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22 憧れのシチュエーション 藤代side
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放課後。生徒会の会議を終え、俺は急いで後片付けをしていた。
教室で、千雪が待っているのだ。
彼は真面目だから、約束事を破ることはない。
でも強引な誘い方をしたり、長く待たせたりすると、機嫌が悪くなることがあるからな。
俺はとにかく、千雪に嫌われたくないのだ。
「今日の会長、すっごく上機嫌だったわね」
「アレのせいだろ、昼休みのやつ。穂高くんを呼び出す放送を聞いて、俺、超ウケた。穂高くんに必死な王様、マジ笑えるんですけど」
高等部三年、生徒会副会長の萩原美奈と深見修史に言われ、俺は不満を顔に乗せた。
ふたりが俺に対してフランクな物言いをするのは、俺の能力を彼らが認識しているからだ。
生徒会には俺に心酔する者しかいない。
そんな中、自分の意見が通り過ぎるのは、良くない方向に暴走してしまいかねないと思った。俺の見解が間違っていても、みんなうなずいてしまうからだ。
実際、小学校の児童会や中学校の生徒会ではそんな感じで、かろうじて暴走はしなかったものの、ほぼ俺の意見だけで動いていた。俺が悪ノリしたら、たぶんめちゃくちゃになっていただろうな。
でもそれは、本意ではない。
俺は、神じゃないんだ。
たかが十六歳の若造だから、間違いだらけだし、知らないこともまだまだ多いんだからな。
なのに、間違いが押し通ってしまったら、修正するのが大変だろう。
小、中では、教師がサポートしてくれたけど、学園の生徒会は学生主導が基本だからな。
もし間違ったことを俺が言ったら、それをいち早く正してくれる者が必要だった。それで、上級生のふたりだけに俺の特殊な能力について暴露したんだ。
彼らはそれを知ったことで、俺に、無条件に心酔することはなくなった。でも能力を完全に無効化はできないようだ。
彼らによれば、頭は冴えて、のぼせることはないけれど、好きなのは変わりない、みたいな。
さらに、頭の冴えた彼らに、なんとなく俺と千雪の関係も知られてしまった。
ゆえに、萩原と深見はこうして俺をからかったりするわけだ。
しかし。魅惑の中にあっても、彼らとは普通の友達のような関係を築けていて。
まったく能力に惑わされない千雪は別格だけど。
今まで服従する友達しかいなかった俺には、彼らは貴重な存在だと言えた。
「会計の堀田ちゃん、顔、青くしていたわよ。前年の資料を見たいのに、穂高くんがいたら生徒会室に入れませぇんって、私に泣きついてきたの」
萩原は、ぱっちりした目元が印象的な、超短髪女子。どこか男勝りなところがあって、面倒見がいいし、後輩に好かれる姉御タイプだ。
実は編入早々、萩原に告白された。まぁ、断ったけど。
そのときの萩原は、黒髪ロングの清楚系美少女だった。しかし告白を断った翌日に会ったら、もう今の短髪で。俺は失恋で髪を切ったのかと思って、ちょっとあせったけれど。
そうではなくて。黒髪ロングのほうがカツラだったようだ。
萩原の趣味は、コスプレ。
清楚系美少女も、なり切ったキャラ作りだったと、あとからサバサバした感じで言ってきた。
『ラブちゅなの春香ちゃんみたいな感じなら、藤代くんを落とせると思ったのになぁ』ってな。
ちなみに『ラブちゅな』はアニメの名前らしい。どんなアニメか知らんけど。
それで、その短髪も、カツラをつけるのに楽だからという理由だった。俺のせいで髪を切ったのではなくて、ホッとしたよ。つか、ビビらすな。
「ジャックの高瀬が、ふたりのあまーい空間に割って入って降格になったからだろう? 気ぃ遣うぜぇ、王様」
茶髪をツンツンとがらせた派手な姿の割に、テストでトップの座を明け渡したことがないという深見が言った。
ちょっと癖ツヨな先輩だが、俺が大好きだと公言してはばからないので、俺の敵にはならない。
まぁ、誰も俺の敵にはならないが。千雪以外は。
萩原と深見以外の生徒会メンバーは、俺と千雪が付き合っていることなど知らない。だが、高瀬の降格事件以来、なんとなく察しているようで。
生徒会関係者は、千雪には『触らぬ神に祟りなし』的、暗黙の了解であった。
「俺の邪魔をするやつは排除する。資料が欲しければ、昼休み前に取りに来れば良かったんだ」
「さすがの俺様発言。いや、王様発言か。その傲慢っぷりがたまらんのよぉ」
俺の言葉に、深見が己の体に腕を巻きつけ、くねくねしながら言った。キモっ。
「みんなでやれば、五分で終わる作業を、ふたりきりで三十分もかけちゃってぇ」
ニヤニヤしながら、萩原が俺をからかう。つか、おまえ俺のこと好きだったんじゃないのか?
「千雪は照れ屋だから、教室とか、ひと目のあるところで俺と話したがらないんだよ。だから俺がああして、ふたりの時間を作ってんの。健気だろぉ?」
千雪のことを思い浮かべながら言ったら、口元が自然にゆるむ。そんなデレデレな俺を、萩原はげんなりと見やって言った。
「そんなの、穂高くんをジャックに指名すればいい話じゃない?」
ジャックは、いわゆる生徒会執行部の通称だ。
役員以外に、生徒会の雑務を引き受ける部署がある。
「ティータイムにおやつをつまみながらトークに花を咲かせぇ、夜遅くまでふたりきりで作業しちゃったりしてぇ、暗いから家まで送るよ…なんてぇ。狼がなに言ってんのぉって、こっちは思うけど。イチャイチャする口実がたーっぷりあるじゃない?」
萩原が言った場面を想像する、俺。
いい。憧れのシチュエーションである。
しかし、俺は眉間に皺を寄せる渋い顔つきで、つぶやいた。
「断られた」
「は?」
まったく思いもしなかった単語だったのだろう。萩原と深見は同時に聞き返してきた。
教室で、千雪が待っているのだ。
彼は真面目だから、約束事を破ることはない。
でも強引な誘い方をしたり、長く待たせたりすると、機嫌が悪くなることがあるからな。
俺はとにかく、千雪に嫌われたくないのだ。
「今日の会長、すっごく上機嫌だったわね」
「アレのせいだろ、昼休みのやつ。穂高くんを呼び出す放送を聞いて、俺、超ウケた。穂高くんに必死な王様、マジ笑えるんですけど」
高等部三年、生徒会副会長の萩原美奈と深見修史に言われ、俺は不満を顔に乗せた。
ふたりが俺に対してフランクな物言いをするのは、俺の能力を彼らが認識しているからだ。
生徒会には俺に心酔する者しかいない。
そんな中、自分の意見が通り過ぎるのは、良くない方向に暴走してしまいかねないと思った。俺の見解が間違っていても、みんなうなずいてしまうからだ。
実際、小学校の児童会や中学校の生徒会ではそんな感じで、かろうじて暴走はしなかったものの、ほぼ俺の意見だけで動いていた。俺が悪ノリしたら、たぶんめちゃくちゃになっていただろうな。
でもそれは、本意ではない。
俺は、神じゃないんだ。
たかが十六歳の若造だから、間違いだらけだし、知らないこともまだまだ多いんだからな。
なのに、間違いが押し通ってしまったら、修正するのが大変だろう。
小、中では、教師がサポートしてくれたけど、学園の生徒会は学生主導が基本だからな。
もし間違ったことを俺が言ったら、それをいち早く正してくれる者が必要だった。それで、上級生のふたりだけに俺の特殊な能力について暴露したんだ。
彼らはそれを知ったことで、俺に、無条件に心酔することはなくなった。でも能力を完全に無効化はできないようだ。
彼らによれば、頭は冴えて、のぼせることはないけれど、好きなのは変わりない、みたいな。
さらに、頭の冴えた彼らに、なんとなく俺と千雪の関係も知られてしまった。
ゆえに、萩原と深見はこうして俺をからかったりするわけだ。
しかし。魅惑の中にあっても、彼らとは普通の友達のような関係を築けていて。
まったく能力に惑わされない千雪は別格だけど。
今まで服従する友達しかいなかった俺には、彼らは貴重な存在だと言えた。
「会計の堀田ちゃん、顔、青くしていたわよ。前年の資料を見たいのに、穂高くんがいたら生徒会室に入れませぇんって、私に泣きついてきたの」
萩原は、ぱっちりした目元が印象的な、超短髪女子。どこか男勝りなところがあって、面倒見がいいし、後輩に好かれる姉御タイプだ。
実は編入早々、萩原に告白された。まぁ、断ったけど。
そのときの萩原は、黒髪ロングの清楚系美少女だった。しかし告白を断った翌日に会ったら、もう今の短髪で。俺は失恋で髪を切ったのかと思って、ちょっとあせったけれど。
そうではなくて。黒髪ロングのほうがカツラだったようだ。
萩原の趣味は、コスプレ。
清楚系美少女も、なり切ったキャラ作りだったと、あとからサバサバした感じで言ってきた。
『ラブちゅなの春香ちゃんみたいな感じなら、藤代くんを落とせると思ったのになぁ』ってな。
ちなみに『ラブちゅな』はアニメの名前らしい。どんなアニメか知らんけど。
それで、その短髪も、カツラをつけるのに楽だからという理由だった。俺のせいで髪を切ったのではなくて、ホッとしたよ。つか、ビビらすな。
「ジャックの高瀬が、ふたりのあまーい空間に割って入って降格になったからだろう? 気ぃ遣うぜぇ、王様」
茶髪をツンツンとがらせた派手な姿の割に、テストでトップの座を明け渡したことがないという深見が言った。
ちょっと癖ツヨな先輩だが、俺が大好きだと公言してはばからないので、俺の敵にはならない。
まぁ、誰も俺の敵にはならないが。千雪以外は。
萩原と深見以外の生徒会メンバーは、俺と千雪が付き合っていることなど知らない。だが、高瀬の降格事件以来、なんとなく察しているようで。
生徒会関係者は、千雪には『触らぬ神に祟りなし』的、暗黙の了解であった。
「俺の邪魔をするやつは排除する。資料が欲しければ、昼休み前に取りに来れば良かったんだ」
「さすがの俺様発言。いや、王様発言か。その傲慢っぷりがたまらんのよぉ」
俺の言葉に、深見が己の体に腕を巻きつけ、くねくねしながら言った。キモっ。
「みんなでやれば、五分で終わる作業を、ふたりきりで三十分もかけちゃってぇ」
ニヤニヤしながら、萩原が俺をからかう。つか、おまえ俺のこと好きだったんじゃないのか?
「千雪は照れ屋だから、教室とか、ひと目のあるところで俺と話したがらないんだよ。だから俺がああして、ふたりの時間を作ってんの。健気だろぉ?」
千雪のことを思い浮かべながら言ったら、口元が自然にゆるむ。そんなデレデレな俺を、萩原はげんなりと見やって言った。
「そんなの、穂高くんをジャックに指名すればいい話じゃない?」
ジャックは、いわゆる生徒会執行部の通称だ。
役員以外に、生徒会の雑務を引き受ける部署がある。
「ティータイムにおやつをつまみながらトークに花を咲かせぇ、夜遅くまでふたりきりで作業しちゃったりしてぇ、暗いから家まで送るよ…なんてぇ。狼がなに言ってんのぉって、こっちは思うけど。イチャイチャする口実がたーっぷりあるじゃない?」
萩原が言った場面を想像する、俺。
いい。憧れのシチュエーションである。
しかし、俺は眉間に皺を寄せる渋い顔つきで、つぶやいた。
「断られた」
「は?」
まったく思いもしなかった単語だったのだろう。萩原と深見は同時に聞き返してきた。
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