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39 とうとう捕まってしまった 穂高side
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検査で異常なしという診断が出て、僕は翌日の午前中には退院した。
家に帰って、自室のベッドで横になっていると、昨夜のことを思い出してしまう。
藤代と、いっぱい話をした。
彼のすべてを許したわけではない。むしろ、許せない気持ちも妬みもいまだ胸の中にくすぶっている。
おおよそ、好きと嫌いの割合は、半々だ。
そんな僕を恋人にできるのかと聞いたら、藤代はできると即答した。
えぇぇ、マジか?
でも。藤代は、乱暴したことに関しては本当に後悔していて、謝罪に次ぐ謝罪で、反省しているようなので。
許しはしないけど、いつまでも根に持っていたら可哀想な気もして、まぁ、目をつぶってやってもいいってところか。
それに、泣いて泣いて、目蓋は赤く腫れちゃって、頬は紅潮して涙でガサガサ。そんなぐちゃぐちゃな顔を見せられちゃったら、さすがに僕もわかっちゃうというか…いわゆる、藤代が僕のことを本気で好きなのだということを、だけど。
自分に好意を持つ者を、無下にはできないじゃないか。
だから、まぁ、好きの割合を少し多くしてもいいかなって。思っちゃうわけだ。
それに、鼻をすすってぐちょぐちょの情けない顔でも、やはり藤代は格好良いと思うのだから、僕も結構彼のこと好きなのかなと感じちゃったりして。
あぁああ、とうとう捕まってしまったな。
僕は、藤代の泣き虫攻撃に弱いのかもしれない。
そんなことを思いつつ、退院した日は家でのんびり休んで。
土日を挟んで、月曜日。
僕は学園に車で登校した。
藤代のお母さんが車で送ってくれたんだ。
すみません、どうせ藤代が無理を言ったんでしょう?
「頭に絆創膏を貼っているだけだから、電車通学できるのに…」
車の中でそう言ったら、藤代は無理無理無理…と言い続けた。
いや、無理かどうかは僕が決めるので。
ともかく。今日のところは藤代のお母さんに甘えて、車に乗せてもらったわけだ。
スペアのメガネは黒ぶちで、少し印象が重いのだが、頬の痣が目立たないからまぁいいかというところ。
そして学園の駐車場で僕と藤代は降車して、昇降口に向かう。
すると玄関口のホールで、萩原先輩と深見先輩が待ち構えていた。
「おはよう、穂高くん。もう大丈夫なの? 怪我は? まだ痛い?」
心配そうな面持ちで、萩原先輩は触るようで触らないオロオロと手をさ迷わせる動きを見せた。
「御心配をおかけしました。もう大丈夫です」
脳震盪を起こしたけど、休んでいた三日の間に異変はなく、後遺症もなかった。
顔と体の打ち身の痣と、二針縫った額の怪我だけ、まだほんの少し痛いけど、痛み止めを飲むほどでもない。
「学園長室に警官が来ているよ。穂高くんから話を聞きたいらしいから、ふたりともこのまま行ってくれ」
深見先輩に言われ、僕はちょっと口を引き結ぶ。
あのこと、言いたくないんだよね。
そんな僕を見て、深見先輩は続けて言った。
「君がどういう想いで誰をかばっているのかは知らないが、王様の意を汲めないやつは排除していいんだよ」
深見先輩はにっこり笑っているけれど、目は笑っていなかった。
強行的で盲目的なその言葉に、僕はギョッとしてしまう。
「君は王様がどういう人間か知っているはずだ。それを承知で王様のそばにいると決めたんだろう? 副会長になったというのはそういうことだ。だったら、わかるよね? 王様の不利益になる人物は、誰もが許さないということを。生徒だけじゃない。教師も警察も…誰もが、だよ」
彼の話を聞き、僕は思い出していた。
藤代から逃げることばかりを考えていたとき、味方は誰もいないと感じたことがあった。
彼が望めば、すぐになにもかもが明らかになる。
僕がどこへ逃げても、絶対に誰かがなにかを見ていて、その情報はすぐに藤代に伝えられてしまうだろうから。
「無駄なことはするな…ってことですね?」
「まぁまぁ、気負わずに、がんばって」
深見先輩と萩原先輩が僕の肩を軽くぽぽぽんと叩いて、その場を去っていった。
僕と藤代は並んで学園長室へと向かうけど、その間、彼は神妙な面持ちをしていた。
「千雪は俺が強引なことをするの、好まないだろうけど。俺、この件に関しては暴君になる。千雪を傷つけたやつらをどうしても許せないんだ」
藤代が許せないと言う。
それは、周りのすべての者も、許さないってこと。
「僕が許しても、許せない?」
「あぁ、許せない」
断固という意志を彼に感じる。では、自分は太刀打ちできないな。
抗えぬ大きな力を彼は持っているのだ。僕はあきらめのため息を漏らすしかない。
「証拠は出揃っている。だから、たぶん千雪がなにも言わなくても、彼らは処分されるよ。でも俺は、千雪から真相を聞きたい。あの日になにがあったのか、すべてを話してほしい」
今までの藤代なら、話せと僕に命令しただろう。
でも今は、僕の気持ちを尊重して、話してほしいと願いを述べた。その彼の歩み寄りは嬉しかった。
「話さなくてもいいのか?」
「強要はしない。でも、できれば聞きたい」
「証拠はどんなもの?」
「目撃者証言、防犯カメラ映像…そして、自供」
微妙な間を感じ、僕はピンときた。もしかして…。
「君が自白させた?」
「そうだ」
即座に彼は認めた。
家に帰って、自室のベッドで横になっていると、昨夜のことを思い出してしまう。
藤代と、いっぱい話をした。
彼のすべてを許したわけではない。むしろ、許せない気持ちも妬みもいまだ胸の中にくすぶっている。
おおよそ、好きと嫌いの割合は、半々だ。
そんな僕を恋人にできるのかと聞いたら、藤代はできると即答した。
えぇぇ、マジか?
でも。藤代は、乱暴したことに関しては本当に後悔していて、謝罪に次ぐ謝罪で、反省しているようなので。
許しはしないけど、いつまでも根に持っていたら可哀想な気もして、まぁ、目をつぶってやってもいいってところか。
それに、泣いて泣いて、目蓋は赤く腫れちゃって、頬は紅潮して涙でガサガサ。そんなぐちゃぐちゃな顔を見せられちゃったら、さすがに僕もわかっちゃうというか…いわゆる、藤代が僕のことを本気で好きなのだということを、だけど。
自分に好意を持つ者を、無下にはできないじゃないか。
だから、まぁ、好きの割合を少し多くしてもいいかなって。思っちゃうわけだ。
それに、鼻をすすってぐちょぐちょの情けない顔でも、やはり藤代は格好良いと思うのだから、僕も結構彼のこと好きなのかなと感じちゃったりして。
あぁああ、とうとう捕まってしまったな。
僕は、藤代の泣き虫攻撃に弱いのかもしれない。
そんなことを思いつつ、退院した日は家でのんびり休んで。
土日を挟んで、月曜日。
僕は学園に車で登校した。
藤代のお母さんが車で送ってくれたんだ。
すみません、どうせ藤代が無理を言ったんでしょう?
「頭に絆創膏を貼っているだけだから、電車通学できるのに…」
車の中でそう言ったら、藤代は無理無理無理…と言い続けた。
いや、無理かどうかは僕が決めるので。
ともかく。今日のところは藤代のお母さんに甘えて、車に乗せてもらったわけだ。
スペアのメガネは黒ぶちで、少し印象が重いのだが、頬の痣が目立たないからまぁいいかというところ。
そして学園の駐車場で僕と藤代は降車して、昇降口に向かう。
すると玄関口のホールで、萩原先輩と深見先輩が待ち構えていた。
「おはよう、穂高くん。もう大丈夫なの? 怪我は? まだ痛い?」
心配そうな面持ちで、萩原先輩は触るようで触らないオロオロと手をさ迷わせる動きを見せた。
「御心配をおかけしました。もう大丈夫です」
脳震盪を起こしたけど、休んでいた三日の間に異変はなく、後遺症もなかった。
顔と体の打ち身の痣と、二針縫った額の怪我だけ、まだほんの少し痛いけど、痛み止めを飲むほどでもない。
「学園長室に警官が来ているよ。穂高くんから話を聞きたいらしいから、ふたりともこのまま行ってくれ」
深見先輩に言われ、僕はちょっと口を引き結ぶ。
あのこと、言いたくないんだよね。
そんな僕を見て、深見先輩は続けて言った。
「君がどういう想いで誰をかばっているのかは知らないが、王様の意を汲めないやつは排除していいんだよ」
深見先輩はにっこり笑っているけれど、目は笑っていなかった。
強行的で盲目的なその言葉に、僕はギョッとしてしまう。
「君は王様がどういう人間か知っているはずだ。それを承知で王様のそばにいると決めたんだろう? 副会長になったというのはそういうことだ。だったら、わかるよね? 王様の不利益になる人物は、誰もが許さないということを。生徒だけじゃない。教師も警察も…誰もが、だよ」
彼の話を聞き、僕は思い出していた。
藤代から逃げることばかりを考えていたとき、味方は誰もいないと感じたことがあった。
彼が望めば、すぐになにもかもが明らかになる。
僕がどこへ逃げても、絶対に誰かがなにかを見ていて、その情報はすぐに藤代に伝えられてしまうだろうから。
「無駄なことはするな…ってことですね?」
「まぁまぁ、気負わずに、がんばって」
深見先輩と萩原先輩が僕の肩を軽くぽぽぽんと叩いて、その場を去っていった。
僕と藤代は並んで学園長室へと向かうけど、その間、彼は神妙な面持ちをしていた。
「千雪は俺が強引なことをするの、好まないだろうけど。俺、この件に関しては暴君になる。千雪を傷つけたやつらをどうしても許せないんだ」
藤代が許せないと言う。
それは、周りのすべての者も、許さないってこと。
「僕が許しても、許せない?」
「あぁ、許せない」
断固という意志を彼に感じる。では、自分は太刀打ちできないな。
抗えぬ大きな力を彼は持っているのだ。僕はあきらめのため息を漏らすしかない。
「証拠は出揃っている。だから、たぶん千雪がなにも言わなくても、彼らは処分されるよ。でも俺は、千雪から真相を聞きたい。あの日になにがあったのか、すべてを話してほしい」
今までの藤代なら、話せと僕に命令しただろう。
でも今は、僕の気持ちを尊重して、話してほしいと願いを述べた。その彼の歩み寄りは嬉しかった。
「話さなくてもいいのか?」
「強要はしない。でも、できれば聞きたい」
「証拠はどんなもの?」
「目撃者証言、防犯カメラ映像…そして、自供」
微妙な間を感じ、僕はピンときた。もしかして…。
「君が自白させた?」
「そうだ」
即座に彼は認めた。
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