【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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2-8 秒でやめた ③(イアンside)

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 クロウが王宮から去って、とても寂しい時間が、我に襲い掛かってくる。

 仕事を終え、ひとりで部屋にいると。クロウがいないからこそ、彼の存在を大きく感じた。
 クロウが、笑顔で、ただそこにいるだけで。我の心は安らぐのだ。
 それはもう、クロウだけができることなのだ。そう、思い知らされた。

 王の居室には、ただ、寝に帰るだけ。
 彼と出会うまでは、王城でも、それが普通だったのに。
 もう、寝に帰るだけという部屋が、わびしくて。とにかく寂しかった。

 そんな日々の中で。学園に編入するための、学力を測る試験を行った。
 仕事が詰まっていたので、我は学園に行けず。教師が王宮に出向いて、試験を行ったのだが。
 全く、こんなに忙しくて、学園に通う時間などあるのだろうか? などと思うのだが。
 官吏のジジイどもは、公女と我の、劇的な出会いを演出したいらしく。一生懸命、我が学園に通えるよう時間調整をしているようだ。

 その点だけは、このタイミングで公女が来たことを感謝してもよい。

 我は…クロウと楽しい学園生活を送りたいので。
 ジジイどもには、せいぜい頑張って時間を捻出してもらうとしよう。ふふ。

 公女? 捨て置けばよい。

 まぁ、それで。
 試験をして、数日後。結果を知らせに、試験官をしていた教師が、王宮を訪れた。

「陛下の学力習熟度を測るため、入学試験から卒業試験までの、幅広い範囲にて、試験問題を出させていただきましたが。陛下は、卒業レベルに達していると判断され。教育課程は免除で良い、という結果になりました。陛下におかれましては、魔力制御など技術向上、さらには子弟との顔つなぎなどに尽力され。短いながら、学園生活を楽しんでいただけたらと思います」

 我は、王城で、ラヴェルにみっちりと学業を叩き込まれてきた。
 ゆえに、編入試験など心配はしていなかったが。クロウはどうだったのかな?

「クロウの成績はどうであったか?」
 教師に聞くと。彼は、眉間に深くしわを刻み、眉尻を下げる、妙な顔つきになった。
 え? 駄目だった? ちょっと心配である。

「実は、クロウ様には。公爵様の依頼で、卒業レベルの問題と、さらには官吏の採用試験を混ぜた、かなり難問の編入試験をお出ししました。結果、クロウ様も大変成績優秀で。おそらく、現段階で官吏の採用試験に合格できる…いえ、それ以上の、頭脳の持ち主でございます。もちろん、学園の教育課程は達しており。陛下と同様、魔力制御などの技術を、学んでいただければと思っております」

 なんだ。妙な顔つきをしているから、ちょっとハラハラしたではないか? 

「それにしても、あのような逸材が、学園に一度も通ったことがないなんて…公爵と陛下の苦難の経緯は、聞き及んでおりますが。たとえ、クロウ様が平民であっても。学園に入学するには申し分のない、秀才振りでございますのに。特に、我が国の歴史に造詣が深く、試験問題に注釈までつける聡明さがありました」

 そうだろう、そうだろう?
 クロウは、王家の英雄伝説や、伝記を読み込んでいるからな。
 歴史が得意なのは、王家ラブの証のようなものなのだ。
 それに、やはり。我のクロウは、頭抜けた人物だった。
 一見ふんわりしていて、あなどられるのだろうが。あれはかなりの切れ者なのだぁ。
 …と、自分のことでもないのに、ドヤ顔してしまった。

 それより、教師は、聞き捨てならないことを言っていたな?
「官吏の採用試験に受かる学力だと言ったな? では、クロウを政務に参加させることも可能か?」
「むしろ、政務をさせないのはもったいない…いえ、クロウ様は、カザレニア国の大きな一助となる御方でしょう」

 教師は、最初、勢い込んで言ったが。
 次期王妃をこき使え、と言うのははばかられ。言い方を変えてきた。
 まぁ、優秀な人材を使わない手はないと、そういうことを言いたかったのだろう。その点は、我も同意だ。

「良い話を聞いた。彼と話し合って、今後のことは検討するつもりだ」
 それで、教師は。四月十六日に、学園内部のご案内を。十七日には、特別編入の最初の講義をするので、学園においでくださいませ、と言って。スケジュールを書いた紙を差し出し、退出した。

 あぁ。あと一週間も、クロウに会えないのか。その日を待ちわびてしまうな。
 早く、クロウの、あののほほんとした笑顔を見たいのだ。


 十六日は、休養日にあたるが。その日に、我は学園内部を、学園長に案内されていた。
 明日からは、我はこの学園の一生徒となるのだ。
 ワクワクである。
 学生気分を味わいたくて、もう制服を着てきてしまった。ふふふ。

 セントカミュ学園は、国の優秀な者を集めて勉学に励む、王立の機関だ。
 幼少期から、家庭教師などをつけられる貴族の子女が、生徒の大半を占めるが。
 平民でも、一芸に秀でていれば、入学を許可される。
 平民が学園に入学を許されるのは、剣術に腕のある者、というパターンが多いが。中には、聖魔法に目覚めたばかりの女生徒が、学園で学んだあと、聖女になったこともあったらしい。

 地方の子女のために、寮も完備されているが。通学も許されていて。それは各自に任せる形である。
 広大な敷地に、およそ十四歳から十七歳(十八歳手前まで)の四学年が学ぶ、校舎があり。
 さらに剣技場や、大ホールや食堂や寮など、多くの施設が建ち並ぶ。

「陛下、学園では騎士の帯同が許されませんので。こちらの生徒を、おそばに仕えさせてください」
 学園長は、ふたりの生徒を我に紹介した。
 ひとりは、現宰相の孫だ。
「ウィレム伯爵家長子、ベルナルド・ウィレムと申します。いずれ政務に携わる機会に備え、陛下のおそばで勉強させていただきたく存じます。よろしくお願いします」

 ベルナルドは、目にかかる長さの前髪を横に流した、緑髪の生徒だ。
 目元は、スクエアな眼鏡のせいか、少し厳しめ。
 将来は、祖父の職を引き継いで、宰相になるつもりなのかな?
 優等生で、いかにも頭が良さそうで、真面目な印象だ。
 年が近い、有力貴族の子息ということで。王家の血筋ではないが、彼はシャーロットの婚約者候補でもある。
 しかし、天真爛漫なシャーロットとは。相性が悪そうだな?

「オフロ公爵家三男、カッツェ・オフロです。騎士科の四年生です。聖騎士を目指しています。学内の護衛は、お任せください。よろしくお願いしまっす」
 カッツェは、日に焼けた肌に、明るい紫の髪を清潔に短くしている。
 テンションが、ややセドリックに似ているが。
 ニカッと笑う顔は。セドリックは暑苦しい爽やか系。彼は悪気のない軽薄系。だな。
 聖騎士は、聖女の護衛につく、騎士と神職を合わせたような役職なのだが。
 言葉遣いや見た目が、ちょっと神職的威厳がないかな?
 いわゆる、チャラい。
 つか、ぱっと見、我より弱そう。もっと鍛錬するがよい。

 彼も、シャーロットの婚約者候補だ。
 シオンと同じく、王家の男系の血筋をつないでいる、由緒ある公爵家の三男。
 妹のお相手としては、申し分ないが。どうなることやら?

「陛下。わが校の丘の上には、その場所で出会うと恋に落ちるという、有名な大樹がありまして。かく言う私も、学生時代に、今の妻と、あの木の下で初めて出会ったのですよ? 在学中に一度、ご覧くださいませ」
 学園長は、そう言って、窓の外の木を指差した。
 そんなロマンティックな伝承のある木があるのかと、目を転じると…。
 その木をよじ登る、なんか、見覚えのある影を。我は見てしまった。

「学園長、案内はもう良い。ベルナルド、カッツェ、明日からよろしく頼む」
 そう言って、我は校舎を走り。外へ出た。
 まぁ、セドリックはぴったり後ろについてきているけれど。
 学園長や生徒は、虚を突かれて。その場に置き去りだな。

 王城にいたとき。クロウと出会って。我は学園生活をしたら…と夢想した。
 清楚で、おとなしやかなクロウは。学園の高嶺の花。容易に話しかけられない存在。
 彼が、ベンチで本を読むところを。我は黙って、陰ながらみつめるのだろうな、なんて。
 憧れの気持ちを募らせるばかりで、声をかけられないのではないか、なんて。想像して楽しんでいた。

 そうだ、せっかく学園生活をクロウと出来るのだから。初対面設定にしたらどうだろうか?
 などと、思いついてしまった。

 初々しい気持ちで。生徒同士が、そこで出会うと恋に落ちるという、伝承のある木の下で。初めて言葉を交わすのだ。
 うーん、最高にロマンティックではないか?

 クロウも、楽しんじゃいましょうと、笑顔で言ってくれていたから。
 きっと、我の趣向に乗ってくれるはずだ。

 そう思って、我は、その木の下に行く。
 ま、遠目で木によじ登っていたのが、クロウなわけだ。
 なんで、木に登っているのかは、知らんが。

 クロウは木の、一番低い枝にしがみついていたが。
 落ちた。
 そこを、我はナイスキャッチだ。

 …クロウは、我の見ていないところで、なに、可愛いことをしているのだろうか?
 可愛いことは、我の目の前だけでやれ。

 木から落ちたと思ったクロウは、ギュッと目をつぶっていたが。
 痛みがないことに気づいて、恐る恐る目を開ける。
 黒真珠の瞳が、ピカリとして。

 あぁ、可愛い。やっと会えた。我の妃。

 学園で、国王の我が、初めて自分から声をかけた生徒。
 ツヤツヤな黒髪が、風に揺れる。
 つか、襟や袖口を、濃い青の飾り縁でしめる、白地の制服が。なんとも可憐で。クロウにすっごく似合っている。

 かっわいいいいぃいぃいぃ、なぁ、おいっ!

 え? マジで二十歳すぎ? 嘘だろう?
 全然、新入生でアリなんだが?
 っていうか、もう天使で良いのでは?

「あぁ、空から天使が降りてきたのかと思った」
 ニコリと、お姫様抱っこされているクロウに、笑いかけ。我は、自己紹介した。
「はじめまして。我は、イアンだ。君の名は?」
 すると、黒真珠の瞳が、途端にウリュッと、涙ぐんで。濡れていった。

「へ…陛下が…記憶喪失にぃ?」

 大粒の涙が、ぼとぼとと、クロウの目からあふれ出てくるから。

 初対面設定は、秒でやめた。

 我は、記憶喪失ではない。…泣くでない。

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