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13 そう言われても、ぼくはモブ
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◆そう言われても、ぼくはモブ
王が去ったあと、ぼくはエントランスホールで、しばし放心していた。
アイリスが、なにやら不穏な言葉を言っていたな。
つか、あの子、絶対転生者だろ?
王様を救って、とか。成敗に気をつけてとか。アイキンならではの言葉、知らなきゃ出てこないんじゃね?
でも。どうなんだろう? アイリスはどこからどう見ても、キラキラの主人公ちゃんで。
だったら、主人公が王様を救うのは当然の流れだろう?
でも、アイリスはぼくに、王様を救えなんて言った。
いやいや、そう言われても、ぼくはモブ。
どう転んだって、王様を救う流れになんかならないよ。
アイキンをやっていた転生者なら、そんなのわかり切っていることだろう?
だから、イマイチ、アイリスが転生した者だという確信が持てなかった。
転生なんて概念自体。なに言ってんの? 頭おかしいの? 案件だし。不用意に、問い質せないよな?
それにぼくはモブのクロウだから、アイリスに会うこと自体が、アイリスのイベントを邪魔する存在になりかねない。彼女の恋路を邪魔しないためにも、彼女とは極力会わない方が良い。そう思うんだけど。
三パーセントの確率で出現する、クロウフィーバー。
それだけは、いったいなんなのか、聞きたい衝動に駆られている。
彼女のイベント時ではないときに、なんとかもう一度アイリスに会って、そこのところを聞けないだろうか?
「おい、クロウ。いつまでも座ってんな。部屋に案内するから」
セドリックに声をかけられ、ぼくはようやく、放心から立ち戻った。
見上げると、セドリックが手を差し出している。
ぼくが手を出すと。彼は勢いよくぼくの体を引き上げ、立たせてくれた。
「かっる。ちゃんと食事は食べているのか?」
「いっぱい食べますよ。ふたり分でも余裕です」
自分自身は、それほど大食漢ではないが。
夜になったら、チョンが人型になる。チョンは猫のときはそれほど食べられないから、夜、いっぱい食べるのだ。
ひとり分の食事では、チョンが物足りなくなりそうだから、事前に食事の量は多めに、というのをアピールしておいた方が良いと思ったのだ。
もちろん、食事係の人にも、その点をお願いしようと思っているけどね。
「ふーん、見かけによらないな」
そう言って、セドリックはぼくの荷物を持って、あの、王も登っていった階段を、上がっていった。
っていうか、ナマ陛下を見ちゃったんだよなぁ。
あぁ、感動したよ。この階段の中ほどにいた、王様の立ち姿。
黄金の髪がたっぷりで、雅で、豪華で。
それに、モブに声をかけるとは思わなかったから。あんな間近で陛下のご尊顔を目にできるとも考えてなくて。
陛下の麗しい顔を思い出すと、興奮して、いまだに心臓が震えるよ。
この感動を、ぼくはセドリックにぶつけずにはいられなかった。
「セドリック様。陛下はなんてお美しいのでしょう? あまりにもまぶしくて、長く目を開けていられないほどでした。海色の瞳が、水面が輝くかのごとく、キラキラ光っていましたよ」
まるで、神が降臨されたかのようだった。
いや。ミカエルだな。大天使ミカエル様だ。
ぼくのイメージだと。ミカエル様は、口が悪いけど、力は強大。
『はぁ? 俺様が守ってんだから、傷ひとつ、つけさせねぇに決まってんだろっ』って、尊大に言い放つ感じ。
ミカエルは、確か、神の軍隊を率いる大天使だった。
あれ? カザレニアの王族のイメージにもピッタリじゃね?
でも、この世界では。神や天使の概念はあれども、名前の付いた者は、いたかなぁ? よくわからないから、ここでは言えないけど。
セドリックは、ぼくの話しかけをスルーして。黙々と廊下を進んでいくが。ぼくはまだまだ、感想を吐露し足りなかった。
「幼い頃に、よく英雄王の話を本で読みました。たくましく、勇壮で、気高い。そんな、想像していた英雄王の御姿よりも、陛下はさらにお美しくて。僕は、あのような方にお目にかかれて、とても幸せでした」
少し息を切らせながら、告げると。
セドリックは足を止め、ぼくを不思議そうに見やった。
「…もう、取り繕わねぇ。クロウ。単刀直入に聞くが、おまえは騎士団の依頼で仕事をしに来たんだろう?」
ようやく反応を返したセドリックに、嬉しくなって、ぼくは笑顔でうなずいた。
「はい。陛下にお似合いの衣装を必ず仕立ててみせます」
「バミネは、俺たちの敵なんだ」
「僕も、あの方は嫌いです」
まぎれもない、ぼくの本心だ。
ぼくは。ぼくたち家族は。アイツになにもかもを奪われたのだから。
「ふーん、さようですか」
口の端を引き上げて、セドリックは揶揄するような、ちょっと嫌な笑みを浮かべた。
まだ、チクチク感じるから。セドリックも陛下が言ったように、ぼくをバミネのスパイだと思っているのだろう。
それは仕方がない。
ぼくは外から来た人間だから。警戒するのはもっともなことなのだ。
むしろ、陛下の御身を護る親衛隊ならば、それくらい警戒心バリバリでいいんじゃない?
王が去ったあと、ぼくはエントランスホールで、しばし放心していた。
アイリスが、なにやら不穏な言葉を言っていたな。
つか、あの子、絶対転生者だろ?
王様を救って、とか。成敗に気をつけてとか。アイキンならではの言葉、知らなきゃ出てこないんじゃね?
でも。どうなんだろう? アイリスはどこからどう見ても、キラキラの主人公ちゃんで。
だったら、主人公が王様を救うのは当然の流れだろう?
でも、アイリスはぼくに、王様を救えなんて言った。
いやいや、そう言われても、ぼくはモブ。
どう転んだって、王様を救う流れになんかならないよ。
アイキンをやっていた転生者なら、そんなのわかり切っていることだろう?
だから、イマイチ、アイリスが転生した者だという確信が持てなかった。
転生なんて概念自体。なに言ってんの? 頭おかしいの? 案件だし。不用意に、問い質せないよな?
それにぼくはモブのクロウだから、アイリスに会うこと自体が、アイリスのイベントを邪魔する存在になりかねない。彼女の恋路を邪魔しないためにも、彼女とは極力会わない方が良い。そう思うんだけど。
三パーセントの確率で出現する、クロウフィーバー。
それだけは、いったいなんなのか、聞きたい衝動に駆られている。
彼女のイベント時ではないときに、なんとかもう一度アイリスに会って、そこのところを聞けないだろうか?
「おい、クロウ。いつまでも座ってんな。部屋に案内するから」
セドリックに声をかけられ、ぼくはようやく、放心から立ち戻った。
見上げると、セドリックが手を差し出している。
ぼくが手を出すと。彼は勢いよくぼくの体を引き上げ、立たせてくれた。
「かっる。ちゃんと食事は食べているのか?」
「いっぱい食べますよ。ふたり分でも余裕です」
自分自身は、それほど大食漢ではないが。
夜になったら、チョンが人型になる。チョンは猫のときはそれほど食べられないから、夜、いっぱい食べるのだ。
ひとり分の食事では、チョンが物足りなくなりそうだから、事前に食事の量は多めに、というのをアピールしておいた方が良いと思ったのだ。
もちろん、食事係の人にも、その点をお願いしようと思っているけどね。
「ふーん、見かけによらないな」
そう言って、セドリックはぼくの荷物を持って、あの、王も登っていった階段を、上がっていった。
っていうか、ナマ陛下を見ちゃったんだよなぁ。
あぁ、感動したよ。この階段の中ほどにいた、王様の立ち姿。
黄金の髪がたっぷりで、雅で、豪華で。
それに、モブに声をかけるとは思わなかったから。あんな間近で陛下のご尊顔を目にできるとも考えてなくて。
陛下の麗しい顔を思い出すと、興奮して、いまだに心臓が震えるよ。
この感動を、ぼくはセドリックにぶつけずにはいられなかった。
「セドリック様。陛下はなんてお美しいのでしょう? あまりにもまぶしくて、長く目を開けていられないほどでした。海色の瞳が、水面が輝くかのごとく、キラキラ光っていましたよ」
まるで、神が降臨されたかのようだった。
いや。ミカエルだな。大天使ミカエル様だ。
ぼくのイメージだと。ミカエル様は、口が悪いけど、力は強大。
『はぁ? 俺様が守ってんだから、傷ひとつ、つけさせねぇに決まってんだろっ』って、尊大に言い放つ感じ。
ミカエルは、確か、神の軍隊を率いる大天使だった。
あれ? カザレニアの王族のイメージにもピッタリじゃね?
でも、この世界では。神や天使の概念はあれども、名前の付いた者は、いたかなぁ? よくわからないから、ここでは言えないけど。
セドリックは、ぼくの話しかけをスルーして。黙々と廊下を進んでいくが。ぼくはまだまだ、感想を吐露し足りなかった。
「幼い頃に、よく英雄王の話を本で読みました。たくましく、勇壮で、気高い。そんな、想像していた英雄王の御姿よりも、陛下はさらにお美しくて。僕は、あのような方にお目にかかれて、とても幸せでした」
少し息を切らせながら、告げると。
セドリックは足を止め、ぼくを不思議そうに見やった。
「…もう、取り繕わねぇ。クロウ。単刀直入に聞くが、おまえは騎士団の依頼で仕事をしに来たんだろう?」
ようやく反応を返したセドリックに、嬉しくなって、ぼくは笑顔でうなずいた。
「はい。陛下にお似合いの衣装を必ず仕立ててみせます」
「バミネは、俺たちの敵なんだ」
「僕も、あの方は嫌いです」
まぎれもない、ぼくの本心だ。
ぼくは。ぼくたち家族は。アイツになにもかもを奪われたのだから。
「ふーん、さようですか」
口の端を引き上げて、セドリックは揶揄するような、ちょっと嫌な笑みを浮かべた。
まだ、チクチク感じるから。セドリックも陛下が言ったように、ぼくをバミネのスパイだと思っているのだろう。
それは仕方がない。
ぼくは外から来た人間だから。警戒するのはもっともなことなのだ。
むしろ、陛下の御身を護る親衛隊ならば、それくらい警戒心バリバリでいいんじゃない?
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