13 / 15
13
しおりを挟む誰にも許されない、復讐をされてもおかしくない最低な人間になった。もう、後戻りは出来ない、でもそれすら二人のせいだと思い込んだ、だって復讐以外のものを何も持たない存在にしたのは彼らなのだ。
だからルーシャはずっとずっと傷つけていい、ずっと復讐を続けていい。
「っ、あぁっ」
決壊したように泣き出すクリフ、それでも可哀想になんて思わなかった。
しかし、彼の隣からぎりっと歯ぎしりの音が聞こえて、跪いていたアンジェリカがすくっと立ち上がった。彼女の手にはキラリと光る小さなナイフが握られている。
「……」
それにはすぐにルーシャは怖いと思ったし、逃げようと思った。しかし、罪悪感が足を重くさせる。
「っ、し、死ねぇ!!」
女性らしからぬ野太い声が叫び散らす。勢いをつけてルーシャにナイフを突き立てるために走り出した。
視界は何故かスローに見えて、考える時間があった。
ゆっくりと迫ってくる必死の形相、きっと天罰に殺されるぐらいなら、やられる前にやるしかない、そんな風に考えての事だろう。
きちんと彼女は謝ったし筋は通った、彼女には正当性がある。
でもルーシャはどこにも行けないし、他に何もない、何も持っていなくて復讐のやめ方が分からない。どこまでもどこまでもこのまま一生彼らを苦しめて生きる未来以外が見えない。
その先にあるのは何か、考えない日はなかった。
……死ぬだけです。先には何にもありません。私は確実に死に向かっているだけです。
だったら、今、彼女に刺されるのとこの先もずっと苦しみ合って憎しみ合ってその末に死ぬのと何が違うだろう。
行き着く先が同じなら苦しみは少ない方がいいと思う。そう考えて、ただ目をつむった。逃げもせず、でも彼らを許せもせず、自分の人生に目をつむる。
……終わってしまってもいいんです。
最後に考えたのはそんな言葉だった。きっとすぐに衝撃が来て殺される。覚悟なんか決める暇もなかったけれど、また復讐の日々に戻るよりも、いま何もしない方がずっと楽で心が健やかだった。
「っ!!」
しかし、ぐっと襟首をつかまれて背後に引き込まれる。体が動いて反射的に目を開くと、入れ違いに前に出るユリシーズと眼鏡越しに目が合った。
彼は少し怒っているような責める様な瞳をしていた。
すれ違って前に出た彼はアンジェリカのナイフを簡単にいなしてバランスを崩して転ぶ彼女をほおってルーシャの方へとやってきた。
驚くルーシャの手を取って、無理やり引いて言った。
「走って!!」
滅多に大きな声を出さない彼の怒鳴り声に驚いて、いわれるがままに足を前に踏み出した。後は強く引かれるのに従って足を動かす。
走ることに向いていないヒールで何度も転びそうになりながらも階段を駆け上がる。
後ろからは「待ちなさい!!」と叫びながらアンジェリカが追いかけてきている。
追いついて絶対に殺してやるのだという強い意志をひしひしと感じて背筋がぞわりとした。
「っ、はっ、っ」
階段を上がり切ると息が切れて足が重たい、それでもユリシーズはルーシャの手を引いた。
刺されるのは痛くて怖いだろうけれどそれでも、ルーシャには刺されるだけの理由がある。これ以上やったら死んでしまうであろうことを今でも望んでる。
天罰を止められる気もしないし、許すとも口にできない。だから、こうなるのは仕方がないのにユリシーズはルーシャを助けた。
「ユ、ユリシーズ、っ、いいんですっ、もうっ」
助けられてもルーシャは結局、復讐の為に死ぬしかない。それ以外の選択肢がない。だったら今、死んだ方がずっといい。
傷つけあって生きるよりも自業自得で死んでしまいたい。
そんな風に思っての言葉だった。
久しぶりにこんなに走って肺が痛くて涙が出てきた。泣く資格もないのにボロボロと涙が出てくる。
なにに泣いているのか自分でもまったくわからない。
廊下を駆け抜けて自室の扉をユリシーズは乱暴に開いた。それからルーシャを連れて中に入って、ドアノブに自分の腰に差している剣を通して内にも外にも開かないようにする。
そんな彼の行動を視界に収めつつもルーシャは必死に息を整えて、剣を外してしまおうと彼の元へと向かった。
しかし、両肩をガシッと掴まれて無理やり向き合わされる。
いつもの気弱な笑顔ではなくルーシャを睨みつけて、口を開く。しかし、少し自分を落ち着けるように眼鏡をかるく押し上げてから、ふっと息を吐いてルーシャに向き合った。
「……ルーシャ、何がもういいの?!」
「っ」
「生きるための復讐なら、いくらでもやればいいよっ! 殺したっていい、俺だってクリフ様もアンジェリカも誰でも殺してもいい! それは正しくないかもしれないけど、君の苦しさを知らない人間は間違ってるなんて言えないから! どれだけやってもいい!」
落ち着こうとしながらも、口を開けばどんどんと気持ちが溢れてくるようで早口でまくし立てた。
とても辛そうな顔をしていて瞳は涙に濡れていた。
彼が言っていることはとんでもない暴論で、でも優しい言葉だった。
「でも、それはルーシャが生きるために必要な復讐だからだ!」
「……」
「やってルーシャの中で整理をして終わらせるための事ならいくらだってやっていいよ! でも、ルーシャ、君は君の人生を復讐だけにするつもり?」
ガンッと後ろで扉を引く音がする。剣が挟まっていて開くことは無いがアンジェリカがすぐそばまで来ている。
「そんなことしても、君は幸せになれないじゃないか! ここで終わらせるなんて悲しすぎるよ! 君は君の幸せを望んであげることは出来ないの?」
まるで、それを望むべきだとユリシーズが思って言うような言葉だ。しかし、そんなの分かっているし、ルーシャだってそう思っている。なれるものならなってみたい。
もてるものなら希望を持ちたい。
「ルーシャは愚直すぎるんだ! もういいじゃないか、もう苦しんだ君の事を君は忘れていいし、彼らを傷つけても当たり前だったし、簡単に考えて次にどんな風に生きようか考えたながら楽しく過ごしていいんだよ!」
……苦しんだ私を、私が忘れる、ですか。
必死に言い募るユリシーズの言葉は、ルーシャの中に積もって彼の珍しく必死そうな顔も、いつもは加減をしてくれるのに、そんなのを忘れて強くつかまれた力も、ルーシャを酷く揺さぶって苦しい。
「ルーシャ! ……ね、未来に進もう? これ以上、執着したらルーシャが傷つけられてしまうよ。君が満足するまで手出しはしないって決めてたけど、君が危ないんだったら俺は止めるよ」
それらはすべてルーシャを思いやっている言葉で間違うことなく、ルーシャの味方としてのユリシーズの優しさだった。
89
あなたにおすすめの小説
転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。
柚木ゆず
恋愛
前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。
だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。
信用していたのに……。
酷い……。
許せない……!。
サーシャの復讐が、今幕を開ける――。
婚約破棄ですって? 1回くらい復讐してもいいですよね?
tartan321
恋愛
王子様はいつでも自由奔放。
婚約も、そして、婚約破棄も。
1回くらい復讐したって、罰は当たりませんよね?
その後は、別の世界の住人に愛されて??
断罪するのは天才悪女である私です〜継母に全てを奪われたので、二度目の人生は悪逆令嬢として自由に生きます
紅城えりす☆VTuber
恋愛
*完結済み、ハッピーエンド
「今まで役に立ってくれてありがとう。もう貴方は要らないわ」
人生をかけて尽くしてきた優しい継母。
彼女の正体は『邪魔者は全て排除。常に自分が一番好かれていないと気が済まない』帝国史上、最も邪悪な女であった。
継母によって『魔女』に仕立てあげられ、処刑台へ連れて行かれることになったメアリー。
メアリーが居なくなれば、帝国の行く末はどうなってしまうのか……誰も知らずに。
牢の中で処刑の日を待つ彼女の前に、怪しげな男が現れる。
「俺が力を貸してやろうか?」
男は魔法を使って時間を巻き戻した。
「もう誰にも屈しないわ。私は悪逆令嬢になって、失った幸せを取り戻すの!」
家族を洗脳して手駒にする貴族。
罪なき人々を殺める魔道士。
そして、私を散々利用した挙句捨てたお義母様。
人々を苦しめる悪党は全て、どんな手を使ってでも悪逆令嬢である私が、断罪、断罪、断罪、断罪、断罪するのよ!
って、あれ?
友人からは頼りにされるし、お兄様は急に過保護。公爵様からも求婚されて……。
悪女ムーブしているのに、どうして回帰前より皆様に好かれているのかしら???
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
〇約十一万文字になる予定です。
もし「続きが読みたい!」「スカッとした」「面白い!」と思って頂けたエピソードがありましたら、♥コメントで反応していただけると嬉しいです。
読者様から頂いた反応は、今後の執筆活動にて参考にさせていただきます。
お飾りの側妃となりまして
秋津冴
恋愛
舞台は帝国と公国、王国が三竦みをしている西の大陸のど真ん中。
歴史はあるが軍事力がないアート王国。
軍事力はあるが、歴史がない新興のフィラー帝国。
歴史も軍事力も国力もあり、大陸制覇を目論むボッソ公国。
そんな情勢もあって、帝国と王国は手を組むことにした。
テレンスは帝国の第二皇女。
アート王ヴィルスの第二王妃となるために輿入れしてきたものの、互いに愛を感じ始めた矢先。
王は病で死んでしまう。
新しく王弟が新国王となるが、テレンスは家臣に下賜されてしまう。
その相手は、元夫の義理の息子。
現王太子ラベルだった。
しかし、ラベルには心に思う相手がいて‥‥‥。
他の投稿サイトにも、掲載しております。
嫌われ者の王弟殿下には、私がお似合いなのでしょう? 彼が王になったからといって今更離婚しろなんて言わないでください。
木山楽斗
恋愛
冷遇されていたフェルリナは、妹の策略によって嫌われ者の王弟殿下ロナードと結婚することになった。
色々と問題があると噂だったロナードとの婚約に不安を感じていたフェルリナだったが、彼は多少面倒臭がり屋ではあったが、悪い人ではなかっため、なんとか事なきを得た。
それから穏やかな生活を送っていた二人だったが、ある時ロナードの兄である国王が死去したという事実を知らされる。
王位を継承できるのは、ロナードだけであったため、彼はほぼなし崩し的に国王となり、フェルリナはその妻となることになったのだ。
しかし、フェルリナの妹はそれを快く思わなかった。
ロナードと婚約破棄しろ。そう主張する妹を、フェルリナはロナードの助けも借りつつ切り捨てるのだった。
婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~
鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アプリリア・フォン・ロズウェルは、王太子ルキノ・エドワードとの幸せな婚約生活を夢見ていた。
しかし、王宮のパーティーで突然、ルキノから公衆の面前で婚約破棄を宣告される。
理由は「性格が悪い」「王妃にふさわしくない」という、にわかには信じがたいもの。
さらに、新しい婚約者候補として名指しされたのは、アプリリアの異母妹エテルナだった。
絶望の淵に突き落とされたアプリリア。
破棄の儀式の最中、突如として前世の記憶が蘇り、
彼女の中に眠っていた「真の聖女の力」――強力な治癒魔法と予知能力が覚醒する。
王宮を追われ、辺境の荒れた領地へ左遷されたアプリリアは、
そこで自立を誓い、聖女の力で領民を癒し、土地を豊かにしていく。
そんな彼女の前に現れたのは、王国最強の冷徹騎士団長ガイア・ヴァルハルト。
魔物の脅威から領地を守る彼との出会いが、アプリリアの運命を大きく変えていく。
一方、王宮ではエテルナの「偽りの聖女の力」が露呈し始め、
ルキノの無能さが明るみに出る。
エテルナの陰謀――偽手紙、刺客、魔物の誘導――が次々と暴かれ、
王国は混乱の渦に巻き込まれる。
アプリリアはガイアの愛を得て、強くなっていく。
やがて王宮に招かれた彼女は、聖女の力で王国を救い、
エテルナを永久追放、ルキノを王位剥奪へと導く。
偽りの妹は孤独な追放生活へ、
元婚約者は権力を失い後悔の日々へ、
取り巻きの貴族令嬢は家を没落させ貧困に陥る。
そしてアプリリアは、愛するガイアと結婚。
辺境の領地は王国一の繁栄地となり、
二人は子に恵まれ、永遠の幸せを手にしていく――。
婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。
将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。
レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。
旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?
木山楽斗
恋愛
英雄の血を引くリメリアは、若くして家を継いだ伯爵の元に嫁いだ。
若さもあってか血気盛んな伯爵は、失言や失敗も多かったが、それでもリメリアは彼を支えるために働きかけていた。
英雄の血を引く彼女の存在には、単なる伯爵夫人以上の力があり、リメリアからの謝罪によって、ことが解決することが多かったのだ。
しかし伯爵は、ある日リメリアに離婚を言い渡した。
彼にとって、自分以上に評価されているリメリアは邪魔者だったのだ。
だが、リメリアという強力な存在を失った伯爵は、落ちぶれていくことになった。彼女の影響力を、彼はまったく理解していなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる