【完結】いいなりなのはキスのせい

北川晶

文字の大きさ
39 / 44

38 愛しているの…キス  藤代side

しおりを挟む
 千雪の指摘で俺は泣いていることに気づいた。
 でも、涙、止まんない。
 次々あふれる大粒の涙を拳で拭い、話を続けた。

「良くない。俺がずっと千雪を苦しめてきたんだから。千雪は、怖かったんだろ? でも俺、千雪の首にかけた手を離せなかった。嫌いって言われたくなかったし、別れるのも嫌で、ずっとあの日のことをなかったことにしていたんだ。でもずっと、悔やんでた。悔やんで、悔やんで…」
「麗しの美貌が台無しだな。藤代、顔しか取り柄ないのに…」
 笑い交じりに言われ、千雪を見る。すると千雪は俺に、両腕を差し伸べた。

「寒いから。藤代、こっち来て」
 誘われて、俺はすかさずベッドに腰を乗り上げた。そして千雪をゆるく抱きしめ、首元に顔を埋めて泣き顔を隠した。

「本当は、千雪から離れなきゃいけないんだよな。でも、ごめん。俺、千雪がいないとダメなんだ。ボロボロの千雪がロッカーから出てきたとき、俺、全身が凍りついた。千雪が…死んじゃうって…」
 彼が俺から逃げていなくなるのではない。
 本当に、この地上のどこにもいなくなっちゃう。
 そんなとてつもなく恐ろしいことを身近に感じて、鳥肌が立った。

 俺は…簡単に『死んじゃうかもね』なんて千雪に言って、脅したけど。
 あの頃の俺を殴りたい。今はもう、そんなこと口が裂けても言えないよ。

「落ち着けよ。大丈夫、僕は生きているだろ?」
 千雪にしがみついて震えていると、彼は俺の背中をポンポン叩いてくれた。
 彼を抱きしめていると、千雪の息遣いを感じて、ホッとする。
 生きているって、実感できる。
 でも、その安心を手放せなくて、彼をずっと抱きしめていた。

「なぁ、藤代。僕は君を愛しているよ」
 頭を撫でながらそう言われ、胸がひりつくくらいの幸福感を味わった。
 あぁ、俺、もう死んでもいい。最高に幸せ。
 たとえこのあとどんな言葉が続いても、今の一言だけで、なんだって耐えられる。

「でも、気絶するほどの乱暴をされて、僕の意思を無視して従わせるようなキスをした君を、許せないとも思っている。君のこと羨んで嫉妬する、醜い気持ちも抱えている。好きとか、嫌いとか、妬みとか、僕の気持ちはひとつに割り切ることはできない」
 千雪の言葉を聞いて、そうか、やはりダメなんだなって思った。
 覚悟を決めているつもりだったけど。全然、覚悟できていない。
 続く千雪の言葉を聞くのが怖くてたまらない。
 息を吸いこむと、喉がヒクリと引きつった。

「そんな僕を、君は恋人にできるのか?」

 だから。
 千雪がそう言ったとき、一瞬、言葉の意味が脳みそに到達しなかった。
 そして、理解して、驚きに目をみはり。
 それからようやく顔を上げて、俺はブンブン首を縦に振った。
「できる。決まってる。当たり前だ。むしろ、ありがとうございます」
 その俺の勢いに、千雪は苦笑した。
「ちゃんと考えろ。好きと嫌いが同じだけあるんだ。複雑で、自分でもわからない感情なんだ。それでもいいのか?」
「全然いいよ。好きでも嫌いでもないは、関心がないって意味だろ。でもその逆は、すっごく興味があるってことじゃん」
「ん? そうなのかな。まぁ、うん」
 千雪はピンと来ていないみたいだけど。
 希望が、俺の胸をこんなにも温かくしてくれる。
 千雪と相対していると、心が冷えたり温かくなったり、凍ったり熱くなったりする。
 でもその心の揺れ動きが、生きているってことなのかもな。

「そばにいることを許してくれるだけで、ありがたすぎて、涙が出る…」
「もう泣いているじゃないか。つか、泣きすぎだ」
 ははっと軽く笑う千雪が、とても愛おしい。
 だから俺は、甘えるように頭をすりつけた。
 彼の一番近くにいるけれど、もっとそばに寄り添いたくて。

「キス、してもいい?」
「…いいよ」
 しっかりと承諾をもらってから、俺は千雪に優しいキスをした。
 愛しているのキス。
 許してくれてありがとうのキス。

 愛しているの…キス。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...