震え、ゆっくりと瞼がひらく。

「あれ、奈々子……?」
「おはよう、織人さん」
「……!」

 いきなり起き上がり、目をゴシゴシとこすった。それから、信じられないといった顔になる。

「そ、そうか。俺と奈々子は昨夜、ついに結ばれたんだな。ついに……」
「お、織人さん?」

 再びベッドに倒れ、思いきり私を抱きしめた。

「はあぁ~……夢みたいだ。そうだよなあ、結ばれたんだよ奈々子と。もう可愛くて可愛くて、なかなか終われなくて、でも初めての君が壊れないようセーブするのが大変だった」
「な、何を言って……」

 生々しいセリフに反応し、体が熱くなる。
 
「本当だぜ? 奈々子への愛情は、まだまだあんなものじゃない。覚悟してくれよ?」
「そ……そうなんですか?」

 絹のパジャマ越しに、彼の熱を感じる。私はドキドキしながら思い出した。



 結ばれたあと、織人さんは力尽きたようにぐったりしていた。あれは、セーブによる消耗だったのだ。

 汗をたくさんかいて、二人でお風呂に入って……だけどその頃にはもう、彼は元気を取り戻し、私のことを気遣ってばかりいた。
 たぶん、体への負担を心配してくれたのだろう。
 
 そして寝室に戻ると、織人さんがベッドのシーツをテキパキと交換し、二人くっついて横になった。
 たぶん、睦言を交わしたけれど、よく覚えていない。私はウトウトし始めて、眠ってしまったのだ。



「4時か……起きるには早い時間だな。もう一眠りするか?」

 彼の腕枕に甘えながら、私は「ううん」と首を振る。

「もう眠くない。このまま、お喋りしたい」
「いいね。俺も目が覚めてきた」

 優しく微笑み、額にキスをくれた。
 
「お喋りのテーマは?」
「あのね……」

 私は思い出した。
 さっき後回しにしたこと。やっぱり聞いておきたい。

「テーマは、織人さんの気持ちです。いつ、どのタイミングで私を好きになってくれたのか……結婚すると決めたのか、知りたい」
「えっ?」

 目をぱちくりとさせた。

「い、いいけど。なんでまた……」
「教えて」

 いつになく積極的な私に、彼が戸惑う。無防備な顔が、なんだか可愛い。

「分かった。かなり照れくさいけど、答えてあげよう」

 素直にうなずき、耳を澄ます。
 彼の穏やかな声が私を包み込んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の低田悠真のクラスには『高嶺の花』と呼ばれるほどの人気がある高嶺結衣という女子生徒がいる。容姿端麗、頭脳明晰、品行方正な高嶺さんは男女問わずに告白されているが全て振っていた。彼女には好きな人がいるらしい。  ゴールデンウィーク明け。放課後にハンカチを落としたことに気付いた悠真は教室に戻ると、自分のハンカチの匂いを嗅いで悶える高嶺さんを見つける。その場で、悠真は高嶺さんに好きだと告白されるが、付き合いたいと思うほど好きではないという理由で振る。  しかし、高嶺さんも諦めない。悠真に恋人も好きな人もいないと知り、 「絶対、私に惚れさせてみせるからね!」  と高らかに宣言したのだ。この告白をきっかけに、悠真は高嶺さんと友達になり、高校生活が変化し始めていく。  大好きなおかずを作ってきてくれたり、バイト先に来てくれたり、放課後デートをしたり、朝起きたら笑顔で見つめられていたり。高嶺の花の高嶺さんとの甘くてドキドキな青春学園ラブコメディ!  ※2学期編4が完結しました!(2025.8.4)  ※お気に入り登録や感想、いいねなどお待ちしております。

You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】

てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。 変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない! 恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい?? You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。 ↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ! ※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

わたしたち、いまさら恋ができますか?

樹沙都
恋愛
藤本波瑠《ふじもとはる》は、仕事に邁進するアラサー女子。二十九歳ともなればライフスタイルも確立しすっかり独身も板についた。 だが、条件の揃った独身主義の三十路には、現実の壁が立ちはだかる。 身内はおろか取引先からまで家庭を持って一人前と諭され見合いを持ち込まれ、辟易する日々をおくる波瑠に、名案とばかりに昔馴染みの飲み友達である浅野俊輔《あさのしゅんすけ》が「俺と本気で恋愛すればいいだろ?」と、囁いた。 幼かった遠い昔、自然消滅したとはいえ、一度はお互いに気持ちを通じ合わせた相手ではあるが、いまではすっかり男女を超越している。その上、お互いの面倒な異性関係の防波堤——といえば聞こえはいいが、つまるところ俊輔の女性関係の後始末係をさせられている間柄。 そんなふたりが、いまさら恋愛なんてできるのか? おとなになったふたりの恋の行方はいかに?

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...