車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第十三章

「突き落としたのは……? 」

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 寒い、冷たい……。

 体が重い、沈んでいく……。

 誰か……助けて……。

「っ……!? 」
 突然現実に引き戻された体に、激しい痛みが走る。
 辺りを見渡せば、視界に映るのは心電図と白い天井、ベッド横にある点滴だった。
「……え? 」
 良は、今の状況を理解出来ずにいた。
 思わず間の抜けた声が出る。
 そこへちょうど入ってきたのは悠だった。
「良っ! 良かった! 気がついたんだな! 」
 涙ながらに近寄ってくる悠を良は驚いて見ていた。
「良、覚えてるか? お前川に落ちて……」
 思い出したくもない、と言った様子で話す悠に、良も頷いて言う。
「うん、覚えてる……」
 洋介と川の付近まで行ったこと、洋介に突き飛ばされ、車椅子から川に落ちたこと、担任の浅間に助けられたが再び意識を失ったこと……。
 しかし、良は洋介に突き飛ばされた事実を伏せた。川に落ちてしまった良を見ていた洋介の表情に、決して良を川に落とそうとして落とした訳ではないことに気がついていた。
 どうやら、洋介が良や柊真を嫌うのには理由がありそうだと、落ちる前の洋介との会話で思った。
 しかし、その理由がわからない。
 洋介の性格からして、聞いて素直に話すほど簡単にはいかないだろう。
「……なぁ、良」
 言いにくそうに口を開きかけた悠は、一度聞くかどうか迷ったように顔を歪め、俯いてからやはり聞こうと口を開く。
「……誰が、お前を川に落としたんだ? 」
 悠の問いも最もだろう。一人ではどうやったって川に落ちようがない。誰かに突き飛ばされるかしなければ。
「……それだけは、よく覚えていないんだ……」
我ながら都合の良いものだと思ったが、薄らと困ったように笑えば、悠は眉根を寄せて「そうか……」と言って俯いた。どうやらそれ以上聞いても無理だろうと思ったのだろう。そんな悠に、良は心の中で謝った。

 良が意識を取り戻してすぐ、両親も病室へ駆けつけ、医師から一週間の入院を知らされた。良としては内心面倒だとも思ったが、両親や悠のあまりの心配ぶりに、大人しく了承した。
 そして、入院して三日が経った頃、浅間が柊真を連れて見舞いに訪れた。
「やぁ。思っていたより元気そうだね。体調の方はどうだい? 」
 浅間に問われ、良は苦笑いで答える。
「はい、順調に回復していってると聞きました。それほど辛くはありません」
「そうか……良かった。ん? 柊真君、そんなとこにいては良君が顔を見られないよ。おいで」
 浅間の振り返ったほうを見れば、柊真が仕切り用のカーテンからこちらを心配そうにうかがっているのが見えた。
「柊真、来てくれてありがとう」
 入りづらそうにしていた柊真に笑いかければ、柊真はゆっくりと良の傍まで来て、涙を目の端に浮かべながら何度も頷く。その様子に、良は心底驚いた。確かに自分たちは友達だ。しかし、柊真が学校の中の誰よりも自分を心配してくれていたことがわかった。
「……ありがとう。柊真……」
 良は、そんな柊真に改めて心からの礼を言った。

第十三章 終
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