【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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番外 モブを見守る、アイリス・フローレンスの歓喜 ②

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 なんとか心臓が爆発する前に、孤島につき。船から降りた。
「陛下の親衛隊長を務めます、セドリック・スタインと申します。王城までご案内させていただきます」
 すると、アイキンの攻略キャラである、赤髪の騎士セドリックが。さっそく現れたよぉ?

 えぇぇ? 大きな体躯に、ダイナミックな顔のパーツ。ちょーカッコイイ。
 いかにも頼りになる、兄貴的存在。マッチョ系、男らしい系が好きな乙女の方に、セドリックは人気だったけれど。
 うーん、でも。わたしは騎士×騎士推しなので。セドリックルートはないの。

 だって、セドリックはこの王城に勤務するきっかけのエピソードが、もう騎士×騎士しかないでしょ? って感じなのだもの。
 このストーリー考えたスタッフは、絶対に腐っていたはずよ。

 騎士×騎士も、イアン×クロウも、わたしはカップル推し。
 そして、わたしが恋愛するなら、王城にいるあの方って、心に決めているの。

 クロウ様が、あれだけお美人なのだから。
 たとえフィーバーしなくても、わたしはイアン×クロウ信者として、このカップリングの顛末を俄然、見守りたくなってしまったわ?
 そして騎士×騎士の恋模様も、わたしは壁になって見守っていきたい所存です。
 ぜひ、イチャイチャを見せてくださいませ。

 でも、せっかくゲーム内転生したのだから、アイキンの世界も満喫したいじゃない?
 だから。わたしはわたしで。ゲーム攻略目指しますね。
 
 なんて思っていたら。チョン様が、ニャーニャー鳴き出した。あらあら。
「その猫は?」
 それに、セドリックが目を止めた。

 ダメよ。ここでチョン様退場とか。あり得ないから。
「彼はチョン様です。とっても頭の良い猫様なのです。きっとあの豚…ぶ、ぶ、ブタクサみたいな匂いのする男が嫌いなのでしょう?」

 セドリックはバミネと深い因縁があり、バミネが嫌いなものは、イコール仲間、的な単純思考があるから。そこを突いておけば、きっと大丈夫よ。
 フォローした私の言葉に、はたしてセドリックは大声で笑った。
「なるほど、賢い猫だ。俺も、ブタクサの匂いのする奴が嫌いだよ、チョン様」
 そう言って、セドリックは見逃してくれた。
 はぁ、良かったわ。さぁ、城へ向かうわよ。

「アイリス様…先ほどはありがとうございました。チョンのこと…」
 律儀に、クロウ様がお礼を言ってきた。
 色っぽく濡れた黒い瞳は、どことなく和を感じさせ。前世の感覚がよみがえって親近感が湧く。
 あぁ、ヤバい、無理、吐血しそう。
 語彙力が死ぬほどの、お美人。

「とんでもない。私、猫ちゃんが大好きで。でも実家では飼うことができませんでしたから…」
 わたしの大事にしているものを、ことごとく奪っていく意地悪な姉がいたものだから。猫ちゃんなんか絶対に飼えなかったのよねぇ。
 取るだけならいいが、生き物は殺されちゃうかもしれないでしょ?
 そういう残酷なことをやりかねない、姉だったから。大きな庭や敷地があるというのに、生き物飼えないとか、宝の持ち腐れよ。

「だから、ここではぜひ、チョン様と仲良くしたいのですわ? それに、最重要猫様ですしね」
 もしもクロウフィーバーが来たら、チョン様はこじれたストーリーの糸を解きほぐす、キーパーソンになるはず。だから、絶対にこの舞台から下ろされるわけにはいかないのよ。
 そしてわたしは、それを阻止できて、ルンルン気分で坂を登っていった。

 大きな門を三つもくぐって、ようやく。本土から見えるのと同じシルエットの王城が、眼前にそびえた。
 うわぁ、これは迫力です。
 城といえばコレ、という。三角屋根の、高い三本の塔。
 そして王と、その家族が住まう住居城館は、石工で作られた、重厚感のあるお城。
 ゲームでは、パッケージにちょろっとシルエットがあるだけだったから。すっごい、リアルって感じ。

 そうして、セドリックがお城の中へわたしたちを案内し。すぐにも陛下がお出ましになるというので。わたしはスカートを指先で持ち、淑女の礼を取ったのだけど。
 クロウ様は、お城の素晴らしさに見惚れて、ちょっとぼんやりしていた。
 そんな、気の抜けたクロウ様も素敵です。

「イアン・カザレニア二十四世陛下がお出ましです」
 わたしは、深く頭を下げたが。ボリュームのある前髪の、その隙間から、相手に気づかれぬよう、相手をじっくり見るという技を身につけていた。
 すべては、この日のためにっ。
 だって、見逃せないでしょう? 陛下の初登場シーンとか。なにもかも。
 だから、気配を消して、壁になり切るとか。遠目でもズームしてピントを合わせるとか。脳内に情景を刻みつけるとか。人間離れした技も、修得済みよ。

 それで、それで。礼を取りそびれたクロウ様が、陛下とバッチリ目を合わせた。
 そのときの王様の顔。
 クロウ様を初めて目にし、あまりの美しさに驚いて、瞳が丸くなったわ。
 わかります。わたしもそうでしたから。

 っていうか、あぁ、この瞬間、もう、ふたりは恋に堕ちたのね? 

 クロウ様は、無礼だと気づいて、すぐに、床に座り込み、顔を伏せた。土下座の勢いよ。
 敬愛する陛下に、なんとか恭順きょうじゅんを示したいのよね? 健気けなげだわ。

 でも、クロウ様。
 大理石の白い床に、黒いマントがふわりと広がり、丸い円を作る。そのサマは、半紙の上にぼとりと黒い墨が垂れたかのように、異質な光景で。
 それゆえに、目を引きつけられる。

 そう。王の目は、もう、クロウ様に釘づけなのよぉ?

 陛下は、わたしと当たり障りない話をした。
 これは、イアンルートがないと示している。

 アイキンは、最初の受け答えでルート確定してしまうゲームだったのだ。攻略できずに成敗されてしまう者は、だいたい、ここでつまづいているんですよ?
 ま、のちのちも、答え間違えたら成敗されるけどね。リアルではどうなるのかしら?

 そして、陛下は満を持して、クロウ様の元へ。
 ゲームの中では、モブへの声掛けはない。

 クロウフィーバー以外は、ね?

 でもぉ? やはりぃ? これはぁ? まさかまさかのぉ?
「おまえが、バミネが寄越した仕立て屋か? 顔を上げろ」

 きたーっ、クロウフィーバーまで、あと一歩よ。頑張って、クロウ様。

 陛下のお声が厳しいけれど、それでいいのよ。その調子。
 クロウ様が陛下に応え、恐る恐る顔を上げる。
 やだぁ、脅えた顔、可愛すぎるんですけど?
 あぁ、わたしに絵の才能があったら、この場面を描き殴ってやるところだわっ。

 ちなみに、この一連の流れで、わたしは顔を伏せていますよ?
 目は、横目でガン見状態だけど。
 眼鏡のレンズを光らせて、モブに擬態することで、誰にも気づかれないという、究極奥義なの。

 黄金の髪を揺らす、ゴージャスな王が。クロウ様をじっくり見やっている。
 刺すような眼差しではあるが、言い換えれば、情熱的な眼差しとも言えるわね?

「陛下、お目にかかれて光栄です。クロウ・エイデンと申します」
 挨拶で、クロウ様が再び顔を伏せたら。陛下ったら、すかさず彼の顎を指先で掴んで、顔を上げさせたわ。

 アゴクイーッ? 

 王様なのに、自らも膝をついて、目を合わせている。
 うそぉ、クロウ様の顔見たさに、王様がそこまでやっちゃう? 近づいちゃう?
 まだオープニングみたいなものなのに。もう、キスしちゃうんじゃないかしらってくらいの近距離よ?

 ギャーッ、たまらん。ここで鼻血を吹かなかった自分を褒めたいわ。

「こんな長い前髪の仕立て屋などいるものか。はっきり申せ。おまえはバミネのスパイなのであろう?」
 そうよ、最初は疑心から入るのよ。アイリスが相手のときもね。
 でも嫌われからのぉ? っていうのが、最高のシチュエーションよ。
 底辺から挽回する過程が、アイキンの良いところよね。

 でも陛下、すでにクロウ様の美しさにやられちゃってるみたいだけど。大丈夫かしら?
「恐れながら、服もドレスも、何着も仕立てており。本土ではそれなりに実績もございます。バミネ…という者は、今回の件で初めてお会いしました。陛下の衣装を手掛けられるのは、最高の誉です。精いっぱい務めさせていただきます」
 脅されている空気感の中で、柔らかい微笑み。
 陛下はドキュンとやられたわ。そういう顔をしていたわ。

 もう、名場面ばかりで、わたしの目はガビガビよ。

 主人公補正で、無駄にでかいわたしの目が、ガン開きでドライアイ寸前よ。
 でもこの瞬間を見逃せない。まばたきひとつもできないわぁ。

 しかししかし、この流れは、もう確定ねっ。
「…クロウとは、異国でカラスという意味が…」

 キターーーーーーッ、クロウフィーバー!!

 あぁ、神様ありがとう。わたしにクロウフィーバーを肉眼で目撃できる機会を与えてくださって。
 もう。流れ星に当たったことなど、チャラでいいですっ。ええっ、いいですともっ!!
 あんまり嬉しくて、頭が真っ白になったわたしは、少し記憶が飛んだ。

 長居は許さぬと言って、王が去っていく。わたしはその間、軽く頭を下げた状態で微動だにしていなかった。
 そして姿が完全に見えなくなってから、顔を上げた。

 クロウ様は、陛下に嫌われたと思って、床にぺったんしたまま、悲しげに打ちひしがれているけれど。
 大丈夫よ。ここからなの。
 すべてはこれから、あんなシーンやこんなシーン、垂涎物のスチルが次々に繰り出されていくのよ。

 もう、興奮が冷めやらないわ。

「あああぁ、クロウ様…なんてこと。こんなことがあるなんて」
 わたしはクロウ様のそばに寄り、励ましの言葉をかけた。
「陛下がクロウをカラスだと言って貶めるのは、三パーセントの確率で出現する、幻のクロウフィーバーなのです。すごいです。ヤバいですぅ」
 あぁ、こんなことを言っても、クロウ様にはわからないわよね。クロウ様はアイキンなんか知らないんだから。
 でも、三パーセントの奇跡だということを、わかってもらいたいの。
 それにしても…。
「ああぁぁ、ヤバいわ、ヤバいわ。これからレアイベントがてんこ盛りよ。リアルで、この目で、クロウフィーバーを拝めるなんて。なんて幸運なのかしらっ!!」

 この世界に生まれて、前世の記憶がよみがえり、ここがアイキンの世界だと知ったとき。
 ある程度、命がかかっているから。主人公であるわたしが、王様を救うべきよねって、思っていたの。
 だって、バミネがこの世界の頂点に立ったら、絶対明るい未来なんかないじゃない? そこはなんとしても阻止しなきゃ。
 アイキンの世界を楽しみたいと思う一方で、そんなことを考えていた。

 でも、船の上でクロウ様を見かけたとき。あぁ、この役目はわたしではないのだわ、と感じた。
 実際にクロウフィーバーが起きるまでは、どう転んでも修正できるよう、心構えをしていたけれど。
 もう大丈夫ね。

 侍女長に名前を呼ばれ、もう行かなければならないけれど。
 わたしはクロウ様の手を握って、力づけた。
「クロウ様。きっと、愛の力で王様を救ってくださいね? あっ、成敗だけはされないように、気をつけてっ」
「は…え?」
 なんのことかわからないクロウ様は。目を白黒させて驚いている。

 でもね、これから愛にきらめく日々が始まるのよ?
 わたしは陰ながら、それを見守らせていただきますわ。
 いろいろ困難はあるでしょうが、わたしが答えを言ってしまったら、あのイベントや、このイベントが、見られなくなっちゃうかもしれないでしょ?
 だから、自力でガンバレ? 自称モブのクロウ様。じゅるり。

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