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24 とても嬉しかった 藤代side
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怒りと心を落ち着かせるため、俺は大きく息を吐いた。そして少し周りが見えるようになって。
千雪の背後にいた須藤が、俺の目に入った。
彼女は手を口元に当て、驚きの表情を浮かべていたが、手に隠し切れなかった唇がニヤリとゆがんだのが見えた。
なんだ、こいつ。
千雪と俺を仲違いさせて喜んでいるんだろうか?
そんなふうに思って、俺は須藤に猛烈な不快感を抱いた。
俺は、彼女の思惑にまんまとハマって、千雪に怒りを向けてしまったってことか?
なんたる、未熟っ。
無垢な千雪を利用しようとする女の醜悪にも、吐き気がした。
「あの、藤代くん。勘違いしないでね。私、穂高くんとはなにも…」
以前仲の良かった女に手を出されて怒る男の図ってか?
俺が千雪に嫉妬したとでも思ったか?
バカじゃね?
須藤の笑みには優越感がにじんでいる。俺が須藤にまだ気があると思っているようだ。
いや、最初からその気なんかなかったけど。
五月くらいに、千雪が園芸部を辞めて生徒会に立候補するよう、裏工作したとき。一回だけ須藤とカラオケに行って、ちょっと遊んだだけだ。まぁ、園芸部を辞めてまた俺と遊んでくれないかなぁ…とは言ったけど。その後須藤と遊んだことはない。それで、俺が気がないってわかるだろ?
それくらいの仲なのに、バカな勘違いして、平気で俺に気安く声をかけてくる。
親しそうなふりをするな、千雪が誤解するだろうがっ!
だから俺は、凶悪な感情を隠す気もなく須藤を睨みつけた。
「あんた…誰?」
おまえのことなど一ミリも知らない、という顔で。
俺の千雪に声かけてんじゃねぇという不機嫌さを前面に出して。
突き放す不穏な声音で冷たく言い放つ。
すると、俺の作り笑顔しか知らない須藤は、己の失態を悟って固まった。
「藤代、帰ろう」
険悪な空気の中に、千雪の声が割って入った。
俺の胸に、清涼な風が吹き抜ける。
「あぁ、そうだな。こんな女、相手にしている時間がもったいない」
流れというか、ついでというか、ここぞとばかりというか。俺は千雪の手を握り、ラブラブアピールをして教室を出た。
どうだ、おまえなんか眼中にない。俺には千雪だけだ。
そんな気分で廊下を歩く。指を絡める恋人つなぎに手を握り直すと、彼が自分のものである実感を得られた。
「あの、藤代…手を」
千雪は恥ずかしがり屋だから慌てたけれど、俺は手を離さなかった。
棚からぼた餅、満喫しますっ。
「早く、ふたりきりになりたい」
とびっきり甘い声で、千雪に囁く。
先ほど怖い思いをさせたのを早くリセットしたくて、思い切り千雪を甘やかしたかった。
だから、千雪の答えは期待していなかったのだけど。
「いいよ」
そう言って、千雪が手を握り返してくれた。
はぁぁぅぅぅっ、まさか??
俺は驚いて、千雪の顔をのぞき込む。
彼はいつも通り、小さな口をキュッと引き結んでいるが、頬は少しだけ色づいていた。
千雪の表情が、もう、胸を刺し貫くほどの衝撃で、猛烈に可愛い。
そう思う一方、なんとなく申し訳ない気になった。
俺が怒ったのって。母親がよその子に笑いかけたのが、なんか嫌って思う、子供じみた独占欲だった。
ずっと、そういう、どうしようもなく幼い愛情を、俺は千雪に向けているのだ。
そんな、クソみたいな俺の感情を、千雪は受け止めてくれた。
俺の理不尽な怒りも優しく包みこんで、俺が落ち着くのを待ってくれた。
千雪の度量の深さに、俺は惚れ直してしまう。
どんどん、どんどん、彼を好きになる。
そして、今までなかなか感じることのできなかった千雪の愛情が、握り返す手のひらのぬくもりから伝わって。
とても嬉しかった。
千雪の背後にいた須藤が、俺の目に入った。
彼女は手を口元に当て、驚きの表情を浮かべていたが、手に隠し切れなかった唇がニヤリとゆがんだのが見えた。
なんだ、こいつ。
千雪と俺を仲違いさせて喜んでいるんだろうか?
そんなふうに思って、俺は須藤に猛烈な不快感を抱いた。
俺は、彼女の思惑にまんまとハマって、千雪に怒りを向けてしまったってことか?
なんたる、未熟っ。
無垢な千雪を利用しようとする女の醜悪にも、吐き気がした。
「あの、藤代くん。勘違いしないでね。私、穂高くんとはなにも…」
以前仲の良かった女に手を出されて怒る男の図ってか?
俺が千雪に嫉妬したとでも思ったか?
バカじゃね?
須藤の笑みには優越感がにじんでいる。俺が須藤にまだ気があると思っているようだ。
いや、最初からその気なんかなかったけど。
五月くらいに、千雪が園芸部を辞めて生徒会に立候補するよう、裏工作したとき。一回だけ須藤とカラオケに行って、ちょっと遊んだだけだ。まぁ、園芸部を辞めてまた俺と遊んでくれないかなぁ…とは言ったけど。その後須藤と遊んだことはない。それで、俺が気がないってわかるだろ?
それくらいの仲なのに、バカな勘違いして、平気で俺に気安く声をかけてくる。
親しそうなふりをするな、千雪が誤解するだろうがっ!
だから俺は、凶悪な感情を隠す気もなく須藤を睨みつけた。
「あんた…誰?」
おまえのことなど一ミリも知らない、という顔で。
俺の千雪に声かけてんじゃねぇという不機嫌さを前面に出して。
突き放す不穏な声音で冷たく言い放つ。
すると、俺の作り笑顔しか知らない須藤は、己の失態を悟って固まった。
「藤代、帰ろう」
険悪な空気の中に、千雪の声が割って入った。
俺の胸に、清涼な風が吹き抜ける。
「あぁ、そうだな。こんな女、相手にしている時間がもったいない」
流れというか、ついでというか、ここぞとばかりというか。俺は千雪の手を握り、ラブラブアピールをして教室を出た。
どうだ、おまえなんか眼中にない。俺には千雪だけだ。
そんな気分で廊下を歩く。指を絡める恋人つなぎに手を握り直すと、彼が自分のものである実感を得られた。
「あの、藤代…手を」
千雪は恥ずかしがり屋だから慌てたけれど、俺は手を離さなかった。
棚からぼた餅、満喫しますっ。
「早く、ふたりきりになりたい」
とびっきり甘い声で、千雪に囁く。
先ほど怖い思いをさせたのを早くリセットしたくて、思い切り千雪を甘やかしたかった。
だから、千雪の答えは期待していなかったのだけど。
「いいよ」
そう言って、千雪が手を握り返してくれた。
はぁぁぅぅぅっ、まさか??
俺は驚いて、千雪の顔をのぞき込む。
彼はいつも通り、小さな口をキュッと引き結んでいるが、頬は少しだけ色づいていた。
千雪の表情が、もう、胸を刺し貫くほどの衝撃で、猛烈に可愛い。
そう思う一方、なんとなく申し訳ない気になった。
俺が怒ったのって。母親がよその子に笑いかけたのが、なんか嫌って思う、子供じみた独占欲だった。
ずっと、そういう、どうしようもなく幼い愛情を、俺は千雪に向けているのだ。
そんな、クソみたいな俺の感情を、千雪は受け止めてくれた。
俺の理不尽な怒りも優しく包みこんで、俺が落ち着くのを待ってくれた。
千雪の度量の深さに、俺は惚れ直してしまう。
どんどん、どんどん、彼を好きになる。
そして、今までなかなか感じることのできなかった千雪の愛情が、握り返す手のひらのぬくもりから伝わって。
とても嬉しかった。
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