【完結】いいなりなのはキスのせい

北川晶

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5  僕のお弁当がぁ  穂高side

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 五月の後半に生徒会選挙が行われ、前期会長だった三年生をおさえて藤代が生徒会長に選出された。
 僕は、生徒たちの視線という藤代への支持を目にしていたから、この結果は当然のことだと素直に思えた。順当ってやつだな。
 無論、僕が生徒会選挙に出た、なんてことはなかった。今もまだ、普通に園芸部員です。

 そして六月に入り、しとしと雨が続いていたが、梅雨の晴れ間になったある日。
 昼休みに入ってすぐ、クラスメイトの高瀬に声をかけられた。
「穂高って、藤代と仲良いの?」

 高瀬は僕と二年連続で同クラだ。気さくで話しやすいから、まぁまぁ親しくしている。
 僕には特に親しいと呼べる友人はいない。
 ここ梓浜学園は進学校だから、周りはみんなライバルだ、みたいな空気感はある。でも、良家の子女が多くのんびりした校風であり、ギスギスギラギラというほどではないんだ。クラスメイトはほど良く仲良く、ほど良く切磋琢磨する、みたいな感じ。
 そんな中で、僕は誰ともそつなく話し、笑い合うような、つかず離れずな距離感を保っている。毎日つるむ相手はいないけど、特にボッチではない、みたいな。
 あ、藤代以外は、ということではあるけれど。
 孤立しないで、敵対心を持たれないよう、絶妙な位置を狙っていた。

 ちなみに、僕は良家の子息ではない。
 ここで言う良家の子女というのは、家柄に歴史があるとか、大会社の後継者とか、藤代のように家族が病院経営者だとか。そういう、社会的に縦のしがらみが存在するようなものである。
 あのふたりは社長の息子と部下の息子の関係だ、とか。後継者とその従者だ、とか。たまに耳にする。
 この学園は医者志望の者も多くいるので、実家が開業医みたいな生徒もままいる。病院経営者の息子と懇意にしたい、医者志望の生徒も多いな。そういう意味でも藤代はモテるんだな。

 僕の両親は、父はプログラマーで、母はジム経営のインストラクター。
 一応言うが、僕に母の遺伝子は皆無である。運動苦手。
 畑が違う両親だけど、僕の医者になりたいという夢をふたりとも応援してくれて、早いうちから医大の進学率が高いこの学園に入学させてくれたんだ。
 僕の夢ではあるけれど、応援してくれる両親のためにも、がんばって医大にストレートで受かりたい。そのためには勉学をおろそかにはできないのである。
 つまり、なにが言いたいのかというと。この学園には勉強をしに来ているので、友達を作りに来ているのではないということ。いじめやハブられる、などがなければそれでいい。

 というわけで、高瀬に返事をする。
「特に親しくはないけど、どうして?」
 高瀬の質問の意味が純粋にわからなかったので、聞き返した。
 すると、校則に引っかからない程度に赤の混ざった髪色をしている高瀬が、短い髪を手でかきながら言う。
「そうなのか? 藤代と話しているとさ、穂高の話題がちょいちょい出るからさ。教室でふたりが話しているのは見ないけど、どこかで話しているのかと思って。あ、もしかして最寄り駅が同じとか?」
「いいや、反対方向だけど」

 否定しても、高瀬は僕を疑うような目で見る。
 高瀬は、藤代と仲良くなりたい派…まぁ、クラスのみんな、藤代とお近づきになりたいって思っているだろうけど。その中でも高瀬は藤代の机の周りにいつもいて、大声で笑って注目を集めるなど、派手に『藤代と仲良いですアピール』をしていた。

 だから、藤代と仲が良いならレアな面を教えろ、と僕に言っているようだ。その目つきが。
 もう充分仲良さそうなのに、もっと仲良くなりたいの?

「…話題って?」
 高瀬の話から、ちょっと引っかかった部分があったので、それを聞いてみる。
 本人不在でなにしゃべっているのか、気になるじゃないか。悪口禁止ぃ。
「お菓子のパッケージ指差して、それ穂高が食べてたとか。あのとき穂高がこんなこと言ってたとか? 他愛ないことだけどさ」
 詳しく聞くと、それは確かに僕が好きなお菓子で、話した言葉もそうだったけど。
 深い接点もないのに、なんでそんなこと知ってんの?
 なんか、藤代に監視されているみたいで、怖いんですけど。
 いやいや、たまたまその場面を見て、印象に残っていただけかもしれないな。だって、みんな大好きクラスのアイドルである藤代が、僕を見ているとか自意識過剰じゃない? そんなことあるわけない。

 ないない、と頭の中で手を横に振っていた。そのとき、僕の肩に誰かが手を置く。
「俺と穂高は仲良いよ。同じ園芸部だからね」
 肩に触れたのは、藤代だった。僕と高瀬の話に割って入ってくる。
 つか、仲良いとか嘘つくな。話したこともあまりないよ。

 でも藤代は僕と目が合うとにっかり笑って、弁当が入っている僕のカバンを勝手に手に持った。
「天気がいいぞ、昼は花壇で食べようぜ」
「ええぇ、藤代、園芸部に入ったのかよ、クソダサ、似合わねぇ」
 僕は。クソダサで悪かったなぁ、と思いつつ。
 藤代に似合わないのは同意する。

「つか、俺も一緒に昼飯いくぅぅ」
 能天気な感じで笑顔で言う高瀬に、藤代は首を振った。
「ダメダメ。今日は園芸部オンリーだから。高瀬は教室で飯食え」
 さらりとした前髪が揺れる。その隙間から、藤代の鋭い視線が高瀬を刺した。
 有無を言わせぬって感じ?
 そして、ひるんだ高瀬を置いて、藤代は教室を出て行った。

 僕のカバンを持って。

 あぁぁ、僕のお弁当がぁ。
 仕方なく、僕は彼のあとについて行くしかなかった。

 
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