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4 僕は気づいてしまった 穂高side
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ある日、僕は気づいてしまった。
その日は生徒総会があり、高等部の全生徒五百名ほどが講堂に集まっていた。一クラス三十人前後の五クラスが三学年という感じである。
生徒総会の議題は、五月末に行われる生徒会選挙のことや、今年の部活動費の話らしい。僕は、あぁ、選挙は藤代が誘ってきたやつか…なんて、ぼんやり思っていたのだ。
それはともかく。その生徒総会がはじまる前のことだった。
講堂は椅子が備えつけられているので、前列が三年A組、次がB組というように順番に生徒たちが座っていく。そうしてみんなが腰かけていく間、ワチャワチャと雑談するような、席に着く順番待ちのような時間があって、講堂の中は騒がしいような感じだった。
立つ生徒、座る生徒、友達と話している生徒と、生徒たちがひしめき騒がしい中で、僕はなんとなく須藤先輩の姿を目で探したのだ。
藤代は、須藤先輩のことを彼女じゃないと言っていた。それって、須藤先輩は振られちゃったということだろうか? 振られたのなら、園芸部に戻ってくればいいのに。とか、考えている。
藤代を、つい目で追ってしまうのだ…みたいなことを話していた須藤先輩の笑顔を思い出す。
今も藤代のことをみつめているのかな?
間もなく、僕は須藤先輩のことをみつけた。彼女は友達とおしゃべりをしながらも、ある一点をみつめている。そこにおそらく、藤代はいるのだろう。
彼女の目線を追うと、そこにはやはり藤代がいた。
でも。藤代は僕のことを見ていて、思わず目が合ってしまった。
ヤバいと思って、目をそらす。
そしてもう一度、須藤先輩を見た。
すると、須藤先輩と話していた隣の女子も同じ方向を向いている。それに気づいたんだ。
つまり、藤代を。
そのとき、おおよその生徒が、同じ方向を向いていることにも気づいちゃった。
なんか、ものすごく不気味。
えぇぇ、なに、これ? ちょっと、あり得なくない?
だけど、僕がざっと見回すと、女子生徒はもちろん、男子生徒も、教師までもが、藤代に視線を向けていたのだ。
多くの生徒たちの視線の行方を追って、もう一度、僕は藤代を見た。
目があった彼は、今度は僕ににっこりと笑いかける。
いやいや、この現象はいったいなんだ?
アイドルのコンサートなら、わかる。ライブで、観客の視線が舞台に集中する、それは当たり前のことだ。
でもここは、高校の講堂。今日の主役は生徒会で、藤代ではない。そして藤代は舞台に上がっているわけでもないのだ。
僕は、奇妙な吸引力のある藤代から目を引き剥がし、うつむく。
そして、気づいてしまったこの現象を、気持ち悪いと思った。
ひとりひとり、違う意志や考えを持つ者たちであるはずなのに、ひとりひとりの想い、そのベクトルが藤代に集約されている。
そして、多くの者たちの視線や想いを一身に受けているのに、それをまったく気に留めていない、藤代。
生徒たちの視線を一身に受け、彼らの想いを集めて固めたかのような、強く押しつけがましい視線を、藤代は僕に向けている。
やめてくれ。僕は誰からも注目されないような、普通の人間なんだ。
みんなが僕を見ているわけではないことは、わかっている。
しかし藤代の背後にある、ひとつひとつの視線を、藤代は集めて束にして、それを僕に放っているような。そんな強烈で重い視線の束、みたいに感じたのだ。
藤代の視線は、そんな熱視線。
目をそらしていても、顔に視線を当てられているのがわかるような。
見るな。見るな。
僕がそう思っていると、生徒総会がはじまる合図があり。僕に当てられていた彼の視線も外された。外されたことが、見なくてもわかった。
心底ほっとして。僕は席に着き。舞台上で話す生徒会役員に目を向ける。
議題をぼんやりと耳にしながら、僕は考えた。
あれは、異常だ。異様だ。
藤代は、普通の人たちとはどこか違う者のようだ。宇宙人、という非科学的なことは思わないけど。もし藤代が『俺は宇宙人だ』と言ったら、素で信じてしまいそう。
とにかく、彼は。中身が、本質が、僕のような一般人とは根本的に異なっているんじゃないのかな?
どこがどう、というのは。よくわからないけど。まだわからないけど。
もしかして、自分が他者に見られているというのに、気づいていないのかな?
そんなわけない。藤代が誰かに視線を向けたら、おそらく必ず目が合うんだ。それが続けば、いくら鈍感でもいつかおかしいと思うはずだよ。
藤代は変だ。でも、なにが変なのかは、わからない。
この日は、僕が藤代に異質ななにかを感じた、最初の日であった。
その日は生徒総会があり、高等部の全生徒五百名ほどが講堂に集まっていた。一クラス三十人前後の五クラスが三学年という感じである。
生徒総会の議題は、五月末に行われる生徒会選挙のことや、今年の部活動費の話らしい。僕は、あぁ、選挙は藤代が誘ってきたやつか…なんて、ぼんやり思っていたのだ。
それはともかく。その生徒総会がはじまる前のことだった。
講堂は椅子が備えつけられているので、前列が三年A組、次がB組というように順番に生徒たちが座っていく。そうしてみんなが腰かけていく間、ワチャワチャと雑談するような、席に着く順番待ちのような時間があって、講堂の中は騒がしいような感じだった。
立つ生徒、座る生徒、友達と話している生徒と、生徒たちがひしめき騒がしい中で、僕はなんとなく須藤先輩の姿を目で探したのだ。
藤代は、須藤先輩のことを彼女じゃないと言っていた。それって、須藤先輩は振られちゃったということだろうか? 振られたのなら、園芸部に戻ってくればいいのに。とか、考えている。
藤代を、つい目で追ってしまうのだ…みたいなことを話していた須藤先輩の笑顔を思い出す。
今も藤代のことをみつめているのかな?
間もなく、僕は須藤先輩のことをみつけた。彼女は友達とおしゃべりをしながらも、ある一点をみつめている。そこにおそらく、藤代はいるのだろう。
彼女の目線を追うと、そこにはやはり藤代がいた。
でも。藤代は僕のことを見ていて、思わず目が合ってしまった。
ヤバいと思って、目をそらす。
そしてもう一度、須藤先輩を見た。
すると、須藤先輩と話していた隣の女子も同じ方向を向いている。それに気づいたんだ。
つまり、藤代を。
そのとき、おおよその生徒が、同じ方向を向いていることにも気づいちゃった。
なんか、ものすごく不気味。
えぇぇ、なに、これ? ちょっと、あり得なくない?
だけど、僕がざっと見回すと、女子生徒はもちろん、男子生徒も、教師までもが、藤代に視線を向けていたのだ。
多くの生徒たちの視線の行方を追って、もう一度、僕は藤代を見た。
目があった彼は、今度は僕ににっこりと笑いかける。
いやいや、この現象はいったいなんだ?
アイドルのコンサートなら、わかる。ライブで、観客の視線が舞台に集中する、それは当たり前のことだ。
でもここは、高校の講堂。今日の主役は生徒会で、藤代ではない。そして藤代は舞台に上がっているわけでもないのだ。
僕は、奇妙な吸引力のある藤代から目を引き剥がし、うつむく。
そして、気づいてしまったこの現象を、気持ち悪いと思った。
ひとりひとり、違う意志や考えを持つ者たちであるはずなのに、ひとりひとりの想い、そのベクトルが藤代に集約されている。
そして、多くの者たちの視線や想いを一身に受けているのに、それをまったく気に留めていない、藤代。
生徒たちの視線を一身に受け、彼らの想いを集めて固めたかのような、強く押しつけがましい視線を、藤代は僕に向けている。
やめてくれ。僕は誰からも注目されないような、普通の人間なんだ。
みんなが僕を見ているわけではないことは、わかっている。
しかし藤代の背後にある、ひとつひとつの視線を、藤代は集めて束にして、それを僕に放っているような。そんな強烈で重い視線の束、みたいに感じたのだ。
藤代の視線は、そんな熱視線。
目をそらしていても、顔に視線を当てられているのがわかるような。
見るな。見るな。
僕がそう思っていると、生徒総会がはじまる合図があり。僕に当てられていた彼の視線も外された。外されたことが、見なくてもわかった。
心底ほっとして。僕は席に着き。舞台上で話す生徒会役員に目を向ける。
議題をぼんやりと耳にしながら、僕は考えた。
あれは、異常だ。異様だ。
藤代は、普通の人たちとはどこか違う者のようだ。宇宙人、という非科学的なことは思わないけど。もし藤代が『俺は宇宙人だ』と言ったら、素で信じてしまいそう。
とにかく、彼は。中身が、本質が、僕のような一般人とは根本的に異なっているんじゃないのかな?
どこがどう、というのは。よくわからないけど。まだわからないけど。
もしかして、自分が他者に見られているというのに、気づいていないのかな?
そんなわけない。藤代が誰かに視線を向けたら、おそらく必ず目が合うんだ。それが続けば、いくら鈍感でもいつかおかしいと思うはずだよ。
藤代は変だ。でも、なにが変なのかは、わからない。
この日は、僕が藤代に異質ななにかを感じた、最初の日であった。
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