37 / 44
36 ツンからの照れ隠し 藤代side
しおりを挟む
学園に到着した救急車に千雪は乗せられた。俺も同行し、藤代総合病院に運んでもらう。あらかじめ電話で両親に連絡を取って、病室を確保してもらった。
俺の大切な友達が暴行されたと言ったら、ともに医者である両親は精密検査をすると言ってくれて。
病院についたら、しっかりと調べてくれた。
後遺症が残ったら大変だからな。千雪の白い肌にひとつの傷も残したくない。
そして千雪は藤代総合病院の中でも最上級な病室である特別室にひと晩入院することになった。
連絡を受けた千雪の両親がすぐに駆けつけて、千雪になにがあったのか聞いている。
俺も、教師も警察も、それは知りたいことだった。
だが、千雪はそのことについて一言も話してくれなかったのだ。
なぜ? おおよその想像はついているけど、千雪の口から犯人が誰なのかを言ってもらいたかった。
でも結局、面会時間を過ぎて両親が帰宅するまで、千雪は事件のことを話しはしなかったのだ。
完全看護なので、面会時間が過ぎたあとは誰も付き添えない。
でも俺は、ひと晩、千雪のそばについているつもりだった。
まぁ、病院の息子の特権だよ。
「君は、やることがいちいち大袈裟だな。この病室って、政治家がお忍びで入院するときに使う個室だろ? うちは庶民なんだから、こんな病室用意されても困るよ。母さん、ビビっていた」
少し頭を起こしたベッドに横になっている千雪は、呆れた様子で言った。
「入院費のことは気にしないで。俺が勝手に手配したし、うちの両親も俺の親友が傷つけられるなんて一大事だってさ、率先して検査をしてくれたんだ」
千雪の怪我は、髪の生え際の傷を二針縫っただけで済んだ。つか、跡の残る怪我とか、マジで叫び散らかしたいほどムカつくけどな。
命に別状はないということだけ良かったと思える。
気絶をしていたから脳のダメージを心配したが、それは大丈夫のようで。
あと、あちこち打撲があり腹も蹴られたようだけど、内臓の損傷もないようで。まぁ、ひと安心だ。
それでも急変が怖いので、モニターチェックはしている。
「藤代のお友達特権、ありがたいことだ」
「恋人って言ったら、もっと手厚く診てもらえたかな? 今からでも訂正しようか」
「バカか。二度とこの病院使えなくなるからやめてくれ」
「また、この病院に来てくれるのか?」
「……選択肢は多いほうが良いだろ」
額に大きなガーゼが当てられ、頭に包帯を巻いている千雪は痛々しいけど。
ツンからの照れ隠しで、右の指先を鼻の頭に当てるのが、可愛い。
眼鏡のつるを押し上げる仕草だ。
でも、そういえば千雪の代名詞である眼鏡がないな。
「眼鏡、どうした?」
彼のベッドのかたわらにある椅子に座っている俺は、千雪にたずねた。
なくした場所に心当たりがあれば、取ってくるつもりだったのだが。
千雪はチョンと首を傾げた。
「さぁ。顔を蹴られたときに、どっか飛んだ」
のんきな感じで言うが、俺はその場面を想像して血の気が下がった。
そして猛烈な怒りで血が沸騰した。
千雪をこんな目に合わせた者への憤怒、千雪の体が心配なこと、不快で苦しく重い感情が、胸の中にぐちゃぐちゃと渦巻いた。
「あぁあぁ、ネガティブオーラをまき散らかさないでくれ。君の感情は周りに影響を及ぼすんだぞ」
俺の剣呑な感情をいち早く察知した千雪が、俺を注意するけど。
「だって、なにがあったのか千雪が教えてくれないからっ。つか、千雪が言わなくても大体のことはもうわかっているんだからな。だから、言ってくれ」
「大体わかっているのなら、僕が言わなくたっていいだろ」
そう言って、千雪は小さな口をムッとへの字にする。
そうだけどぉ。その可愛い唇が可愛くて可愛いんだけどぉ。
高瀬が関与しているのは察している。だがその詳細を知りたいのだ。
もどかしい気持ちで俺は千雪をみつめるが、彼はそっと目を伏せた。
「それより僕たち、もっと大事な話をしなきゃいけなかったはずだ」
その言葉に、俺はハッとして、背筋を伸ばす。
誰が千雪を傷つけたのか、それはとても重要なことだけど。
俺たちにはそれよりも最優先にするべき話があった。
千雪と向き合うと決めたのだ。なにを言われても、受け止めると。
俺はうなずいて、しっかりとした視線を千雪に向けた。
俺の大切な友達が暴行されたと言ったら、ともに医者である両親は精密検査をすると言ってくれて。
病院についたら、しっかりと調べてくれた。
後遺症が残ったら大変だからな。千雪の白い肌にひとつの傷も残したくない。
そして千雪は藤代総合病院の中でも最上級な病室である特別室にひと晩入院することになった。
連絡を受けた千雪の両親がすぐに駆けつけて、千雪になにがあったのか聞いている。
俺も、教師も警察も、それは知りたいことだった。
だが、千雪はそのことについて一言も話してくれなかったのだ。
なぜ? おおよその想像はついているけど、千雪の口から犯人が誰なのかを言ってもらいたかった。
でも結局、面会時間を過ぎて両親が帰宅するまで、千雪は事件のことを話しはしなかったのだ。
完全看護なので、面会時間が過ぎたあとは誰も付き添えない。
でも俺は、ひと晩、千雪のそばについているつもりだった。
まぁ、病院の息子の特権だよ。
「君は、やることがいちいち大袈裟だな。この病室って、政治家がお忍びで入院するときに使う個室だろ? うちは庶民なんだから、こんな病室用意されても困るよ。母さん、ビビっていた」
少し頭を起こしたベッドに横になっている千雪は、呆れた様子で言った。
「入院費のことは気にしないで。俺が勝手に手配したし、うちの両親も俺の親友が傷つけられるなんて一大事だってさ、率先して検査をしてくれたんだ」
千雪の怪我は、髪の生え際の傷を二針縫っただけで済んだ。つか、跡の残る怪我とか、マジで叫び散らかしたいほどムカつくけどな。
命に別状はないということだけ良かったと思える。
気絶をしていたから脳のダメージを心配したが、それは大丈夫のようで。
あと、あちこち打撲があり腹も蹴られたようだけど、内臓の損傷もないようで。まぁ、ひと安心だ。
それでも急変が怖いので、モニターチェックはしている。
「藤代のお友達特権、ありがたいことだ」
「恋人って言ったら、もっと手厚く診てもらえたかな? 今からでも訂正しようか」
「バカか。二度とこの病院使えなくなるからやめてくれ」
「また、この病院に来てくれるのか?」
「……選択肢は多いほうが良いだろ」
額に大きなガーゼが当てられ、頭に包帯を巻いている千雪は痛々しいけど。
ツンからの照れ隠しで、右の指先を鼻の頭に当てるのが、可愛い。
眼鏡のつるを押し上げる仕草だ。
でも、そういえば千雪の代名詞である眼鏡がないな。
「眼鏡、どうした?」
彼のベッドのかたわらにある椅子に座っている俺は、千雪にたずねた。
なくした場所に心当たりがあれば、取ってくるつもりだったのだが。
千雪はチョンと首を傾げた。
「さぁ。顔を蹴られたときに、どっか飛んだ」
のんきな感じで言うが、俺はその場面を想像して血の気が下がった。
そして猛烈な怒りで血が沸騰した。
千雪をこんな目に合わせた者への憤怒、千雪の体が心配なこと、不快で苦しく重い感情が、胸の中にぐちゃぐちゃと渦巻いた。
「あぁあぁ、ネガティブオーラをまき散らかさないでくれ。君の感情は周りに影響を及ぼすんだぞ」
俺の剣呑な感情をいち早く察知した千雪が、俺を注意するけど。
「だって、なにがあったのか千雪が教えてくれないからっ。つか、千雪が言わなくても大体のことはもうわかっているんだからな。だから、言ってくれ」
「大体わかっているのなら、僕が言わなくたっていいだろ」
そう言って、千雪は小さな口をムッとへの字にする。
そうだけどぉ。その可愛い唇が可愛くて可愛いんだけどぉ。
高瀬が関与しているのは察している。だがその詳細を知りたいのだ。
もどかしい気持ちで俺は千雪をみつめるが、彼はそっと目を伏せた。
「それより僕たち、もっと大事な話をしなきゃいけなかったはずだ」
その言葉に、俺はハッとして、背筋を伸ばす。
誰が千雪を傷つけたのか、それはとても重要なことだけど。
俺たちにはそれよりも最優先にするべき話があった。
千雪と向き合うと決めたのだ。なにを言われても、受け止めると。
俺はうなずいて、しっかりとした視線を千雪に向けた。
134
あなたにおすすめの小説
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる