課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁

文字の大きさ
12 / 15
金目鯛の煮つけ

10

しおりを挟む
しばらく行くと、赤いお堂にたどりついた。

愛染あいぜん明王が祀られていると、課長が教えた。


「愛敬の佛さま。密教の明王ですね。愛染堂は、縁結びで有名なパワースポットです」

「縁結び……」


二人はそっと手を離し、お参りした。

冬美には、課長が何を願っているのか分かる気がした。



「では、そろそろ下りましょうか。電車の時間にちょうどいい」

「あ、はい」


二人は再び手を取り合い、ロープウェイ乗り場へと戻る。ナチュラルに繋がれたのは手だけではない。

冬美の体は、ぽかぽかした空気に包まれていた。





伊豆急下田駅17時21分発の電車に乗った。

二人掛けの席に並んで座ると、課長が到着までのルート案内をする。


「熱海で新幹線に乗り換えましょう。東京着は午後8時20分くらいですよ」

「はあ」


東京に着いたらお別れ。そう思うと冬美のテンションは下がり、がっかり感が声に表れてしまった。すると、


「よかったら、熱海で夕飯をたべましょうか。いい店を知っています」

「わっ、嬉しいです。ぜひぜひ!」


課長の提案に、声も表情もパッと明るくなる。

分かりやすいこの反応。冬美の心情はストレートに伝わっただろう。

彼の温もりが冬美の手を大らかに包み込み、思いを打ち明けられる。


「僕は、野口さんを好きになりました」

「……!」


ありえないほどドキドキする。このときめきは冬美の気持ちそのものだ。


「間宮さんからきみの話を聞いて以来、気になる女性ではありましたが、今日初めて直に話をして、強く惹かれました。きみにとっての幸せ。おそらくそれは、僕と同じ価値観だ。きみのことをもっと知りたい、話がしたい。そして今、ますます望みが深まっていく」


望み――


なんだかどきどきしてきた。冬美は彼が言わんとすることを、感覚で理解できる。


「野口冬美さん。僕と付き合ってくれませんか」


素直にうなずいた。なんの抵抗もない、自然なこたえ。


(私と課長の、ご縁……)


きちんと言葉にして伝えたい。

このときめきを。


「私も、あなたを好きになりました……大好きです!」





そして5か月後。

二人は結ばれ、夫婦になったのである――

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雨降る夜道……

Masa&G
恋愛
雨の夜、同じバス停で白いレインコートの女性が毎晩、誰かを待っている。 帰ってこないと分かっていても、 それでも待つ理由がある―― 想いが叶うとき―― 奇跡が起きる――

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

偽りの愛に囚われた私と、彼が隠した秘密の財産〜最低義母が全てを失う日

紅葉山参
恋愛
裕福なキョーヘーと結婚し、誰もが羨む生活を手に入れたはずのユリネ。しかし、待っていたのはキョーヘーの母親、アイコからの陰湿なイジメでした。 「お前はあの家にふさわしくない」毎日浴びせられる罵倒と理不尽な要求。愛する旦那様の助けもなく、ユリネの心は少しずつ摩耗していきます。 しかし、ある日、ユリネは見てしまうのです。義母アイコが夫キョーヘーの大切な財産に、人知れず手をつけている決定的な証拠を。 それは、キョーヘーが将来ユリネのためにと秘密にしていた、ある会社の株券でした。 最低なアイコの裏切りを知った時、ユリネとキョーヘーの関係、そしてこの偽りの家族の運命は一変します。 全てを失うアイコへの痛快な復讐劇が、今、幕を開けるのです。

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】

けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~ のafter storyです。 よろしくお願い致しますm(_ _)m

運命には間に合いますか?

入海月子
恋愛
スペイン建築が大好きな設計士 大橋優那(おおはし ゆな) 28歳        × せっかちな空間デザイナー 守谷翔真(もりや しょうま) 33歳 優那はスペイン建築を学ぶという夢が実現するというときに、空間デザイナーの翔真と出会った。 せっかちな彼は出会って二日目で優那を口説いてくる。 翔真に惹かれながらも、スペインに行くことが決まっている優那はその気持ちに応えられないときっぱり告げた。 それでも、翔真はあきらめてくれない。 毎日のように熱く口説かれて、優那は――

優しい彼

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の彼は優しい。 ……うん、優しいのだ。 王子様のように優しげな風貌。 社内では王子様で通っている。 風貌だけじゃなく、性格も優しいから。 私にだって、いつも優しい。 男とふたりで飲みに行くっていっても、「行っておいで」だし。 私に怒ったことなんて一度もない。 でもその優しさは。 ……無関心の裏返しじゃないのかな。

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

処理中です...