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第十五章
「縁」
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車に乗っていつものように学校へと向かっていた良は、窓の外を見て静かにため息をつく。
「どうした? 良」
それをルームミラーで見ていたのか、父親である秀が問いかけてくるが、良は慌てて首を横に振り、「なんでもない」と言う。
まさか宿泊研修のときに自分を突き落とした洋介のことを考えていたなど言えるはずもない。
朝のホームルーム五分前のチャイムが鳴ると同時に教室に入った良は、ちらりと教室の一番前の席にいる洋介を見る。相変わらず取り巻きに囲まれている洋介に、疑問ばかりが浮かぶ。
周りに取り巻きが集まる者は一人になるとなにもできないケースが多いと良は感じている。中学校時代にも少なからずそういう者がいた。
では洋介もそうなのだろうかと考えてみれば、洋介と二人きりになったのは宿泊研修のあの時だけだ。
良や柊真に対する激しい敵対心。それがどこから来るものなのか、良や柊真以外の障害を持つ者にも同じ感情を抱くのか。
どちらにせよ、洋介との接点がまだ少なすぎる良の思考はそこで止まってしまった。
二時限目終了のチャイムが鳴ると、良は教室を出て保健室へと向かった。
今日は珍しく柊真が起きてこられなかったため、迎えに行くところだった。
引き戸を開けて中に入ると、緒方が笑顔で迎えてくれる。
「やぁ。柊真君を迎えに来てくれたの?」
良が緒方の言葉に頷くと、緒方は「ありがとう」と言って間仕切りのカーテンの中へと入っていく。
「柊真君、次三時間目だよ。起きれそう?」
良が待っていると、まだ眠たい目を擦りながら柊真が起きてきた。良の姿を見て嬉しそうに笑う。
一瞬、柊真に犬のような尻尾が見えたような気がしたのは気のせいだろうか……。
「おはよう、柊真。大丈夫か? 」
良の問いに柊真は苦笑いで頷いた。
それに良も安心し、二人で教室に戻ることにした。
放課後。良は柊真と二人で静かな図書室にいた。
お互いに親の迎えを待っているところだったのだが、本を読んでいた良は突然なにかを思いついたかのようにブレザーのポケットからスマートフォンを取り出した。
「……? 」
柊真はそれを首を傾げて見ていたが、良は小説投稿ができるアプリケーションを開き、慣れた手つきで文章を打っていく。
「……ん? なに? 」
柊真に肩を叩かれて良が顔を上げると、柊真がちぎったメモ帳を渡してくる。
"小説書いてるの?"
「ああ……うん。駄作だけど、小学生のときに初めて書き始めたんだ。これは三作目。こんなアプリがあるなんて思いもしなかった……」
スマートフォンを覗き込んだ柊真は驚きに目を見開く。
自分の投稿した作品が一覧になって映る画面に並んでいたのは、柊真がずっと好きで読んでいた "良縁" の作品だった。
柊真の驚きぶりに、良は首を傾げて問う。
「……どうか、した? 」
良の問いにも答えられず柊真は少しの間固まっていたが、やがて慌てて良と同じアプリケーションを開き、 "お気に入り" という画面を見せる。
「……え?これ、俺の……」
驚いている良の呟きに、柊真は力強く頷いて、メモ帳に急いで書いて見せる。
"僕は、良の小説が好きだ"
"良の小説は、僕を楽しい気持ちにさせてくれた"
柊真は出てくる言葉を出来る限り良に伝えていく。物語の感想や魅力を感じた部分、SNSで良のアカウントを見つけてから嬉しかったことなど、出てくる言葉全てを伝えた。
書かれてはちぎられていくたくさんのメモ帳を見て、良はくすぐったい気持ちになった。
小説投稿を始めて、これほど自分の作品を好きだと言ってくれた人はいないだろう。
柊真の良の作品に対する気持ちは、どれも真っ直ぐで、良の心にすっと入っていった。
人と人との "縁" は不思議だと初めて感じた。
その日、二人は迎えが来るまで小説のことについて語った。
相変わらず筆談での会話だったが、それは二人にとってなんら障害にはならなかった。
第十五章 終
「どうした? 良」
それをルームミラーで見ていたのか、父親である秀が問いかけてくるが、良は慌てて首を横に振り、「なんでもない」と言う。
まさか宿泊研修のときに自分を突き落とした洋介のことを考えていたなど言えるはずもない。
朝のホームルーム五分前のチャイムが鳴ると同時に教室に入った良は、ちらりと教室の一番前の席にいる洋介を見る。相変わらず取り巻きに囲まれている洋介に、疑問ばかりが浮かぶ。
周りに取り巻きが集まる者は一人になるとなにもできないケースが多いと良は感じている。中学校時代にも少なからずそういう者がいた。
では洋介もそうなのだろうかと考えてみれば、洋介と二人きりになったのは宿泊研修のあの時だけだ。
良や柊真に対する激しい敵対心。それがどこから来るものなのか、良や柊真以外の障害を持つ者にも同じ感情を抱くのか。
どちらにせよ、洋介との接点がまだ少なすぎる良の思考はそこで止まってしまった。
二時限目終了のチャイムが鳴ると、良は教室を出て保健室へと向かった。
今日は珍しく柊真が起きてこられなかったため、迎えに行くところだった。
引き戸を開けて中に入ると、緒方が笑顔で迎えてくれる。
「やぁ。柊真君を迎えに来てくれたの?」
良が緒方の言葉に頷くと、緒方は「ありがとう」と言って間仕切りのカーテンの中へと入っていく。
「柊真君、次三時間目だよ。起きれそう?」
良が待っていると、まだ眠たい目を擦りながら柊真が起きてきた。良の姿を見て嬉しそうに笑う。
一瞬、柊真に犬のような尻尾が見えたような気がしたのは気のせいだろうか……。
「おはよう、柊真。大丈夫か? 」
良の問いに柊真は苦笑いで頷いた。
それに良も安心し、二人で教室に戻ることにした。
放課後。良は柊真と二人で静かな図書室にいた。
お互いに親の迎えを待っているところだったのだが、本を読んでいた良は突然なにかを思いついたかのようにブレザーのポケットからスマートフォンを取り出した。
「……? 」
柊真はそれを首を傾げて見ていたが、良は小説投稿ができるアプリケーションを開き、慣れた手つきで文章を打っていく。
「……ん? なに? 」
柊真に肩を叩かれて良が顔を上げると、柊真がちぎったメモ帳を渡してくる。
"小説書いてるの?"
「ああ……うん。駄作だけど、小学生のときに初めて書き始めたんだ。これは三作目。こんなアプリがあるなんて思いもしなかった……」
スマートフォンを覗き込んだ柊真は驚きに目を見開く。
自分の投稿した作品が一覧になって映る画面に並んでいたのは、柊真がずっと好きで読んでいた "良縁" の作品だった。
柊真の驚きぶりに、良は首を傾げて問う。
「……どうか、した? 」
良の問いにも答えられず柊真は少しの間固まっていたが、やがて慌てて良と同じアプリケーションを開き、 "お気に入り" という画面を見せる。
「……え?これ、俺の……」
驚いている良の呟きに、柊真は力強く頷いて、メモ帳に急いで書いて見せる。
"僕は、良の小説が好きだ"
"良の小説は、僕を楽しい気持ちにさせてくれた"
柊真は出てくる言葉を出来る限り良に伝えていく。物語の感想や魅力を感じた部分、SNSで良のアカウントを見つけてから嬉しかったことなど、出てくる言葉全てを伝えた。
書かれてはちぎられていくたくさんのメモ帳を見て、良はくすぐったい気持ちになった。
小説投稿を始めて、これほど自分の作品を好きだと言ってくれた人はいないだろう。
柊真の良の作品に対する気持ちは、どれも真っ直ぐで、良の心にすっと入っていった。
人と人との "縁" は不思議だと初めて感じた。
その日、二人は迎えが来るまで小説のことについて語った。
相変わらず筆談での会話だったが、それは二人にとってなんら障害にはならなかった。
第十五章 終
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