【完結】いいなりなのはキスのせい

北川晶

文字の大きさ
24 / 44

23 ラブラブデーっすかぁ?  藤代side

しおりを挟む
 そりゃあ、千雪がジャックになってくれたら俺は嬉しいよ。
 でも生徒会関係のことは、全部千雪に断られている。
 そのことを言うと、萩原と深見が声をそろえて『は?』と言った。

「俺が、そんな美味しいシチュエーションを思いつかないわけがないだろう。でもジャックはもちろん、今期の生徒会選挙のときも、来期の選挙も、バッサリ断られたっ。なんとか説得を続けているが、まったく手ごたえがない」
 俺が悲愴な声を出すと、萩原が言った。
「えぇぇ? 来期の選挙も? なにそれ、マジでヤバいじゃん」
「そうなんだ。逆にどうやったら千雪を説得できるか、こっちが教えてもらいたいくらいだよ。なぁ、なんか良い方法ないか?」
 切実に、困っている。俺は眉を下げて可哀想な顔を作って萩原と深見をみつめた。
「いやぁぁ、王様の頼みを断るなんて、ちょっと想像つかないっていうか。理解不能。アドバイス不可能」
 手を上にあげて、深見は早々に降参ポーズだ。早いよ。
「そうよ、それって本当なの? 会長の頼みを断れる人がこの世にいるなんて。能力のことを教えてもらって、自覚があって少しは精神コントロールできる私だって、会長の頼みごとは断れないのに」
 本当に信じられないという顔で、萩原は目を丸くする。

「それができるから、千雪は特別なんだ」

 はぁと、重くて深いため息をつく。
 千雪は特別。俺の能力が効かない唯一。
 だから、やはり生徒会に引き入れるのは無理なのか?

「あきらめちゃダメよ、会長。次の生徒会はうちら三年は抜けちゃうんだからね。会長の能力を知っていて、会長に意見できる穂高くんを、絶対に生徒会入りさせなきゃ」
「まぁね、穂高くんなら、生徒会の仕事も熟知している。会長が雑用から会計の計算やらなんやら、やらせているからな。それになんたって、穂高くんはキングの妃、クィーン様だ。会長の手綱を握れるのは彼しかいない」
 萩原に続いて、深見もそう言い。俺は深見の発言を大いに気に入った。
 そうだ、千雪以外に王妃の座につける者などいない。
 千雪にはいつも俺の隣にいてもらいたい。

「あれ? 会長、なんかいやらしい顔してない? なに? 今日はラブラブデーっすかぁ?」
 深見の質問に俺は答えない。けれど、口角が上がっちゃったかも。
 萩原が『うわっ、わかりやすっ』ってつぶやいた。

「とにかく、千雪が教室で待っているから、今日はもう帰る。なんか、千雪をその気にさせる手立てを考えておいてくれ」
 生徒会室に残る彼らに手を振って、俺は千雪が待つ一年A組の教室へと向かった。

 学園を出たら、俺の家で彼と恋人の時間を過ごす。心躍る気分で、俺は開け放たれた教室の扉をくぐった。
 すると。夕日のオレンジ色があふれる教室で千雪と女子が向かい合っていた。
 とてもロマンティックなムード。だから。
 俺は血の気がサッと引いた。

「千雪ッ」
 引いた血液が一気に沸騰し、俺はなにかを考える間もなく、反射的に千雪に駆け寄って胸倉をつかんだ。
 あぁ、ダメだ。そんなことをしたら、また千雪を脅えさせてしまう。
 それがわかっているのに、怒りの度合いが強すぎて、胸倉を握る手を離せなかった。
 自分から千雪が離れていく、そのきっかけとなり得るのは、女だ。
 千雪が女性を好きになったら。
 千雪のことを好きな女性が現れたら。

 俺は簡単に捨てられる。

 だから千雪が女性と接触することが堪らなく不安だった。
 俺の特殊な能力で、女を引き剥がすことは容易いが、それをしたら千雪に嫌われるだろう。俺は千雪に嫌われることこそが一番怖いのだ。
 でも。だから。誰も千雪に近寄らせたくなかった。
 千雪には自分だけを見ていてほしいのだ。
 なぜ、この俺の不安を千雪はわかってくれないのだ?
 心が痛い。胸が締めつけられるように痛い。
 奥歯を噛んで、耐えるが、己の顔がゆがむのがわかった。

「…藤代」
 千雪が俺を呼んだ。意外にも、おびえを含まない声で。
 俺はハッとして、千雪の顔を見る。その透き通った瞳を。
 すると、嘘みたいに怒りの炎が鎮火した。
 千雪が胸倉をつかむ俺の手に手をかける。握りこんだままこわばっていた俺の手から、するりと力が抜ける。

 浮いていた千雪の踵が床につくのが見えて、俺は心底ホッとしたのだ。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

処理中です...