悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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一難去ったらまた一難……? 4

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 寮の部屋に戻るとベラにサボりがバレて怒られる可能性があるので、行先を考えつつ廊下を歩く。すると、急いで教室の方へと走ってくるサディアスが見えた。
 まだ授業の始まる時間では無いので、廊下にはそれなりの人が居たが、彼は何やら急いでいるようだった。

「おはよーサディアス」
「クレア!君、まさかもう教室に行ったんじゃないだろうな!!」
「行ったよ」
「っ……何をやってる!この、考え無し」
「まったくですっ!クレア!さすがに限度というものがあります!」
「ええ、私もさすがに焦りました」

 後ろから声がして振り返ると、チェルシーとシンシアが私達を追いかけてこちらへと向かってきているところだった。

「はぁ……とりあえず場所を変えよう、廊下にいては、目立ちすぎる」
「そうですね!」
「ええ、行きましょう」

 チェルシーは私の腕を掴み、シンシアはヴィンスの腕を掴んで逃がさないとばかりに、歩き出した。

 やはり寮に戻るとベラに怒られる可能性があると皆考えたのか、結局この時間に集まって話し合いができる場所となると、位置的に校舎からも遠くない食堂だろうと言うことになり、皆で歩いて向かっていく。すると、私たちと同じ事を考えているサボりのチームが居たようで、一番端の方の席に座っていた。

 それが、まったく別の学年の知らない人物であったなら良かったが、いろいろとアウトなチームコーディだった。

 全員で顔を見合わせ、考えることは、だいたいみんな同じなのだなと思いつつ、飲み物だけ買って練習場の脇の広場へと移動した。

 コーディは、いつもの物静かな彼に戻っていて、護衛達に囲まれながら、両手で飲み物をちびちびと飲んでいた。その様子はなんというか、多重人格か何かかもしれないと思わせるほどで、烈火の如く怒っていた彼は、癇癪持ちなのか、別のものなのか予想はつかなかった。

 広場へと移動すると、備え付けのベンチに、女性三人で座らせてもらい、ヴィンスとサディアスは私達の前に立った。

 先程買ってきた、冷たい紅茶を飲みながら、サディアスの表情を伺うと今日も今日もて眉間のシワが濃い。

「シンシア、チェルシー、クラスの様子はどうだった?」
「……平気な子もいたようですが、すぐに気分が悪くなる人や、魔法を発動している人が数名いました」
「コーディ様がやった事ですので、下手に、文句を言うべきでは無いような雰囲気があって!おかしな空気でした!」
「……」

 チェルシーもシンシアもしっかりと周りを見ていたようで感心する。私は、仲の良い人間がどういう反応をしたかぐらいしか覚えていない。
  
 ……それに魔法を使っている人が居たって事は、無意識に防衛反応で魔力が出て使ってしまうやつだろう。最近習ったばかりだが、それは相当、心や体にストレスがかからなければ、ならないものだとブレンダ先生は言っていた。

 つまり、それだけの思いをさせてしまったという事になる。

 サディアスは反応を聞いて考え込み、ため息をつく。いつも対応を考えてくれる彼には申し訳ないが、私には登校しないという方法しか思いつかない。

「サディアス様、とりあえず、ディック様が状況をブレンダ先生に説明してくれているはずです。クラスメイトの心の問題については、教師が考え対応するのが一番好ましいと私は思います」
「……ああ、そうだな」
「コーディ様につきましては、クレアに反応したというよりは、クラスメイト達の言葉が気に触ったように思えました。こちらも、教師が対応すれば支障なく学園生活がおくれるはずです」

 ヴィンスはニコニコしたまま、続ける、が、要は面倒ごとは教師が対応するべき案件なので、放っておいていいということらしい。
 少し投げやりな気もするが、言われてみればその通りな気もする。

 チェルシーとシンシアが、彼がちゃんと自分の意見をはっきり言っているのを見て、数秒置き私をバッと見た。適当に笑顔で返しておく。

「問題は、クレアの固有魔法をどのようなものだと思わせるかです」
「……そうだな。これほどの治癒は本来ありえない。ヴィンスとクレアの固有魔法の相性が良かった故の正直、奇跡のような回復だったんだが、これがクレア一人の力だと思われても困る、だからと言って本当のクレアの固有魔法が公になっても厄介だ」
「ええ、ですから───
「ちょっと待ってください!サディアス、ヴィンスっ!私達もまだ、クレアが無事だった魔法の詳細については聞かされていませんから!」
「そうですね、その説明からすべて洗いざらい話して貰わないことには、対策の立てようもありません」

 言われて二人はキョトンとして、それから、サディアスが魔力を使わせて、ヴィンスが他人を治す固有魔法だということ、そして私の固有魔法。

 すべての事を丁寧に二人に説明し、そして納得のいった二人は、ヴィンスに視線を集めた、視線を受けた彼は首を傾げる。

「じゃあなぜ、すぐにクレアを助けなかったんですか?」

 チェルシーはほんの些細な疑問として彼に問いかけた。

「そうですね。私も気になっていたんです、敵を倒した後ヴィンス、あなたはすぐに、クレアの元に向かったのに、あの惨劇が起きた、そもそもコーディ様がクレアを傷付けること自体を止められたと思うのですが……」

 シンシアも補足するように、ヴィンスに問う。彼は眉を寄せて、視線を落とした。

 多分、本当の事を言ったらドン引きされるような気がするが、ヴィンスはなんと言うんだろうかと気になって私も見つめる。

「不安……だったんです」

 ぽつりと心細そうに、ヴィンスは言った。
 それから、自分の腕をぎゅっと握って、視線をあげる。

「急なことでしたので、色々な感情が頭に浮かんで……クレアは私の事を家族だと仰いました。けれど、私は……家族愛を知りません」

 震えるような声に心臓がドキッとする、ついつい、私が教えてあげようか?と言いたくなるような、そんな儚さだ。

「そんな、絆より……私は、主従であった方が……安心……出来たんです」

 こころなしか、ヴィンスの瞳が潤んでいるような気がして、私が酷な選択を迫ったようにさえ錯覚する。

「でも、私が仕える事を望んでいても、きっとクレアは、色々なところでこういう無茶をするのかもしれない、と思うと、それもとても不安で……ですので、こうして今は、クレアをサポート出来るよう、自らの意思でおそばにいる事を決めました」

 悲しそうな表情から打って変わって、ヴィンスはにっこりと笑う。

「機会をくださったお二人にも感謝しています。踏み込む勇気をお二人からは貰ったような気がします」

 しっかりとお礼まで忘れずに言い切って、ヴィンスはサディアスの方へと向き直り、先程までの話の続きをし始める。
 ヴィンスの演説に、すっかり心を奪われてしまったチェルシーとシンシアは唖然として、それから、私の肩をぽんぽんと叩いた。

「う、ぅうっ、クレア、……感動ってこういうことを言うんですねっ!!」
「えぇ、……そんな、彼にそんな葛藤があったなんて……胸が苦しいです」

 チェルシーは目元をハンカチで抑えて、シンシアは胸を抑える。

 …………色々、ヴィンスに対して私も思うところがあるが、彼は割と策士で、頑固で、頭がいい。

 うら若い乙女達の心を掴むのなんて、実はヴィンスは、容易いんじゃないだろうか。まぁ、でもそれをわざわざ言うほど私は野暮じゃない。

「私も、ヴィンスが色々考えてるって最近知ったばっかりだから混乱してるけど、自分で選んでくれてすごく嬉しいよ」
「そうですよねっ!クレアの深い愛が伝わったのだと思いますよ!」
「きっとそうですね……作戦を聞いた時、すごく心配していたんです。でも、イレギュラーがあったけれど、クレアの作戦は成功しましたよね」
「うん、成功も成功!大成功だから。私からもお礼を言うよ、ありがとう、チェルシー、シンシア」

 両サイドに二人がいるので交互に見つつ、お礼を言うと、彼女達は私の手をそれぞれ握って、返答をする。

「どういたしましてっ!クレア」
「こちらこそ、無事でいてくれてありがとうございます、クレア」

 昨日の夜、サディアスとヴィンスと手を繋いで眠ったことを、思い出して、二人の手を強く握る。

 私の大切な友達、心配してくれて、協力してくれて、こちらの世界で広がっていく人との繋がりが、目に見えてわかったようなきがして、心の底から嬉しさが込み上げてくる。

 ……だからきっと……怖くないよね。

 今日はこの後、クラリスとエリアル先生のところに行かなければならない。彼らは私のルーツそのものだ。期待に添えない事をした。だから、会いに行くのが怖い。 
 でも、逃げてばかりも居られないんだ。ここにいるためにも。



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