23 / 44
22 憧れのシチュエーション 藤代side
しおりを挟む
放課後。生徒会の会議を終え、俺は急いで後片付けをしていた。
教室で、千雪が待っているのだ。
彼は真面目だから、約束事を破ることはない。
でも強引な誘い方をしたり、長く待たせたりすると、機嫌が悪くなることがあるからな。
俺はとにかく、千雪に嫌われたくないのだ。
「今日の会長、すっごく上機嫌だったわね」
「アレのせいだろ、昼休みのやつ。穂高くんを呼び出す放送を聞いて、俺、超ウケた。穂高くんに必死な王様、マジ笑えるんですけど」
高等部三年、生徒会副会長の萩原美奈と深見修史に言われ、俺は不満を顔に乗せた。
ふたりが俺に対してフランクな物言いをするのは、俺の能力を彼らが認識しているからだ。
生徒会には俺に心酔する者しかいない。
そんな中、自分の意見が通り過ぎるのは、良くない方向に暴走してしまいかねないと思った。俺の見解が間違っていても、みんなうなずいてしまうからだ。
実際、小学校の児童会や中学校の生徒会ではそんな感じで、かろうじて暴走はしなかったものの、ほぼ俺の意見だけで動いていた。俺が悪ノリしたら、たぶんめちゃくちゃになっていただろうな。
でもそれは、本意ではない。
俺は、神じゃないんだ。
たかが十六歳の若造だから、間違いだらけだし、知らないこともまだまだ多いんだからな。
なのに、間違いが押し通ってしまったら、修正するのが大変だろう。
小、中では、教師がサポートしてくれたけど、学園の生徒会は学生主導が基本だからな。
もし間違ったことを俺が言ったら、それをいち早く正してくれる者が必要だった。それで、上級生のふたりだけに俺の特殊な能力について暴露したんだ。
彼らはそれを知ったことで、俺に、無条件に心酔することはなくなった。でも能力を完全に無効化はできないようだ。
彼らによれば、頭は冴えて、のぼせることはないけれど、好きなのは変わりない、みたいな。
さらに、頭の冴えた彼らに、なんとなく俺と千雪の関係も知られてしまった。
ゆえに、萩原と深見はこうして俺をからかったりするわけだ。
しかし。魅惑の中にあっても、彼らとは普通の友達のような関係を築けていて。
まったく能力に惑わされない千雪は別格だけど。
今まで服従する友達しかいなかった俺には、彼らは貴重な存在だと言えた。
「会計の堀田ちゃん、顔、青くしていたわよ。前年の資料を見たいのに、穂高くんがいたら生徒会室に入れませぇんって、私に泣きついてきたの」
萩原は、ぱっちりした目元が印象的な、超短髪女子。どこか男勝りなところがあって、面倒見がいいし、後輩に好かれる姉御タイプだ。
実は編入早々、萩原に告白された。まぁ、断ったけど。
そのときの萩原は、黒髪ロングの清楚系美少女だった。しかし告白を断った翌日に会ったら、もう今の短髪で。俺は失恋で髪を切ったのかと思って、ちょっとあせったけれど。
そうではなくて。黒髪ロングのほうがカツラだったようだ。
萩原の趣味は、コスプレ。
清楚系美少女も、なり切ったキャラ作りだったと、あとからサバサバした感じで言ってきた。
『ラブちゅなの春香ちゃんみたいな感じなら、藤代くんを落とせると思ったのになぁ』ってな。
ちなみに『ラブちゅな』はアニメの名前らしい。どんなアニメか知らんけど。
それで、その短髪も、カツラをつけるのに楽だからという理由だった。俺のせいで髪を切ったのではなくて、ホッとしたよ。つか、ビビらすな。
「ジャックの高瀬が、ふたりのあまーい空間に割って入って降格になったからだろう? 気ぃ遣うぜぇ、王様」
茶髪をツンツンとがらせた派手な姿の割に、テストでトップの座を明け渡したことがないという深見が言った。
ちょっと癖ツヨな先輩だが、俺が大好きだと公言してはばからないので、俺の敵にはならない。
まぁ、誰も俺の敵にはならないが。千雪以外は。
萩原と深見以外の生徒会メンバーは、俺と千雪が付き合っていることなど知らない。だが、高瀬の降格事件以来、なんとなく察しているようで。
生徒会関係者は、千雪には『触らぬ神に祟りなし』的、暗黙の了解であった。
「俺の邪魔をするやつは排除する。資料が欲しければ、昼休み前に取りに来れば良かったんだ」
「さすがの俺様発言。いや、王様発言か。その傲慢っぷりがたまらんのよぉ」
俺の言葉に、深見が己の体に腕を巻きつけ、くねくねしながら言った。キモっ。
「みんなでやれば、五分で終わる作業を、ふたりきりで三十分もかけちゃってぇ」
ニヤニヤしながら、萩原が俺をからかう。つか、おまえ俺のこと好きだったんじゃないのか?
「千雪は照れ屋だから、教室とか、ひと目のあるところで俺と話したがらないんだよ。だから俺がああして、ふたりの時間を作ってんの。健気だろぉ?」
千雪のことを思い浮かべながら言ったら、口元が自然にゆるむ。そんなデレデレな俺を、萩原はげんなりと見やって言った。
「そんなの、穂高くんをジャックに指名すればいい話じゃない?」
ジャックは、いわゆる生徒会執行部の通称だ。
役員以外に、生徒会の雑務を引き受ける部署がある。
「ティータイムにおやつをつまみながらトークに花を咲かせぇ、夜遅くまでふたりきりで作業しちゃったりしてぇ、暗いから家まで送るよ…なんてぇ。狼がなに言ってんのぉって、こっちは思うけど。イチャイチャする口実がたーっぷりあるじゃない?」
萩原が言った場面を想像する、俺。
いい。憧れのシチュエーションである。
しかし、俺は眉間に皺を寄せる渋い顔つきで、つぶやいた。
「断られた」
「は?」
まったく思いもしなかった単語だったのだろう。萩原と深見は同時に聞き返してきた。
教室で、千雪が待っているのだ。
彼は真面目だから、約束事を破ることはない。
でも強引な誘い方をしたり、長く待たせたりすると、機嫌が悪くなることがあるからな。
俺はとにかく、千雪に嫌われたくないのだ。
「今日の会長、すっごく上機嫌だったわね」
「アレのせいだろ、昼休みのやつ。穂高くんを呼び出す放送を聞いて、俺、超ウケた。穂高くんに必死な王様、マジ笑えるんですけど」
高等部三年、生徒会副会長の萩原美奈と深見修史に言われ、俺は不満を顔に乗せた。
ふたりが俺に対してフランクな物言いをするのは、俺の能力を彼らが認識しているからだ。
生徒会には俺に心酔する者しかいない。
そんな中、自分の意見が通り過ぎるのは、良くない方向に暴走してしまいかねないと思った。俺の見解が間違っていても、みんなうなずいてしまうからだ。
実際、小学校の児童会や中学校の生徒会ではそんな感じで、かろうじて暴走はしなかったものの、ほぼ俺の意見だけで動いていた。俺が悪ノリしたら、たぶんめちゃくちゃになっていただろうな。
でもそれは、本意ではない。
俺は、神じゃないんだ。
たかが十六歳の若造だから、間違いだらけだし、知らないこともまだまだ多いんだからな。
なのに、間違いが押し通ってしまったら、修正するのが大変だろう。
小、中では、教師がサポートしてくれたけど、学園の生徒会は学生主導が基本だからな。
もし間違ったことを俺が言ったら、それをいち早く正してくれる者が必要だった。それで、上級生のふたりだけに俺の特殊な能力について暴露したんだ。
彼らはそれを知ったことで、俺に、無条件に心酔することはなくなった。でも能力を完全に無効化はできないようだ。
彼らによれば、頭は冴えて、のぼせることはないけれど、好きなのは変わりない、みたいな。
さらに、頭の冴えた彼らに、なんとなく俺と千雪の関係も知られてしまった。
ゆえに、萩原と深見はこうして俺をからかったりするわけだ。
しかし。魅惑の中にあっても、彼らとは普通の友達のような関係を築けていて。
まったく能力に惑わされない千雪は別格だけど。
今まで服従する友達しかいなかった俺には、彼らは貴重な存在だと言えた。
「会計の堀田ちゃん、顔、青くしていたわよ。前年の資料を見たいのに、穂高くんがいたら生徒会室に入れませぇんって、私に泣きついてきたの」
萩原は、ぱっちりした目元が印象的な、超短髪女子。どこか男勝りなところがあって、面倒見がいいし、後輩に好かれる姉御タイプだ。
実は編入早々、萩原に告白された。まぁ、断ったけど。
そのときの萩原は、黒髪ロングの清楚系美少女だった。しかし告白を断った翌日に会ったら、もう今の短髪で。俺は失恋で髪を切ったのかと思って、ちょっとあせったけれど。
そうではなくて。黒髪ロングのほうがカツラだったようだ。
萩原の趣味は、コスプレ。
清楚系美少女も、なり切ったキャラ作りだったと、あとからサバサバした感じで言ってきた。
『ラブちゅなの春香ちゃんみたいな感じなら、藤代くんを落とせると思ったのになぁ』ってな。
ちなみに『ラブちゅな』はアニメの名前らしい。どんなアニメか知らんけど。
それで、その短髪も、カツラをつけるのに楽だからという理由だった。俺のせいで髪を切ったのではなくて、ホッとしたよ。つか、ビビらすな。
「ジャックの高瀬が、ふたりのあまーい空間に割って入って降格になったからだろう? 気ぃ遣うぜぇ、王様」
茶髪をツンツンとがらせた派手な姿の割に、テストでトップの座を明け渡したことがないという深見が言った。
ちょっと癖ツヨな先輩だが、俺が大好きだと公言してはばからないので、俺の敵にはならない。
まぁ、誰も俺の敵にはならないが。千雪以外は。
萩原と深見以外の生徒会メンバーは、俺と千雪が付き合っていることなど知らない。だが、高瀬の降格事件以来、なんとなく察しているようで。
生徒会関係者は、千雪には『触らぬ神に祟りなし』的、暗黙の了解であった。
「俺の邪魔をするやつは排除する。資料が欲しければ、昼休み前に取りに来れば良かったんだ」
「さすがの俺様発言。いや、王様発言か。その傲慢っぷりがたまらんのよぉ」
俺の言葉に、深見が己の体に腕を巻きつけ、くねくねしながら言った。キモっ。
「みんなでやれば、五分で終わる作業を、ふたりきりで三十分もかけちゃってぇ」
ニヤニヤしながら、萩原が俺をからかう。つか、おまえ俺のこと好きだったんじゃないのか?
「千雪は照れ屋だから、教室とか、ひと目のあるところで俺と話したがらないんだよ。だから俺がああして、ふたりの時間を作ってんの。健気だろぉ?」
千雪のことを思い浮かべながら言ったら、口元が自然にゆるむ。そんなデレデレな俺を、萩原はげんなりと見やって言った。
「そんなの、穂高くんをジャックに指名すればいい話じゃない?」
ジャックは、いわゆる生徒会執行部の通称だ。
役員以外に、生徒会の雑務を引き受ける部署がある。
「ティータイムにおやつをつまみながらトークに花を咲かせぇ、夜遅くまでふたりきりで作業しちゃったりしてぇ、暗いから家まで送るよ…なんてぇ。狼がなに言ってんのぉって、こっちは思うけど。イチャイチャする口実がたーっぷりあるじゃない?」
萩原が言った場面を想像する、俺。
いい。憧れのシチュエーションである。
しかし、俺は眉間に皺を寄せる渋い顔つきで、つぶやいた。
「断られた」
「は?」
まったく思いもしなかった単語だったのだろう。萩原と深見は同時に聞き返してきた。
128
あなたにおすすめの小説
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
その告白は勘違いです
雨宮里玖
BL
高校三年生の七沢は成績が悪く卒業の危機に直面している。そのため、成績トップの有馬に勉強を教えてもらおうと試みる。
友人の助けで有馬とふたりきりで話す機会を得たのはいいが、勉強を教えてもらうために有馬に話しかけたのに、なぜか有馬のことが好きだから近づいてきたように有馬に勘違いされてしまう。
最初、冷たかったはずの有馬は、ふたりで過ごすうちに態度が変わっていく。
そして、七沢に
「俺も、お前のこと好きになったかもしれない」
と、とんでもないことを言い出して——。
勘違いから始まる、じれきゅん青春BLラブストーリー!
七沢莉紬(17)
受け。
明るく元気、馴れ馴れしいタイプ。いろいろとふざけがち。成績が悪く卒業が危ぶまれている。
有馬真(17)
攻め。
優等生、学級委員長。クールで落ち着いている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる