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体に宿った宿命……。4

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 ぼんやりとした意識が浮上する。危機感のさなか意識が飛んだからか、すぐに覚醒することが出来る。

 起きなければ、とまずは目を開けると眼前には、クラスで見慣れた顔がこちらに向いている。

 目を覚ました私に、少し彼は驚いたようで、目を見開いてそれから口を開く。

「おはよう……クラリス、今どういう状況かわかるかな」

 間近で、彼の紺碧の瞳と目が合って、私は面食らって、それから浮かべている笑みの理由に気がつく。

 どうやら、手が縛られているようで動かない。
 足は動くが、これでは逃走することだって出来ない。手は上にひとまとめにされていて、私の体はクッションによって上半身を起こされているような状態だった。

「混乱しているのかな、それとも、状況を把握しているところかな……まぁ、どちらでもいいんだけれどねぇ」

 そう言いつつ、彼は、私の胸元に手を伸ばしてくる。ひとつ、ひとつと彼は丁寧にワイシャツのボタンを外して行く。

「……やめて」

 彼は半裸で、ズボンだけは履いているが、上は何も着ていない。すぐにそういう事だとわかる。それに何故か部屋は薄暗く、何か変な香りまでする。
 花のような香りなのだが、少し臭いが強い。

 頭の真がくらくらするような香りに、思わず、眉間に皺を寄せる。

「……」
「やめてって、言ってるんだけど」

 クリスティアンは一切乱暴な事はせずに、緩く私の頬を撫でたり、鎖骨や肩に触れたりする。

 絶妙に、こちらの世界に来てされた、割と嫌だった記憶を思い出しつつ、薄暗い中でも、クリスティアンの事を睨みつける。彼は私が拒絶しているとわかっているのに、緩く腹を撫でたりキスをしたりする。

 唇を噛んで、気持ちを押し殺す。蹴り飛ばしてもいいだろうか。手は、引いてみても、感触は鉄ではなく紐っぽいが、どうにも外れそうにない。魔法玉も見当たらない。

「ねぇ……ねぇ、クリスティアン」
「ん?」
「目的は何……とにかくやめてくれない?」
「……」

 私が言うと、彼は少し動きを止めて、それからじっと私を見る。そして、彼は徐に私にキスをする。怒りが限界を突破した私は、彼の唇を、思い切り噛んだ。

 ぶつっと痛い音がして、彼は顔を離す。すると彼の唇から血が滲んで、それをペロッと舐めた。

 …………。

 クリスティアンは私をそのままじっと見て、少し首を傾げる。何が何だかまったく分からないのだが、お香が臭くて息が詰まるし、とっとと解放して欲しい。

 これ以上の事をするのならば、私は、多分全力で抵抗するだろう。ここらが限界だ。私の唇にも彼の血がついていたのか、少し鉄の味がして同じように私も舌なめずりをする。

 それから、来るなら来いとボコボコにしてやるような気持ちで彼を睨みつける。

 しばらく、沈黙の時間が続き、彼はふぅと息をつく。

 それからまた笑顔を浮かべた。

「これは、無理そうだねぇ」
「……」
「まってて、灯りをつけるから」

 それから彼は、立ち上がって、薄ぼんやりとお互いが認識出来る程度の暗さから、ある程度、部屋が明るくなるほどの灯りをつけた。ついでに窓も開ける。すると、その先は真っ暗で、また、ヴィンスに心配をかけてしまったと思う。

 窓を開けたおかげか、妙なお香の香りはましになって、やっと息が出来る。

「……はぁ…………で、これ外してくれない?」

 私がそう言うと、彼はベットに戻ってきて腰掛ける。それから私の主張に、ふふっと笑う。
 
「行為を拒否するのはいいとして、君は今、私に偉そうに出来る立場では無いということは、わかっていないみたいだねぇ」
「……」
「クラリス、君は相変わらずみたいだ」

 にっこり笑ってその藍の瞳を細くする。私をクラリスと呼ぶという事は、クラリスとして私をさらってきたという事だろう。ここは寮のクリスティアンの部屋?

 確かに私は、大きな事を言える立場じゃない。まさか、ミアとアイリを使ってこんな事をしてくるとは思っていなかったのだが、こうなってしまえば私はどうする事も出来ない。

 クリスティアンはそのゆるゆるとした喋り方で続ける。

「ローレンス殿下が君を庇護していると踏んで油断したんだろうけれど、実際は、君の守りは、私から見ればそれなりに隙はあったよ。君自身もとても弱くなっていたしねぇ」
「それで?どうするっていうの?」
「そう焦らないで、まだ私が話をしてるんだから」
「……」

 彼は自らの長い髪を結い直しながらつづける。

「それで、私は君を手に入れて見た。ミアとアイリには危害は加えないと約束しているからね、私は君に危害を加えてはいない」

 流し目でこちらを見る彼は、それなりにハンサムだ。それでも、この状態で危害を加えられていないと、果たして言えるのだろうか、それに同意を得られて私も拒絶していなかったら、この人、私をいいようにしていただろう。

 私が怯えて何も言えなくなっていても、そうだったはずだ、それは絶対危害を加えていると思う。声を大にして言いたかったが、さすがにこの話を深堀しても、時代背景的に私が大多数の考えでは無いし、今の話はそこじゃないので、睨むだけにとどめる。
 
「君をこのまま馬車にでも詰め込んで、実家に引き渡す、そうすると、君は勝手に私の知らないところで、死ぬなりなんなりすると思うけれど、正直どうしようか迷っているんだよ」
「…………?」

 迷っている?そもそも、この人たちの目的は、私をコーディに殺させて、呪いの力を得ることだろう。それだと、私は単に殺されるだけになってしまう。

「ふふっ、クラリスにもわかるように言ってあげようかなぁ…………つまり、私たちに取って、君を捉えたまま、コーディ様と取引するのは少しリスクが高すぎるという話になってね」
「……」
「だから、だったらいっそ、ローレンス殿下の求めるものを手に入れられなくするだけでもいいという結論に至ったんだよ」

 ふと、近づいて来て、彼は私の髪にふれる。普段であればすぐに距離を取ったのだが、今日だけはそうもいかない。

「流石に、ああして目をかけていると公言されると、面倒でねぇ。クラリス自ら、こちらに傾いてくれるのなら呪いの力を手にするのもやぶさかでは無いけれど、それとも君を殺すか、こちらはその二択でね」

 クリスティアンは微笑んで言う。つまり、シャーリーやクリスティアンと協力して、殺されるか、単に殺されるか、選べって……言ってるの?

 馬鹿な話だ、そんなの選べるわけが無い……ここから逃げ出せさえすれば……いいんでしょ。

 そうは思うが、今のままではただの女性の力だ、いくら引っ張ったって拘束は取れない。

 ……っ……どうする?協力するって口先だけで言っておく?それとも何か引き合いに出してみる?

 幸い彼は私に話をする間をくれるらしい。でも正直、クリスティアンの事なんてまったく分からない、ヘラヘラしてて好色で、謎にいちゃいちゃしてて、女の子と絡んでるイメージ以外ないのだ。

 今だって、私にベタベタ触ってくるし、なんなのだこの人は、何がしたいの?望んでいない相手に触られるのは不快なんだ。




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