車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第十四章

「柊真の気持ち」

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 入院生活も明日で終わりを迎えると思うと清々しい。
 良はベッドの上で盛大に伸びをしながらそう感じた。空も青く、それなりに過ごしやすい気候。良は窓の外に思いを馳せた。
 早く外に出たい。
 そう思っていると、学校帰りの柊真が今日も今日とて見舞いに来てくれる。
「お疲れ様。今日はなにか変わったことあった? 」
 一週間の入院生活の間、柊真は毎日病室を訪れ、その度に学校であったことを話してくれる。否、正確には "書いてくれる" と言ったほうが正しいだろう。
 しかし、柊真は良の期待に反して首を横に振って困ったように笑ってみせた。
「そっか……まぁ、俺も明日で退院だし、いっか。あ、そうだ、宿研のときに言おうと思って言えなかったことがあるんだけど……」
 良の切り出しに柊真はキョトンとした顔で首を傾げる。
「今度さ、良かったら家に遊びに来ないか? 父さんや母さんも会いたがってるんだ。兄さんはわかんないけど……でも、兄さんもきっと許してくれるよ。どうかな? 」
 良はごく当たり前のように誘ったつもりだったが、柊真の目から涙が零れたのを見てギョッとする。
「あ……え、えっと……ご、ごめん。そんな泣かせるつもりじゃ……嫌なら別にいいから……」
 慌てて発言を撤回しようとすると、柊真は勢いよく首を横に振って、メモ帳になにかを綴る。
  "今まで良みたいに誘ってくれる友達がいなかったから驚いただけ" 
  "ありがとう、ぜひお邪魔させて" 
「……そっか……それなら、良かった……」
 良は柊真の過去をまだ知らない。
 失声症になってしまった理由もわからない。
 しかし、柊真がそこまで喜んでくれていることに嬉しく感じた。
 短い言葉だったが、良は優しく笑ってみせた。

 翌々日。
 退院してから一日が経った日。良は久しぶりに制服に身を包んで学校へと登校した。
「おはよう。退院おめでとう」
 保健室に入ると、緒方が笑顔で迎えてくれた。珍しく柊真も起きて嬉しそうに笑いながら待っていたが、まだ眠たそうな目をしていた。
「おはようございます。柊真、ありがとう。寝ててもいいのに……」
 良が苦笑いで言うと、柊真は大きな欠伸をして間仕切りのカーテンの中へと入っていく。
「それにしても、大きな怪我がなくて良かったよ。あれから色々な人に聞いて回ったんだけど、有力な情報が得られなくてね……君も落ちる直前のことは覚えてないんだろう? 」
 緒方の言葉に、良は俯き加減で話す。
「……はい。誰かといたのかもしれませんし、そもそも一人だったのかもしれません……」
 本当は覚えている。
 洋介が落としたのだ。しかし、良は直接洋介に確認したかった。良や柊真に対する悪意も、その理由も。
 ちょうどそのとき、朝のホームルームが始まる五分前のチャイムが鳴った。
 良は緒方にお礼を言って柊真と教室へ向かった。

第十四章 終
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