【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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26 陛下とお話しました

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     ◆陛下とお話しました

 陛下に剣を突きつけられたあと、自室に戻ったら。シオンがプリプリ怒っていて。
 あれは陛下一流の冗談だったんだよ、と解説したのだが。
 そんなわけあるかっ、と怒られた。

 なんで、ドッキリかけられたぼくが、怒られなきゃならないんだよぉ?
「兄上。もっと危機感を持ってください。剣を持った相手と丸腰の兄上が正面から対峙するなんて、ダメでしょ? ちゃんと逃げてくださいよ」
 でもさ。ゲームでは。攻略対象から逃げるなんて選択肢、ないじゃん?
 ま、モブのぼくに、そもそも選択肢など与えられないんだけど。

「でも、結局、冗談だったんだから。あそこで逃げたら、逆に不敬罪かもしれないだろう?」
「そんなわけあるかっ」
 また怒るぅ。そんなに怒ると、剥げるぞ。

「まぁ、とにもかくにも、第二成敗は回避した。もう、危険はないと思うぞ?」
「なんですか、第二成敗って?」
 シオンはジト目でこちらを睨んでくる。
 もう。せっかく切れ長の色気バリバリ目のいい男なのに、そんなジト目をしていたら癖になるぞ。やめなさい。

「こっちの話。さぁ、今日はもう寝よう。シオンも疲れただろう?」
「えぇ、ドッと疲れましたよ。兄上が剣を向けられるのを見て、寿命が五年縮まった」
 部屋にあるのは、シングルベッドだが。いつものように、兄弟でひとつの布団に寝る。
 朝になれば、シオンは猫になって。小さくなっているのだ。
 やっぱり疲れていたようで、夜はぐっすり寝た。

 そして、朝。小鳥のさえずりを耳にして、起きた。
 すっごい、これでもかというくらいにそれっぽい、朝の情景である。

 枕元には子猫のチョンが寝ていて。布団の中には、シオンが着ていた夜着が抜け殻のように残されている。
 ぼくは、それをクローゼットにしまい。
 代わりに、変身後に着替える用のシオンのズボンと下着を布団の中に入れておくのだ。
 それがぼくの朝の日課である。

 身支度をしたら、サロンに、朝食のワゴンが置いてあったので。それを自室に運び入れる。
 朝食は、シオンがそれほど量を食べられないので。スープやサラダやベーコンエッグなど、調理されたものはぼくが食べ。あとのパンや果物といった取り置きのできるものを、手付かずで残しておく。
 小さい胃袋になったチョンが、お腹が空いたと感じたときに食べたり。夕食時に足りないと感じたときに、取り置き分を食べるのだ。
 ふむふむ、食事やチョンの変身前後の立ち回りを心配していたが、うまくやっていけそうだな。

 朝食を終え、ワゴンをサロンの入り口に置いておいたら。それをセドリックが取りに来た。
 騎士が給仕のお手伝いをするのは大変だと思って、声をかける。

「おはようございます、セドリック様。食事のワゴンは、僕が厨房まで持っていきますよ?」
「おはよう、クロウ。いいや。おまえはまだ、城内をうろつくんじゃない。もうひとりの怖ーい騎士が、おまえを見かけたら、ぶった切るかもしれないからな」
 そう言って、ワゴンを持って、去っていく。
 昨日のドッキリで、疑いは晴れたかと思っていたが。どうやら、まだ、暗殺者疑惑は残っているらしい。
 いやいや、無理なの、わかるでしょ?
 体力値ゼロのインドア派ですから。

 そんなこんなで、前髪をビシッとゴムで結んで、仕事を開始した。
 サロンの中は、置時計の秒針がコツコツ時を刻む音や、ときどき暖炉の薪がはぜる音、それとチョンがあくびをする声、だけの。静寂の空間だ。
 布に針を刺す、些細な音すらも聞こえそうなほどに。

「兄上、陛下がお出ましですよっ」

 どこか棘のある感じで、チョンが報せてくれた。
 え? また来たの?

 ゴムを外して顔を上げると、白シャツに黒ズボンという軽装な陛下が、サロンの入り口で腕を組んで立っている。
 つか、足がながっ。
 きっと、ぼくのウエストくらいまで、足だよ。

 その立ち姿の、ベストバランスったらない。
 鍛えられている体つきながら、ゴリゴリマッチョではなく。身長に見合った、体に必要な筋肉をまとうかのような、スラリとのびやかな体躯だ。

 もう、これ絶対、ミリ単位で緻密に指定されているでしょ。
 公式っ。キャラデザに力入れすぎですよ。

「あ、陛下。どうぞこちらにおいでください」
 頭の中ではいろいろ考えているが、それを顔には出さず。笑顔で、陛下に暖炉前の椅子をすすめた。

「はぁ? なにしに来たんだよ、クソ陛下? 兄上に剣を向けやがって。僕は許さないからな、ボケ陛下っ」
 チョンが。陛下の前に出て。斜めになって、背中の毛を逆立させ。フォーンと、威嚇する。尻尾もビッタンビッタンしている。いわゆる、やんのか? ポーズである。
 もう。危ないから下がってて。
 ミハエルの剣でブスッとされたら、どうするんだ?

「…チョン?」
 一言、ぼくが言うと。
 チョンは渋々、暖炉前の椅子に戻っていく。血気盛んだな。

「すみません、チョンがご無礼を。猫がすることですので、なにとぞご容赦を…」
「この猫はチョンと言うのか? 主人を守る気概にあふれた、忠実な心意気だな。昨夜はいなかったようだが…」
「…猫は夜行性なので」
 夜は人型とは言えないので。冷や汗をかきながら説明した。
 すると陛下は、つるりとした若々しい顔ながら、眉間にしわを寄せ。神妙に告げる。

「夜は、外には出さない方が良い。城の裏の森には野生動物がいるからな」
「そうなのですか? 気をつけます」
 チョンは知性もあるし、夜は人なので、大丈夫とは思うが。
 子猫のときに、野生動物に襲われたら、ひとたまりもない。子猫くらいの大きさなら、ペロリと食べる動物もいるかもしれないからな? 怖っ。
 でも、こんなシャーシャー言う、可愛げのないチョンのために助言してくださるとか。陛下、お優しいぃ。
「…昨日、途中になった計測をしてもよい」
 ぼくは、陛下の言葉に、すっごく驚いてしまった。
 マジで? やった。

 計測中に、蹴られてしまったから。さすがに、もう採寸は無理だと思っていたんだよ。
 けど、やっぱ、バミネのサイズ申告は、大雑把だったし。
 良い服を仕立てるために、もう少しだけ、測れたらなぁと思っていたところだ。

「ありがとうございます、陛下」
 思いがけない申し出に、ぼくはにっこにこである。
「我が怖くないのか? 昨夜あのようなことをしたのに」
 あぁ、例のドッキリですか?
 そんな、いつまでも根に持ったりしませんよ。ドッキリだもの。

「恐れながら、実は剣を向けられたときは怖くて。一度は本気で死を覚悟したのですけど…」
 本気にしちゃって、お恥ずかしい。
 陛下は。王族の方は。そのような、戯れで人を斬るような御仁ではないのに。
 アイキンの成敗が頭にあったから、ゲームとリアルを混同してしまいました。いけないいけない。

「冗談だとお聞きし、納得いたしました。僕は陛下にお会いするので、城に入ってからずっと緊張していたのですけど。僕の気持ちをほぐすために、陛下はあのようなことをしてくださったのでしょう? なのに、僕ったら。陛下の冗談を真に受けて。本当に無粋で。申し訳ありません」

 陛下は、真顔で、ぼくをみつめる。
 きっと、冗談の通じない頭の固い男だと思われてしまったな。
 人付き合いベタの悪い面が出てしまった。そこは笑って軽く流すとこだろうがよ、みたいな?

「あの…もしや。昨夜の剣は、名高きミハエル六世陛下のものではありませんか?」
 ぼくは、昨日気になっていたことを、陛下に思いきって、たずねた。

 だって。もしも、そうなら。これはすごいことですよっ。王家オタクの血が騒ぐ。

「まぁ、年代的には、そうだな」
 ふぁぁぁぁっ、陛下がうなずいた。
 マジっすか? ヤバい、格好良いカッケー。ヤバい、格好良いカッケー。語彙力死す。

「やっぱりっ…剣を抜いた陛下を見て、そうではないかと思っていたのです。背後にほむらが立つかのごとき迫力。優美で気高き御姿。物語を読んで想像したミハエル様と。陛下が目の前で重なり…感動の余り、恐怖など吹き飛んでしまいましたっ」
 前世ではあふれていた、ゲームや小説や漫画は、この世界にはない。
 そんな中、ぼくが楽しみを見出したのは、王家の伝記だった。
 ノンフィクションでありながら、そこには創作物よりもリアルなドラマが展開されている。
 キャラ立ちも見事で。どの話も引き込まれた。

 前世で収集癖もちょっとあったから。もう、好きになっちゃうと。関連本とか集めたくなっちゃって。
 居候の身なので、できうる範囲だけど、手に入れられる物は手に入れて、読みあさったものです。

 そんな中でも、ミハエルの伝記は最高峰。
 山越えしてくる隣国の猛将との、一騎打ちアクション。
 雪山での部下たちとの交流は、ハートフル。
 同期の騎士との友情は、涙、涙で。
 隣国の姫を妃に迎えたあとは、政治と恋愛が複雑に絡み合うドロドロサスペンス。
 笑いあり、涙ありの感動巨編だっ。

 その、ミハエル様が実際に使っていた剣が、存在する…だとぉ?
 ヤバいとカッケーしか出てきません。

 しかも、ミハエルがリアルに存在したら、こんな感じ。って思っていた陛下が。昨夜ぼくの目の前で、その剣を振りかざしたんだよぉ?

 あぁ、もっと、ガン見しておくべきだった。

 はっ、いけない。つい、ミハエルについて、脳内で熱く語ってしまった。
 陛下の気が変わらないうちに、採寸しなきゃならないのに。

 でも、陛下とこうしてお話しできるなんて。夢みたいだな。
 衣装を作りに来た、ただの仕立て屋に、これほど目をかけていただけるなんて。
 陛下は平民にもへだてなく、とても親身に接してくださる、素晴らしい国王様なのだな。

 ぼくもしっかり、仕事をしよう。
 そうして、陛下になるべく触れないよう、採寸していく。
 メモと計測を繰り返すことになり、集中すると黙りがちになってしまうが。
 測りたい場所が多いから仕方がないのだ。
 足の内径だけでも、筋肉の盛り上がったふくらはぎや、一番細いすねの部分、膝頭、足首など、執拗と思われるほどに、採寸してしまった。

「そのように細かく測っても、出来上がりは大差ないのではないか?」
 べ、べつに、陛下のサイズを隅から隅まで調べたいとか思っているわけでは…ありませんよっ。
「そんなことはありません。体に合った服は動きの制限を感じさせず、とても気持ちの良いものですから」
 もっともらしい言い訳…じゃなく、説明をして。陛下に笑いかける。
 すると。ぼくは足の計測をするのに、床に膝をついていたのだが。

 そのぼくの顎を、陛下が指先で持ち上げた。
 陛下とぼくの、目と目が合い。ぼくは陛下のお美しさに引き込まれる。

 顎を持つ陛下の指から、温かい体温を感じられ。それが、目の前にいる陛下が作り物ではないことを示していて。このように麗しいお方が、今、ここに存在しているという奇跡に、賞賛を覚えます。
 うっとりと、見惚れてしまうのは。仕方がないことでしょう。
 このように、頭の中でいろいろと並べ立ててきましたが。今一番にぼくが言いたいのは。

 あぁ、顔がいい…。

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