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32 とても、怖い 藤代side
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十一月。教室の窓を冷たい風が揺らす季節。教室の自分の席に座り、俺は生徒会選挙の開票結果が放送されるのを待っていた。
後ろの席には千雪が座っているけれど、俺は目も合わせないし、話しかけもしない。後ろも振り向かない。
ここ一週間ほど、俺は萩原に言われた通り、千雪といっさい口を利かなかった。
前後の席順はどうしようもないけれど、休み時間は距離を取ったし。
級友と話す中でも、穂高千雪ワードは口にしなかった。
話題に乗せて選挙の話に流れたら、公正な選挙と言えなくなってしまうかもしれない。
俺は本当に、一週間、最大限に気を使って生きた。
すべては、千雪を生徒会入りさせるためにっ!
その、俺の徹底した態度の甲斐あって、生徒たちの中には、俺と千雪が決裂したんじゃないかって噂するやつもいたくらいだ。
うん、それくらいの方が、ありがたい。決裂していたら、選挙で俺が千雪を後押しするという考えにはならないだろうからな。
しかし。この一週間。俺は本当に千雪のことしか考えていなかった。
彼が最後につぶやいた「間違えた」という言葉がずっと胸の奥に引っかかっているのだ。
千雪は、選挙が終わったら話そうと言ったが。
もしかして、最悪な結果になるんじゃないかって恐れていた。
だから、千雪と話はしたいけど。話をするのが怖い。
ストレスが積もりに積もっていき、頭が爆発しそうだったが。とにかく、選挙が終わるのを俺は沈黙して待ったのだ。
千雪は、常にクールだ。
色っぽいキスをすると、怜悧な瞳が潤んで、とても可愛くなるけど。
唇が離れたら、その瞳はスッと透き通る。熱情は一瞬でかき消えた。
そんな千雪をそばに留め置くのが、大変だった。俺はいつも必死だ。
帰りにファミレス寄る? とか。ここの本屋は品揃えが良いよ、見ていく? とか。ゲーセンで遊んで行こ? とか。あらゆる方法で誘いをかけるが、大抵は素っ気なく『興味ない、時間の無駄』と、断られる。
そうなったら、最後の手段だ。
「千雪、俺の家に来て。今日課題出ただろ? 俺のも千雪がやって」
すぐにも帰ると言い出しそうな千雪に、俺は命令した。すると彼は、俺の家に素直についてきて課題をするのだった。
俺は、自分の部屋や俺のテリトリーに千雪を縛りつけておきたくて、いつも課題や生徒会の案件を千雪に押しつけたのだ。
だって、キスの効果があるのなら、千雪は俺の望みを叶えずにはいられないはずだから。
だけど。真剣な顔つきでノートにペンを走らせる千雪に、キスで乱れた色っぽさはみじんも残っていない。ストイックな彼を見ると、俺はいつも泣きそうな気分になった。
元カノみたいに、なんでもいいなりにならなくてもいい。ただ、千雪に愛されていると感じたかった。
俺は千雪に縋りつく。無様でもいい。
そりゃあ、好きな人には格好良いところだけを見てほしいけれど。今はなりふり構っている場合じゃないからな。だから、彼の前で泣いたし。華奢な体にしがみつくように、体をきつく抱いた。
愛されていなくても、手放せない。離したくない。
そんな、情けなく泣く俺を、千雪は抱きしめてくれた。
だから、大丈夫。自分は愛されている。
選挙期間中、千雪と話せなかった間は、そう思って気持ちを慰めていた。
だけど、俺の頭の中には常に肯定と否定が入れ替わっていた。
自分は千雪に、愛されているのか、愛されていないのか。彼の気持ちはまだわからない。
今まで怖くて、その疑問を千雪にぶつけたことはなかった。またあのときのように、真っすぐにみつめられ、嫌いだと言われたら。
憤怒の炎に焼かれたら。
自分は自分を保てるだろうか。千雪を傷つけずにいられるだろうか。
そして、彼を失う悲しみに耐えられるのだろうか。
千雪を失う、そんな不安が常にあるから、彼を手放せないのだけど。
だが、千雪の方から「選挙が終わったら話をしよう」と言ったのは、彼が俺に歩み寄ってくれたからだと思うのだ。
俺は…ここを逃したら、きっと一生千雪の本音を聞く機会を失う。本能的に、そう感じていた。
とても、怖い。
第一声は、たぶん厳しい言葉だと思うから。
それでも原点にある最悪な問題を解決しなければ、いずれ千雪のすべてを失うだろう。
俺は、千雪の本当の恋人になりたい。だから、痛い言葉でも千雪の言葉を聞きたいんだ。
そして、俺は校内放送に耳を傾けた。投票は昼休みに行われており、六時間目終了後、開票結果が放送された。
『会長、一のA藤代永輝、四八三票で当選です。副会長、一のA穂高千雪、三〇三票。二のA、堀田ゆかり、一二七票で当選です。書記、二のA…』
千雪の当選を耳にし、俺は勢いよく振り返った。
後ろの席にいる千雪は、びっくりした丸い目で俺を見る。
「やった、千雪、受かった」
千雪の手を握って、嬉しさのあまりブンブン振る。さすがに千雪は眉間に皺を寄せているが。接近禁止からの解放と、当選のダブルの喜びを、俺がおさえきれるわけがないっ。
「ありがとう、千雪。ありがとう…」
最後まで選挙を戦い抜いてくれた千雪に、感謝する。
「痛いよ、藤代…」
力を入れすぎたと思い、俺は手をゆるめる。
でも千雪は、そっとした微笑みを浮かべていて。
俺はもっと嬉しくなったのだ。
後ろの席には千雪が座っているけれど、俺は目も合わせないし、話しかけもしない。後ろも振り向かない。
ここ一週間ほど、俺は萩原に言われた通り、千雪といっさい口を利かなかった。
前後の席順はどうしようもないけれど、休み時間は距離を取ったし。
級友と話す中でも、穂高千雪ワードは口にしなかった。
話題に乗せて選挙の話に流れたら、公正な選挙と言えなくなってしまうかもしれない。
俺は本当に、一週間、最大限に気を使って生きた。
すべては、千雪を生徒会入りさせるためにっ!
その、俺の徹底した態度の甲斐あって、生徒たちの中には、俺と千雪が決裂したんじゃないかって噂するやつもいたくらいだ。
うん、それくらいの方が、ありがたい。決裂していたら、選挙で俺が千雪を後押しするという考えにはならないだろうからな。
しかし。この一週間。俺は本当に千雪のことしか考えていなかった。
彼が最後につぶやいた「間違えた」という言葉がずっと胸の奥に引っかかっているのだ。
千雪は、選挙が終わったら話そうと言ったが。
もしかして、最悪な結果になるんじゃないかって恐れていた。
だから、千雪と話はしたいけど。話をするのが怖い。
ストレスが積もりに積もっていき、頭が爆発しそうだったが。とにかく、選挙が終わるのを俺は沈黙して待ったのだ。
千雪は、常にクールだ。
色っぽいキスをすると、怜悧な瞳が潤んで、とても可愛くなるけど。
唇が離れたら、その瞳はスッと透き通る。熱情は一瞬でかき消えた。
そんな千雪をそばに留め置くのが、大変だった。俺はいつも必死だ。
帰りにファミレス寄る? とか。ここの本屋は品揃えが良いよ、見ていく? とか。ゲーセンで遊んで行こ? とか。あらゆる方法で誘いをかけるが、大抵は素っ気なく『興味ない、時間の無駄』と、断られる。
そうなったら、最後の手段だ。
「千雪、俺の家に来て。今日課題出ただろ? 俺のも千雪がやって」
すぐにも帰ると言い出しそうな千雪に、俺は命令した。すると彼は、俺の家に素直についてきて課題をするのだった。
俺は、自分の部屋や俺のテリトリーに千雪を縛りつけておきたくて、いつも課題や生徒会の案件を千雪に押しつけたのだ。
だって、キスの効果があるのなら、千雪は俺の望みを叶えずにはいられないはずだから。
だけど。真剣な顔つきでノートにペンを走らせる千雪に、キスで乱れた色っぽさはみじんも残っていない。ストイックな彼を見ると、俺はいつも泣きそうな気分になった。
元カノみたいに、なんでもいいなりにならなくてもいい。ただ、千雪に愛されていると感じたかった。
俺は千雪に縋りつく。無様でもいい。
そりゃあ、好きな人には格好良いところだけを見てほしいけれど。今はなりふり構っている場合じゃないからな。だから、彼の前で泣いたし。華奢な体にしがみつくように、体をきつく抱いた。
愛されていなくても、手放せない。離したくない。
そんな、情けなく泣く俺を、千雪は抱きしめてくれた。
だから、大丈夫。自分は愛されている。
選挙期間中、千雪と話せなかった間は、そう思って気持ちを慰めていた。
だけど、俺の頭の中には常に肯定と否定が入れ替わっていた。
自分は千雪に、愛されているのか、愛されていないのか。彼の気持ちはまだわからない。
今まで怖くて、その疑問を千雪にぶつけたことはなかった。またあのときのように、真っすぐにみつめられ、嫌いだと言われたら。
憤怒の炎に焼かれたら。
自分は自分を保てるだろうか。千雪を傷つけずにいられるだろうか。
そして、彼を失う悲しみに耐えられるのだろうか。
千雪を失う、そんな不安が常にあるから、彼を手放せないのだけど。
だが、千雪の方から「選挙が終わったら話をしよう」と言ったのは、彼が俺に歩み寄ってくれたからだと思うのだ。
俺は…ここを逃したら、きっと一生千雪の本音を聞く機会を失う。本能的に、そう感じていた。
とても、怖い。
第一声は、たぶん厳しい言葉だと思うから。
それでも原点にある最悪な問題を解決しなければ、いずれ千雪のすべてを失うだろう。
俺は、千雪の本当の恋人になりたい。だから、痛い言葉でも千雪の言葉を聞きたいんだ。
そして、俺は校内放送に耳を傾けた。投票は昼休みに行われており、六時間目終了後、開票結果が放送された。
『会長、一のA藤代永輝、四八三票で当選です。副会長、一のA穂高千雪、三〇三票。二のA、堀田ゆかり、一二七票で当選です。書記、二のA…』
千雪の当選を耳にし、俺は勢いよく振り返った。
後ろの席にいる千雪は、びっくりした丸い目で俺を見る。
「やった、千雪、受かった」
千雪の手を握って、嬉しさのあまりブンブン振る。さすがに千雪は眉間に皺を寄せているが。接近禁止からの解放と、当選のダブルの喜びを、俺がおさえきれるわけがないっ。
「ありがとう、千雪。ありがとう…」
最後まで選挙を戦い抜いてくれた千雪に、感謝する。
「痛いよ、藤代…」
力を入れすぎたと思い、俺は手をゆるめる。
でも千雪は、そっとした微笑みを浮かべていて。
俺はもっと嬉しくなったのだ。
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