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体に宿った宿命……。3
しおりを挟むまぁ、二人は仲良しだもんね。仲がいいのは良い事だ。
「そうだね。悪いことじゃないよね。単に……私も気が強いってだけか、だから、ちょっと噛み合わないように感じるのかも」
「まぁ、そうだろうね。だって僕も君のチームメイト、あくが強すぎて、たまになら喋りもするけどずっと一緒は勘弁だもん」
「え、そう?……全然、皆、普通だと思うけど」
年相応というか、普通にいい子達ばかりだ。年がら年中一緒にいるが、まったく苦にならないし、喧嘩だって初っ端ぶつかりあった以外はまったくしないぐらいだ。
「はぁ?まったくさぁ、オスカーなんかより、よっぽど話が通じないのが二人もいんじゃん、僕はあんな面倒臭い奴らはごめんだよ」
ディックは呆れたとばかりに、大袈裟に手振りをつけてそう言う。二人とは誰だろうか、ずっと敬語の女の子二人の方か、物静かな男の子達の方だろうか。どちらにしても面倒臭い……時もままあるが、話は通じている……と思う……。
「……そういえばさ、最近、ヴィンスになんか色々と意図的に邪魔されてるような気がするんだけど」
「邪魔って何を?」
「えっと…………お買い物とか、こ、交友関係の構築とか?」
「うわぁ、きっと束縛ってやつだよソレ」
「……いや、それとはなんか違うって言うか」
「何が違うんだよ」
「ん、うーんと」
言われて考える。私は最近、ああしよう、こうしようと立てている予定を何かと理由をつけて、ヴィンスじゃなくても、誰かしらに遮られることが多い。
例えば一人で食堂に行こうとすると、ララが現れて部屋で食べようと言ってきたり、クラリスのところに行こうと思っても、何故か人の常にいる談話室に謎に、クラリスがいたりと。
それが顕著にわかりやすいのがヴィンスなのだ。彼はだいたい私の予定を把握していて、それに加えて、私が何か別の事をやろうとしている時に、ヴィンスは敢えて、私がやろうとしている事とは別の事を提案してきたり、あと先程もあったのだがサディアスとの話を遮ったりする。
今までそんなふうに噛み合わなかった事は一度も無かったので何となく、妙だなと思うだけで、確信的な何かはない。単純にタイミングが悪かったりしているだけかもしれないので、なんとも言い表せないのだ。
「うーん……なんか、自由に出来ない感じっていうか……」
「ああ……それは……アレだよ。君がイレギュラーな事すると、隙ができるからだよ」
「隙? 私なんてだいたい隙だらけじゃない? そもそもつけ狙ってる人なんて……」
「え!……バッカじゃない?!気がついてないって事!?」
ディックが驚きつつ声を荒らげて私の方も驚いてしまう。
……気がついてないって?何?狙ってるって……。
そこまで考えて、パッとシャーリー達の事が思い浮かぶ。
「最近、君の周りが騒がしいって、クラス中みんな知ってるよ?!心当たりないわけ?!」
「あ、いや、あるよ、わかったって」
「いや、わかってないでしょ!! 君それを自由にできないって、一回怒られてきた方がいいよ!」
「う……そこまで? 私が知らないだけで……騒がしいの?」
よく分からないし、まったく実感もないのだがディックは深く頷いて言う。
「大人しく従っといた方がいいよ…………多分だけど、貴族に食ってかかったのが良くなかったんでしょ」
「うん……まぁ、多分それだと思うけど」
「貴族って面倒臭いし、何するか分からないから、君も警戒してた方がいいよ」
面倒臭いっていうのには、確かに同意だ。でも、ローレンスは少し私を庇ってくれたのだ。それなのに、周りの人間がみんな気が付くほど狙われているとは思わなかった。
……じゃあララや、クラリスが最近よく視界の端にいるのもそれ?
言われて見ればそんな気もしてくる。サディアスと話ができないのも、もしかして彼が貴族派という派閥に属しているから、ヴィンスが警戒しているのだろうか。
……そういう話なら……言っておいてくれれば…………いや、言われても、私はサディアスの情緒を優先する気がする。
ヴィンスもいよいよ私の扱いがわかってきたらしい。
「わかった……ありがとう。ディック」
でも、サディアスに限ってそんな事は無いよね?そもそもサディアスは私がどんな目に遭うか知っているはずだ、シャーリーにだって喧嘩を売っているし、貴族派に協力して、私の事を手篭めにしようなんて思ってない……よね?
そこまで考えてあれ?と思う。そもそもサディアスにとっての利になる事ってなんだろう。
彼は家の事、立場が弱い事で困っている。だから今、色々と大変だという話は聞いている。そしてめっぽう貴族派の狙いは私であり、もう既に、割と狙われている状態?らしい。
………………。
その大変の根本的な理由はララで、私がララと居ることをサディアスは怒ってて……。
あ、ミアとアイリがなんか手振ってる。
こっちに来いという意味だろうと思い、私はそちらに向かって歩き出す。
「ディック行ってくるね」
「……気をつけてね」
「うん? うん、怪我しないように頑張るよ!」
私がそう言うとディックは怪訝な顔をしつつ、見送ってくれる。何か話が噛み合っていないような気がしたけれど、私はあまり気にせずに、二人の方へと向かった。
到着すると、オスカーは少し気まずそうな顔をしていて、何かと思えば、ミアとオスカーが撃ち合っていたところ、魔法の発動が上手くいかずに、アイリがミアのスカート部分を破損させてしまったようだ。
「わあ……派手にやっちゃったね」
「そうなの、ミアごめんね。クレア悪いんだけど、腰に巻きたいからジャケットを借りてもいい?」
「悪いな……俺のだとその、嫌かと思ってな」
確かに、まあ、気にする人も居るのかなと思い、私はジャケットを脱ぐ。たまたまだったが、今日はミアとアイリの両方がジャケットを着ていない。だから私を呼んだのだろう。
抑えたまま移動するのも恥ずかしいと思うし、私は急いで自分のジャケットを渡した。するとちょうどよく、授業終了の鐘が鳴り響く。
最後の自由学習的な時間だったので、この鐘で今日の授業は終わりだ。
「どうぞ、後で返してくれればいいから、早くお部屋に戻って新しいのにしてきなよ」
「ありがとうっ、クレア!」
ミアはにっこり微笑んで、私に言う。オスカーはあまりこの場にいるのも悪いと思ったのか、みんなの武器を回収してくれる。
「俺はこれを返して来るから、なんかすまなかったな」
「ううん、いいの、私のミスだから、ね、ミア」
「うんうんもう少し練度をあげないとね、アイリ」
「わかった、また次の授業の時も一戦やろうな」
「うん」
オスカーは去っていき、それからひとつ間を置いて、おずおずとミアが言う。
「ねぇ、クレア」
ミアは少し危ういながらも裂けてしまったところをきっちりと隠せていて、私のジャケットを申し訳なさそうにキュッと腰に結ぶ。
やっと一日が終わって、辺りには緩い雰囲気が流れていた。
「ん?」
「あのね、この後少しアイリに用事があって、出来れば……寮までついてきてくれない?ね、アイリ」
「そうなの、そうしてくれると嬉しい、クレア」
「……いいけど」
それほど労力を使う事ではなかったし、それならすぐにジャケットを回収できる。私が了承すると二人はニコッと笑って、まだ授業が終わっても、打ち合いを続けている人達や、自分たちのチームメイトにも目も向けずに、少し早足で、歩いていく。
練習場の外廊下の方まで出て、それから二人は、同時にこちらを振り返り、先程までとは打って変わって、何も表情を浮かべずにこちらを見る。
ゆっくりと練習場の重たい扉が閉まっていく。私はすっかり気を抜いて、といてしまっていた魔法玉を起動しようと思ったが遅い。
何か……なんか辞めた方がいいよね。今、魔法使えないし……。
それに……先程ディックに言われたばかりだ。私の周りは騒がしいって、実際どんな事が起こっているのか分からない以上、急にそれが私に降り掛かっても私は対処出来る自信はない。言われたじゃないか、イレギュラーがあると隙ができるって。
「ミア!アイリ!ごめん、私用事があるんだった!」
「……」
「……」
「ジャケットは後でいいから!」
身をひるがえして、急いで練習場の扉へと手を伸ばす。
けれども、その手はむなしく空を切り、途端に視界は真っ白に染まって、体がふわりと浮く。
声も出せずに私の意識は、霧散した。
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