193 / 305
体に宿った宿命……。5
しおりを挟む項を優しく撫でられて、思考がまとまらない。イライラしてきた。
「こんな事を言われても、君は自分が死ぬなんて信じられないんだろうねぇ、クラリス」
クリスティアンは憐れむようにそう言って、私の顔を覗き込む、顔に少し髪がかかって、瞳に影が差す。
「君は実力があったから、誰だって君の後をついてきた。力を失えばこうして、他人の食い物にされるのだと分からなかったのかなぁ」
ふっと、妙に、自虐的な笑みを浮かべて、その表情は少しだけ優しげだ。
実力が無いのはクリスティアンだって同じだ、それを自分自身で笑っているのだろう。……でも……そんなになのか。魔法を使って戦うこの力というのはそれほど重要なのか。
まぁ、今の私はだいたい初めからいつ死んだっておかしくなかったので、力だとか、そういうのを求める気持ちは分かるつもりだ。
「でも、少しは、他人に思い通りにされる気持ちが分からなければ、話も進まない」
そう言って彼は、先程同様私の腹に手を触れる。
どうやら少しは、態度を改めた方がいいみたいだ。
肌がゾワゾワと粟立って、目を瞑る。
「わかってる……わかっているから、お願い、やめて」
「……」
「っ…………」
まるで、百足とかそう言う気持ちの悪い虫が自分の肌を張っているような感覚だ。血の気が引く、私だって、確かに、他人と距離が近くても気にならないタイプだし、なんなら、ずっとひとりと言うのは寂しく思うのだが、嫌な相手にはめっぽうダメらしい。
嫌悪か、それとも押し殺していた恐怖からか、微かに体は震えて、顔をしかめる。
「……ひとつ提案があるんだ」
「……」
「私の物にならないかなぁ」
その強い瞳には、別に欲情だとかそういう物はなく、本当に私が欲しいのだと、そう言われているというのは何となくわかる。
それはつまり、多分だが、私の魔法じゃないかと思う。ミアとアイリがクリスティアンと密に協力する関係性にあるのならば、彼女たちには、固有魔法の授業の度に、同じグループで私の魔法を知る機会がある。
そしてバレないだろうと思い、私は割と、ディックやオスカーと魔法を使っていた。
もし、強化だと検討が着いているのなら、クリスティアンが積極的に私を手に入れたい理由は明らかだ。
「君の特殊な魔法が私は欲しいんだよ……私の実力は知っているね、君は何か、私に都合が良い固有魔法があるんじゃないかなぁ……それを私のために使ってくれると言うのなら、命を保証してあげよう」
「…………そういう話ね」
「あぁ、そうだよ君が欲しい。どうかな」
最後に出てきた、第三の選択肢ということか。
どうりで、私に選ばせる必要の無いことばかり言うと思った。
「……少しでも君が心を許してくれさえすれば、私の館で苦痛の無い毎日を送らせてあげると約束するよ」
「……心を許す?」
「さすがに、関係の無い女の子を囲うのは、妙な噂が立つからね」
緩く頬を撫でられて、体が固くなる。それで先程から、ネチネチと触っていたのだろう。
……確かにそれは、その三択の中からだったら、それを選ぶだろう。でも、何か嫌だなぁと思うだけで、クリスティアンからは、強い意志だとか、手段を選ばない危険な切羽詰まった感情は感じない。
「クリスティアン」
「ん?」
「貴方って、私が強情に拒絶し続けたら、どうする?」
何となく質問をした。私の知っている、強くて闘争心があって、厄介な人達は、多分、本命の選択を私自ら選ぶまで、絶対に手元から離したりしない。
「……誰かに適当に処理してもらうよ。あまり、悲痛な声を聞くのは好かないからねぇ」
「……なんかそんな気はしてた」
「優しげに見えるということかなぁ」
「うん、そういう事」
つまりは、彼は……私の手に負えない怖い人ではないと思う。というか、あわよくばという感じが否めないのだ。
「クリスティアンって、女の子が好きなの?」
「……愛らしいからねぇ、別に女性でなくても構わないし」
「人好きなんだね」
「……どうかなぁ。ただ、私は人より、好ましいと思う人物が多いだけだと思うよ。君の事も愛することができるし、その真反対の人間も愛することが出来ると自負してる」
まぁ、そういう人間は稀に居るだろう。きっと愛されて育ったのだろう彼は。
「……クリスティアン。私の固有魔法は相性があるけれど、バッチを取るために単発でだったら貸せるよ」
「……それほど都合のいいものなのかな?」
「割とね。……手を解いて、私、貴方自体は嫌いじゃないけど、やっぱりベタベタされるのは嫌なの」
そういうと、彼は少し驚いてそれから笑う。
「どうやら振られてしまったみたいだねぇ」
「うん、ごめんね。魅力的な話であるんだけど……」
そうだけれど、私はそれを選ぶわけにはいかないんだ。実質的に無理だしね。クリスティアンは私をクラリスだと思っているが、実際は違う、私がこの学園から姿を消したら、私はクラリスによって殺されてしまう。
だから元から私には、その選択肢は無いし、それに私はこの居場所がとても気に入っているんだ。
「私……この学園が好きだから、ここにいたいの」
「……ああ、それは…………少し分かるな」
力の抜けるような声でそう言って、彼は私の手を縛っていた紐を解く、それから、彼について行って寝室から出た。
部屋から出るとミアとアイリがソワソワとしながら、ソファに座っていて、ふと思い出して私ははだけた胸元を直して、クリスティアンも侍女ちゃんらしい子にワイシャツを貰ってそれを着る。
「紅茶でいいかなぁ、クラリス」
「うん……クラリスって呼ぶのやめてくれない? それあんまり好きじゃないから」
「へぇ、よく分からないが、わかったよ」
私がミアとアイリの目の前に適当に座ると、彼女たちはビクッと反応して、おずおずと私を見る。
確か、リアちゃんが私を襲った事、その時にもきちんと謝ってくれたので、そういう感性はしっかりしているらしい。
怒っているとは言わないけれど、どうにも気まずい。
「どうぞ……二人は悪くないからねぇ、私が無理無理やらせたんだよ」
紅茶が目の前に出てきて、クリスティアンがミアとアイリの分まで用意して彼女たちにもふるまった。こういう時に、身分の高い人が動いているのが新鮮でさらに、二人を庇うのにも少し驚いた。
「違うよ……ねぇミア」
「うん、アイリ」
二人は確認し合うようにそう言って、私に目線を向ける。
その視線は決意を孕んでいて、クリスティアンなんかよりも彼女たちは強い女性だと思う。
「クレア、いつも固有魔法の授業の時、貴方はディックかオスカーと魔法を使っていたでしょ?ね、アイリ」
「うん、私も、オスカーもディックもたまにすごく強い時があって、それは貴方と内緒話した後だって気がついてた」
「だから、割と早くわかってたの」
「貴方の魔法が、人を強くすること」
彼女たちは私から一切視線を離さない。そうだろうと思っていたが、やっぱりこの二人だったか。
「それから貴方の話を色々クリスから聞いたの、ね、アイリ」
「うん、状況は悪くて、クレアに価値を見出して守る人は少ないって事も聞いたよ、ね、ミア」
「そう、だから……私たちが計画したの、今回の事。クリスなら、クレアの魔法があれば、もっと強い地位が手に入るよ! 貴方の後ろ盾になるのにピッタリだし」
「それに優しいし、酷いことはしない。私達も、クレアをサポートする……だから、力を貸して欲しいの」
なるほど私が力を貸す代わりに、クリスティアンは私を庇護する。貴族派からすると、それは私にも彼にも利益のある取引だ。
それに確かにこの人は優しいみたいで、あまり面倒な人では無い。二人が彼を慕うのもわかる。
10
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています
幽霊じゃありません!足だってありますから‼
かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。
断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど
※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ
※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる