【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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1 覚醒直後の急展開、ついていけませんっ

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     ◆覚醒直後の急展開、ついていけませんっ

「兄上、大丈夫ですか?」
 小さな子供が、心配そうに、こちらを見ている…。

 そのとき、ぼくは。前世の記憶がドドッと脳内に流れ込んできたことで、頭がクラッとしたのだが。
 いや。それだけではない。
 石つぶてが、こめかみに当たって。クラッともきている。
 とにかく。クラクラ。している場合ではない。

 今、人生において、けっこう大事な場面であることを。ぼくは十歳ながら理解していた。

 前世のことは、とりあえず後回しにする。
 今は、この状況を乗り越えなければならなかった。

「兄上に、手を出すなっ」
 両手を広げて、目の前でぼくをかばってくれるのは。弟のシオンだ。

 大丈夫。いろいろ混同しているが、ちゃんとわかっている。
 シオンはまだ四歳。ウェーブがかった黒髪がふわふわで、ぱっちり目んめが緑色で、小さくて、可愛い、ぼくの弟。
 シオンはぼくを守るために、アイツの前に立ちはだかっている。

 ダメだよ。こんなふうに片頬を歪ませて笑うようなやつは、子供相手でも容赦はしない典型だもの。
 ズキリと痛むこめかみに、手を当てる。指先に、血の赤がついた。
 くそっ。血が出るほど、本気で石を投げつけてきやがったな。

 今、ぼくとシオンと。母がいる場所は。バジリスク公爵邸の門の前だ。

 遠くに見えるのは、横に長い、白くて大きな建物。
 玄関にあたるところに、太い柱が二本立ち、宮殿のような豪華さのある屋敷だ。

 目を手前に転じていくと、大きな噴水が、惜しげもなく水を噴き上げ。
 そして門は、馬車が二台並んで入れるほどに大きな間口を、鉄の格子でふさいでいる。
 その門を、ほんのちょっと開けて。
 門番と、先ほどぼくに石を投げつけてきた、ぽっちゃり少年…いや、ちょっと大きい。中学生くらいの青年が立ちはだかっている。

 今日は、母とシオンとぼくが、この屋敷に迎え入れられるはずだった。

 母は公爵の第二夫人で。ずっと郊外の別邸で暮らしていたが。
 第一夫人である公爵家の女主人が、病で亡くなられたことで。母が正妻として、公爵家に入ることになっていたのだ。
 第一夫人には、子がなく。ぼくが公爵家の跡継ぎとなることも決まっていた。

 しかし、いざ公爵邸に到着しても、すぐには中に入れてもらえず。
 なぜか、少しぽっちゃりの見知らぬ青年が、応対に出てきたのだ。

 彼が、母に。公爵家の者だという証を示せ、と言うので。
 母は、公爵家の家紋が入ったペンダントを見せた。
 そうしたら、ぽっちゃりが、母からネックレスを奪って。
「公爵家の家紋を持つとは、不届きなやつだ。おまえなんかを、門の中に入れるわけがない。とっとと立ち去れ。めかけふぜいがっ」
 と、言い放ったのだ。
 それで、ぼくはカッときて。
「母上のネックレスを返せっ」
 と、その青年に食ってかかったわけだが。
 石を投げつけられ、地に膝をついた状態で、今に至る…。

 ええぇぇ? なにこの急展開。ついていけないんだけどぉ?
 なんて、思っている場合ではない。母はネックレスを奪われて、オロオロしているし。
 
「つか、あんた、誰?」
 なぜだか、この屋敷のあるじ顔をしている少年に、たずねた。
 単純に、誰かわからん。
 そうしたら、青年は。顔をトマトみたいに赤くして、唾を飛ばしながら言い放った。

「俺を知らないのか? 無恥な子供めっ。俺はバミネ・カザレニア。いや、この公爵家の後継者となったのだから、バミネ・バジリスクだな」
 これでもかという意地悪な顔つきで、バミネが言う。

 つか、バミネ? バミネって、あのバミネ?
 ぼくは嫌な予感に、頬をヒクヒク引きつらせた。

「母は、王家の血を継ぐ前王の妹、アナベラ・カザレニアだぞ。この度、公爵家の第一夫人に迎え入れられたのだ。つまり、おまえら親子に、この屋敷での居場所などない!」
 そう言うと、バミネはなにやら小瓶を取り出し、その中の液体をこちらにぶっかけてきた。
 液体は、勇敢にも兄をかばっていた弟を濡らし。
 シオンはその場でうずくまり。苦しみ始める。

「な? なにをかけた? シオン、大丈夫か?」
 小さな体を抱き締めるが。シオンはうぅと、唸るばかり。
 その様子を見て、愉快だと言わんばかりに、バミネは高笑いした。

「はははっ、低い身分のくせに、公爵家にもぐり込もうなどと、下種げすな考えをするから、このような目にあうのだ。それはな、魔女からもらった、生涯一度きり人を呪うことができる、特別な液体だ。魔女は、人として活動できなくなると言っていた。つまり、死ぬってことだろうなぁ?」

 ぽっちゃりは、頬を揺らして、ぼくらの不幸を見て楽しんでいる。
 性格悪いぽっちゃりは、目も当てられないぞっ。
 こちらも、呪い殺してやりたい。そんな気持ちで、やつを睨みつけた。 

「本当は、俺を愚弄ぐろうしたおまえを呪いたかったが。まぁ、いい。おまえの愚かな行いが、弟を殺したのだと、悔いてこの先を生きていくがいい」
 言うだけ言って、バミネは屋敷の中に入っていく。

 ぼくは。とにかくシオンを助けなければと思って。母に声をかけた。
「母上、まずはシオンを助けなければ。一度、宿に戻りましょう」

 別邸から、馬車で二日の道中だったので。宿を取っていたのは、不幸中の幸いだ。
 それに、別邸を出る前から、おかしな予兆はあったからな。
 こういう不安は、当たってほしくないものだが。当たっちゃうものだよね? 世の摂理。

「そうね。そうしましょう。貴方は大丈夫? なんだか言葉遣いがおかしいのだけれど?」
 えっ? おかしい? 前世の言葉遣い、出ちゃったかな。
「僕は大丈夫です。それより、早くシオンを治さないと」
 そうして、ぼくらは公爵邸の前から移動した。

 つか。ぼくの頭の中も整理したい。
 これっていったい。どういうことなんだぁ? 
 
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