【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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幕間 兄弟のこそこそ話

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     ◆幕間 兄弟のこそこそ話

 夜になり、人型になったシオンと夕食をとっている。
 調理したものを、夜はシオンが優先で食べ、ぼくはパンを食べた。
 焼き立てパンは美味しいから、それだけでも全然苦にならないよ。

 生活空間にあてられた部屋は、狭いが、クローゼットも水回りもあって、難はない。
 この世界のお風呂は、バスタブにお湯と水を合わせて、適温にし。少なめの湯量で体をこすって洗うというもの。
 前世の風呂は、どっぷり肩までお湯に浸かれたし、シャワーも使えたから。
 洋式の風呂は味気ない。
 でも機械がないから、水道もちょろちょろ出る感じだし。お湯は別のところで沸かしたものを合わせるのが、一般的だから、仕方がないのだ。

 しかし。王城の風呂は。蛇口がふたつあって。ひねったら、水と熱湯が出てきたのだっ!
 これには、シオンもぼくも感動した。

「兄上、お湯が出ますっ」
 感動の余り、大声で叫ぶシオンの口を、ぼくは手でふさがなければならなかった。
 でも。お湯が出たとはしゃぐ弟が、べらぼうに可愛い。
 手で口を塞いだぼくを、なにやら目を細めてイケメンオーラをダダ漏らして見るけれど。

 今更、格好つけても遅いからね。

 まだまだお子ちゃまな弟なのだった。
 あと、シオンがいるから、お湯をもらうときは気をつかわないと、と思っていたので。それが杞憂に終わったのは、ありがたいことだった。ラッキー。

 ま、そんなこともありつつ。今は食事をしている。
 部屋には小机があって、シオンはそこに食事の乗ったトレーを置いて、椅子に座って食べ。
 ぼくは行儀が悪いが、ベッドに座って食べているところ。椅子はひとつなので。

「なぁ、陛下がイアン様って呼んでいいって言ってくださったの、聞いてたか? 僕のことも、クロウって…ギャー、あのときのことを思い出すと、今でも顔が赤くなるぅ」
 会話が万が一聞こえたら、マズいので。
 小声ながら、テンションアゲアゲでシオンに言う。

 陛下に、イアンと呼べと命令されたときは、驚いて。一瞬、なにを言われたのかわからなくて、ハテナが頭の中をしめた。
 確かに、名前の話をしてはいたのだが。
 陛下を。この国の王様を。名前で呼ぶなど恐れ多すぎますっ。

 もしかしたら、昨日、ドッキリで、ぼくを怖がらせたお詫びのつもりだったのかもしれないけど。
 だとしたら、陛下のお気遣いが、優しすぎます。

 戸惑うぼくに、陛下は。
 ぼくも立っているというのに、目の前の陛下は、目線でぼくを見下ろし。尊大に言った。『許す』と。

 あぁ、存分に見下ろしてくださいませ。

 偉大と荘厳と華麗で、ぼくを踏み潰してくださいぃ…という気になった。
 神々しさにひれ伏したい気持ちって、こういうことなんだな。

 とはいえ、陛下がお待ちなので。ぼくは。恐る恐る。小声で言った。
 陛下が言ったんですからね? 成敗はなしですよっ。
「…イアン様」
「なんだ? クロウ」

 いやあぁぁぁっ。
 今まで厳しい目つきで、ごみクズのようにぼくを見てきた陛下が、ほんのり口角を上げて、名を呼ぶなんて。
 でも、王様オーラはあるから、威厳を損なうことなく。
 上品さを保ちながら。ぼくの名を呼ぶなんてっ。

 なんてご褒美。なんて顔面の破壊力。ボンと、顔から火を噴いた。いや。爆発したよ。

 その後も、ミハエルの剣を見たいと言ったぼくの無茶振りに、いつかな、と言って。フッと笑った。
 笑ったっ。
 今度は確実に、笑いました。

 踵を返す陛下が。去っていくのが。ぼくの目にはスローモーションに見えました。
 切れ長の目が、ぼくを捕え、踵を返すときに流し目のようになって。それが色気大爆発で。
 ヤバいヤバい格好いい無理無理。
 たっぷりした黄金色の髪が、足を進めるたびに揺れて、波打つ天の川のようだ。本当に麗しい。

 でも、陛下は見た目だけが麗しいのではないのです。

 まだ、ぼくを死神と言うくらいだから、暗殺者の疑いは晴れていないわけだろう?
 そんな怪しげなモブにも、優しく接してくれるなんて。
 あまつさえ名呼びを許してくださるなんて。器が大きすぎです、国王陛下。

 それに、場違いでくだらない…ミハエル様はくだらなくないのだけど。ちっぽけなモブのお願いを、一国の王が叶えてくれようとしてくださるなんて。
 慈悲が深すぎます。
 神、なのかな? うん。神だな。

 あのときのことを思い返して、うっとりしていると。シオンが聞いてきた。
「兄上は、陛下が好きなのですか?」
「好き。あぁ、もう、好き好き好き。ヤバヤバ好き好き」
 かぶせ気味に、言うと。シオンがジト目で見てきた。

「なんか、軽いんだよな、その言い方。僕が聞いたのは、恋愛的な意味でなんですけど?」
「ばか、なんて恐れ多いことを。陛下はこの国の王様だぞ?」
 それに、陛下はすぐにご結婚されるのだし。
 誰かは知らないけど。
 もしかしたら、アイリスと結婚するかもしれないし。
 主人公ちゃんが、愛の力で王様を救うのも、時間の問題。
 そこにモブの入る余地などないと知っていますし。邪魔など絶対いたしませんからっ。

 つか、そもそも男同士じゃね? アイキンはビーのエルではなく、乙女ゲームなんだからね。

「僕はただ、美しい御仁を、美しいと言っているだけだ。そこには美の感動があるだろう? あのように麗しいお方を目にするだけで、心が洗われるようだ。シオンも、わかるだろう?」
「そうですね。僕は兄上の嬉しそうな顔を見れば、心が洗われます」
 シオンはステーキを優雅な手つきで切り分け、肉汁滴る柔らかそうなお肉をフォークで口に入れる。
「あぁ、肉、美味しそう。一口ちょうだい? だから、つまり、恋愛の好きではないんだ」
「そうですかぁ?」
 すっごい疑いの眼差しで、シオンはぼくを見ながら。フォークを差し出す。
 ぼくはアーンと口を開け、彼のフォークに刺さった肉を食べた。
 うーん、口の中でとろける上質なお肉ですぅ、アルフレドが調理したタレの味付けが、ニンニクとバターの濃厚な香りと旨味で、たまらん。
 パンが二個も三個も進むってば。

 でも母上が見たら、行儀悪すぎで卒倒するかも。ここだけの内緒な?
「兄上は、金髪がお好きなのですか? 黒髪では駄目ですか?」
「えぇ? 黒は自分の髪で見飽きているよ」

 ぼくの真っすぐな黒髪は、ペッタリしててヘルメットみたいだから。黒々しいのだ。
 なんか、キャラデザをした…なんだっけ、畑野こやし先生? が、モブはベタでいいとか言って、墨でベタッと片手間に塗ったとしか思えない。

 見飽きていると言ったら、同じ黒髪のシオンが、ガーンという擬音を背負って、ぼくをみつめた。
 シオンは大丈夫だよ。
 畑野こやし先生が、丁寧に、艶出しした、美しく波打った髪に仕上げてくれたんだからな。

「うそうそ、おまえは黒髪でも良い男だもの。セクシービーストだもの。シオンは見目麗しいから、僕の目が喜んでいる」
「そうですかぁ?」
 今度はなにやら嬉しそうな、そうですかぁ? になった。
 わかりやすいやつめ。

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