26 / 44
25 藤代の悩みは理解できない 穂高side
しおりを挟む
藤代の家の彼の部屋、足を踏み入れるなり、僕は藤代に抱きしめられた。
溺れる者が藁を掴むような、力強さで。
迷子の子供のように、頼りなく縋りつき。
酸素を求めてもがくかのような、苦しげなキスをする。
「千雪…俺の千雪」
くちづけの合間に、藤代は甘く囁き、僕を怖がらせないよう気を使う。
その、少しばかり力加減の強いキスを、僕は止めなかった。
嫉妬に狂う彼の瞳を、美しいと思ってしまったから。
燃える、潤む、その輝きに、見惚れてしまったから。
手を恋人つなぎして喜ぶ藤代の行動が、困るけれど…可愛いと思ってしまったから。
独占欲をあらわに僕を求める藤代が、愛おしい。自分だけが彼の寂しさを癒してあげられる。
そんな、大いなる勘違いをしてしまいそうだ。
五ヶ月ほど、彼と付き合ってきて。自分にないものをすべて持っていると思っていた彼が、実はそうではないのだと知った。
みんなが尊敬や憧憬の思いで、彼をみつめている。
しかし藤代には、その瞳がガラス玉のように見えているのだという。
あの視線に意味なんかないって、よく言っていた。
親や大人までもそういう感じだから、最初は恩恵を喜んで受け取っていたものの、次第に心のない人形のように見えてきた、らしい。
親に怒られたり、勉強しろと言われたりしたこともないんだって。
勉強しろと言われていないのに、梓浜学園で一位の成績を取るとか、嫌味かと思うけど。
まぁ、親と心を通い合わせられないのは、悲しいことだな。
僕の家は円満だから、家族への憂いはない。だからこそ、同情はするけど。
つまり、それゆえに藤代は孤独だった。
僕から見れば藤代は、眉目秀麗、成績優秀、品行方正だ。充分、人の好意を受ける資格があると思う。
あの能力がなくっても、藤代は衆目を集める人物に違いない。
でも藤代は、それは上辺の評価であり、能力に惑わされた者が神聖視しているだけだと言う。
「真の自分を見通せるのは、能力に惑わされない千雪だけ。だから千雪が特別なんだ」
恋に溺れる潤んだ瞳で、かつて藤代はそう告げた。
まぁ、普通を装う僕は、特別視されていることに思うところアリアリで、苦笑するけど。
いわゆる、僕に言わせればそれは贅沢な悩みなのだ。誰にも注目されずに一生を終える人もいるのだから。たぶん。僕みたいな…。
まぁ、今僕は藤代にめっちゃ注目されちゃっているけどね。
でも、たとえばマネキン人形に囲まれて、マネキンがこっち見てるとか思うと、キモいかもね。
うーん、やっぱり僕には藤代の悩みは理解できない。
それはさておき。
普通の友人が欲しいというささやかな望みが叶えられないのも、可哀想って言えば可哀想だな。
「千雪、俺だけを見ていろよ」
僕の唇を吸っていた藤代が、口腔の中に舌を入れ、ディープなキスに移行する。
その瞬間はいつも、体中が彼に支配されるような、そんな気になる。
強引に占領されるような感覚にあらがいたい。
でも藤代のキスは、なにもかもを押し流す、とてつもない快感を僕にもたらすのだ。
彼の視線は、僕の心臓の鼓動を早め。
彼の手は、触れるだけで僕を歓喜させた。
くちづけは蕩けるように甘い。
舌で口腔を舐められると、その軌跡がウズウズして、官能に背筋がゾワリとした。
もしも彼とのキスが、生理的にどうしても受け入れられないものだったなら、僕は嫌がって反骨精神を高め、藤代と真っ向対峙していたかもしれない。
けれど。最初から藤代のキスは気持ち良かったのだ。
はじめてのキスが濃密な快感を呼んだのだ、初心者にあらがえるわけもない。
それでも、最初に自分の意思を無視してキスをし、僕をいいなりにしようとした、彼の横暴は今も許せない。
僕は今でも、藤代が嫌いだ。
でも、傲慢に振舞う藤代が、虚勢を張っているのを知っているから可哀想だと思ってしまう。
嫌いだけど、好きなところもある。顔とか声とか、必死に僕を求めるところとか。
憎らしいけど、愛おしさもたまに感じる。
そんな両極端な相反する感情が、僕の中に渦巻いていた。カオスだ。
自分で自分がわからないというやつ。
でも、僕も。少しはいいなりモードが入っていると思うんだよね。
そうじゃなきゃ、彼とのキスが気持ち良かったり、嫉妬する彼がいじらしいと思ったり…しないだろ? しないよな?
「あの女、なにを言ってきたんだ?」
藤代はキスをほどいて、ようやく本題に入った。
僕、まだ彼の部屋に一歩しか入っていないんですけど。
溺れる者が藁を掴むような、力強さで。
迷子の子供のように、頼りなく縋りつき。
酸素を求めてもがくかのような、苦しげなキスをする。
「千雪…俺の千雪」
くちづけの合間に、藤代は甘く囁き、僕を怖がらせないよう気を使う。
その、少しばかり力加減の強いキスを、僕は止めなかった。
嫉妬に狂う彼の瞳を、美しいと思ってしまったから。
燃える、潤む、その輝きに、見惚れてしまったから。
手を恋人つなぎして喜ぶ藤代の行動が、困るけれど…可愛いと思ってしまったから。
独占欲をあらわに僕を求める藤代が、愛おしい。自分だけが彼の寂しさを癒してあげられる。
そんな、大いなる勘違いをしてしまいそうだ。
五ヶ月ほど、彼と付き合ってきて。自分にないものをすべて持っていると思っていた彼が、実はそうではないのだと知った。
みんなが尊敬や憧憬の思いで、彼をみつめている。
しかし藤代には、その瞳がガラス玉のように見えているのだという。
あの視線に意味なんかないって、よく言っていた。
親や大人までもそういう感じだから、最初は恩恵を喜んで受け取っていたものの、次第に心のない人形のように見えてきた、らしい。
親に怒られたり、勉強しろと言われたりしたこともないんだって。
勉強しろと言われていないのに、梓浜学園で一位の成績を取るとか、嫌味かと思うけど。
まぁ、親と心を通い合わせられないのは、悲しいことだな。
僕の家は円満だから、家族への憂いはない。だからこそ、同情はするけど。
つまり、それゆえに藤代は孤独だった。
僕から見れば藤代は、眉目秀麗、成績優秀、品行方正だ。充分、人の好意を受ける資格があると思う。
あの能力がなくっても、藤代は衆目を集める人物に違いない。
でも藤代は、それは上辺の評価であり、能力に惑わされた者が神聖視しているだけだと言う。
「真の自分を見通せるのは、能力に惑わされない千雪だけ。だから千雪が特別なんだ」
恋に溺れる潤んだ瞳で、かつて藤代はそう告げた。
まぁ、普通を装う僕は、特別視されていることに思うところアリアリで、苦笑するけど。
いわゆる、僕に言わせればそれは贅沢な悩みなのだ。誰にも注目されずに一生を終える人もいるのだから。たぶん。僕みたいな…。
まぁ、今僕は藤代にめっちゃ注目されちゃっているけどね。
でも、たとえばマネキン人形に囲まれて、マネキンがこっち見てるとか思うと、キモいかもね。
うーん、やっぱり僕には藤代の悩みは理解できない。
それはさておき。
普通の友人が欲しいというささやかな望みが叶えられないのも、可哀想って言えば可哀想だな。
「千雪、俺だけを見ていろよ」
僕の唇を吸っていた藤代が、口腔の中に舌を入れ、ディープなキスに移行する。
その瞬間はいつも、体中が彼に支配されるような、そんな気になる。
強引に占領されるような感覚にあらがいたい。
でも藤代のキスは、なにもかもを押し流す、とてつもない快感を僕にもたらすのだ。
彼の視線は、僕の心臓の鼓動を早め。
彼の手は、触れるだけで僕を歓喜させた。
くちづけは蕩けるように甘い。
舌で口腔を舐められると、その軌跡がウズウズして、官能に背筋がゾワリとした。
もしも彼とのキスが、生理的にどうしても受け入れられないものだったなら、僕は嫌がって反骨精神を高め、藤代と真っ向対峙していたかもしれない。
けれど。最初から藤代のキスは気持ち良かったのだ。
はじめてのキスが濃密な快感を呼んだのだ、初心者にあらがえるわけもない。
それでも、最初に自分の意思を無視してキスをし、僕をいいなりにしようとした、彼の横暴は今も許せない。
僕は今でも、藤代が嫌いだ。
でも、傲慢に振舞う藤代が、虚勢を張っているのを知っているから可哀想だと思ってしまう。
嫌いだけど、好きなところもある。顔とか声とか、必死に僕を求めるところとか。
憎らしいけど、愛おしさもたまに感じる。
そんな両極端な相反する感情が、僕の中に渦巻いていた。カオスだ。
自分で自分がわからないというやつ。
でも、僕も。少しはいいなりモードが入っていると思うんだよね。
そうじゃなきゃ、彼とのキスが気持ち良かったり、嫉妬する彼がいじらしいと思ったり…しないだろ? しないよな?
「あの女、なにを言ってきたんだ?」
藤代はキスをほどいて、ようやく本題に入った。
僕、まだ彼の部屋に一歩しか入っていないんですけど。
125
あなたにおすすめの小説
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる