車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

文字の大きさ
14 / 25
第十四章

「柊真の気持ち」

しおりを挟む
 入院生活も明日で終わりを迎えると思うと清々しい。
 良はベッドの上で盛大に伸びをしながらそう感じた。空も青く、それなりに過ごしやすい気候。良は窓の外に思いを馳せた。
 早く外に出たい。
 そう思っていると、学校帰りの柊真が今日も今日とて見舞いに来てくれる。
「お疲れ様。今日はなにか変わったことあった? 」
 一週間の入院生活の間、柊真は毎日病室を訪れ、その度に学校であったことを話してくれる。否、正確には "書いてくれる" と言ったほうが正しいだろう。
 しかし、柊真は良の期待に反して首を横に振って困ったように笑ってみせた。
「そっか……まぁ、俺も明日で退院だし、いっか。あ、そうだ、宿研のときに言おうと思って言えなかったことがあるんだけど……」
 良の切り出しに柊真はキョトンとした顔で首を傾げる。
「今度さ、良かったら家に遊びに来ないか? 父さんや母さんも会いたがってるんだ。兄さんはわかんないけど……でも、兄さんもきっと許してくれるよ。どうかな? 」
 良はごく当たり前のように誘ったつもりだったが、柊真の目から涙が零れたのを見てギョッとする。
「あ……え、えっと……ご、ごめん。そんな泣かせるつもりじゃ……嫌なら別にいいから……」
 慌てて発言を撤回しようとすると、柊真は勢いよく首を横に振って、メモ帳になにかを綴る。
  "今まで良みたいに誘ってくれる友達がいなかったから驚いただけ" 
  "ありがとう、ぜひお邪魔させて" 
「……そっか……それなら、良かった……」
 良は柊真の過去をまだ知らない。
 失声症になってしまった理由もわからない。
 しかし、柊真がそこまで喜んでくれていることに嬉しく感じた。
 短い言葉だったが、良は優しく笑ってみせた。

 翌々日。
 退院してから一日が経った日。良は久しぶりに制服に身を包んで学校へと登校した。
「おはよう。退院おめでとう」
 保健室に入ると、緒方が笑顔で迎えてくれた。珍しく柊真も起きて嬉しそうに笑いながら待っていたが、まだ眠たそうな目をしていた。
「おはようございます。柊真、ありがとう。寝ててもいいのに……」
 良が苦笑いで言うと、柊真は大きな欠伸をして間仕切りのカーテンの中へと入っていく。
「それにしても、大きな怪我がなくて良かったよ。あれから色々な人に聞いて回ったんだけど、有力な情報が得られなくてね……君も落ちる直前のことは覚えてないんだろう? 」
 緒方の言葉に、良は俯き加減で話す。
「……はい。誰かといたのかもしれませんし、そもそも一人だったのかもしれません……」
 本当は覚えている。
 洋介が落としたのだ。しかし、良は直接洋介に確認したかった。良や柊真に対する悪意も、その理由も。
 ちょうどそのとき、朝のホームルームが始まる五分前のチャイムが鳴った。
 良は緒方にお礼を言って柊真と教室へ向かった。

第十四章 終
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...