【完結】いいなりなのはキスのせい

北川晶

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40 王様の望みを拒むのは無駄  穂高side

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 自分で聞いておきながら、藤代が容疑者に自白させたのだと聞き、僕は言葉を失った。
 彼の従わせる力とやらを、僕はあなどっていた。
 藤代の思惑を察して、周囲の者が勝手に動いているのだと、なんとなくそんな感じでとらえていたのだ。
 でももしかしたら、彼は自らの意思で他人を操れるんじゃないかなって、ちょっとだけ考えてはいたんだよ。でも、まさかって思うじゃん?
 だけど今回、マジで、当人に白状させたわけだ。

 つまり…チートにもほどがあるってやつだよ。
 リアルで、そんな反則級なやつがいていいわけがないよ。
 神様はどんだけ不公平なんだろう、ムカつく。

 まぁ。ってことは。やはり深見先輩が言うように、黙っているのは無駄なことってことだ。

「じゃあ、話すしかないね」
 驚愕をクールにうなずきで誤魔化して、僕は藤代と学園長室へ入っていった。

 室内には学園長と警官がふたり、あとその場にいた教師がいて、すでに応接セットのソファに腰かけていた。僕らは空いた席に並んで座る。
 警官が『事実確認のために関係者から事情を聴いている。今回の件は、発見が遅れたら命に関わっていた、重大な暴行事件だ。暴行を加えたものを放置するのは、当事者の更生のためにも良くないことだよ。だから真実を教えてくれ』と言う。
 僕が病院で一言も話さなかったから、警官は今日こそは聞き出すというような顔つきだ。

 そして学園長も言う。
「一部の親御さんから、良家の子息が集う穏やかな学び舎だと聞いていたのに、事件が起きるような学校だったのかと、問い合わせがきているんだ。我が校としても、速やかに事を解決したい」
 警官も学園長も、このように言うのは当然のことだと思う。
 しかし、その裏には藤代の思惑が少し見えた。

 藤代は、僕が真実を話すことを望んでいるからな。

 警官やPTAという外部圧力、学園のトップの意見、証拠もそろっていて、あとは僕が話すだけ。そういう状況がお膳立てされているんだ。
 いわゆる、外堀が埋められている状況だな。

 その周到さにイラっとして、僕は藤代を睨むが。
 彼が小さくうなずくので…うん、じゃないと思いつつ。
 王様の望みを拒むのは無駄なことなのだと理解して……僕は重い口を開く。

 あの日のことを思い返しながら、大人たちに説明した。

 選挙結果が出て、僕はひとりで教室を出て、三年生のクラスがある二階へ降りていった。選挙に尽力してくれた萩原先輩と深見先輩に挨拶をするためだ。

「当選おめでとう、穂高くん。選挙ポスターの写真、いっぱい撮った甲斐があったわぁ」
 萩原先輩は僕の手を握ってブンブンと大きく振った。
 僕よりも高身長な彼女にブンブンされると、僕は浮き上がってしまいそう。
 苦笑して、頭を下げた。
「素材が悪くて、お手間を取らせました」
「穂高くん、それマジで言ってんのぉ? 上目遣いが可愛いって、すっごく好評だったんだよ。でも、ごめぇん。写真のデータ、全部会長に奪われちゃったのぉぉ」
「え…あれも?」
「うん。猫耳も取られちゃったよぉ」

 選挙ポスターだというのに、悪乗りした萩原先輩にいろいろなポーズで写真を撮られてしまったのだ。
 それを藤代が全部持っているとなると、怒りと羞恥で心中がモヤモヤだ。
 あとで必ずデータを消去してやる。

 不満顔ながら、僕は深見先輩にも頭を下げた。
「いろいろご指導くださり、ありがとうございました、深見先輩」
「選挙演説は堂に入っていてなかなか良かったよ。穂高くん、当選して嬉しい?」
 ちょっとからかうような目つきで深見先輩に聞かれ、僕は照れながらも『はい』とうなずいた。

 それで、ホームルーム前にふたりとは別れ、職員室に寄って備品の入ったロッカーのカギを取ってから、花壇に向かった。
 いつも放課後に水やりをしていたが、今日からもう生徒会の仕事がある。新旧役員の顔合わせと引継ぎだ。
 なので、ホームルームがはじまる前に水まきをしてしまおうと思ったんだ。
 放課後に花壇の手入れをするのが僕の日常だったのだけど。これからは昼休みにするようかな?
 なんて考えながら、ジョウロを取りにロッカーへ向かう。
 裏庭の隅に用具入れのロッカーがあることはあまり知られていない。だけどその前に、女子生徒が座り込んでいた。

「あの、大丈夫ですか?」
 具合が悪いのかと思い、声をかけた。
 すると、いきなり後ろから誰かに羽交い絞めにされて。
 座り込んでいた女子生徒が僕の腹を拳で殴ったんだ。

 痛ってぇぇぇぇっ!!

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