【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
128 / 176

2-7 秒でやめた ②(イアンside)

しおりを挟む
 クロウが、学園に通う間、公爵家に戻ることが決まり。
 正式に結婚式を挙げるまでは、我の婚約者という地位に据えることにもなった。

 それは、いい。どうせすぐに、我の花嫁に戻るのだから。
 三ヶ月くらいは、家族との生活を楽しむべきだろうとも思ったのだ。
 王家に嫁いだら、そうそう実家に戻れなくなるのだからな?

 だが、結婚するまで、クロウが王家の指輪をしているのはいけないと、公爵が言い。
 クロウが指輪をお返しします、と言って、指輪に手をかけたとき。
 我は、体の芯から凍てつくような心持ちになってしまった。

「がえんじない」

 クロウの手をおさえて、思わず、冷たい声で、言い放ってしまうほどに。憤りや、悲しみや、焦りや、戸惑いや。そういう、クロウを片時も手放したくない、心の弱さや。狂おしさが。我の体の奥底から、無意識に噴出する。

 その指輪は、クロウが外しては駄目なのだ。

 なんとなく、クロウが自ら指輪を外したら。
 彼の心が、我から離れてしまうような気がして。
 そんなことは、絶対に許さない。

 だが、結婚式までに、指輪のサイズ直しはしておきたいと、思ってはいたのだ。
 なので、薬指にはまるシロツメ草の指輪と一緒に、王家の指輪を回収した。
 クロウが外すのではなく、我が外すのは、良いのだ。
 我の心がクロウから離れることは、決してないし。指輪はただ借りるだけなのだから。

「…そちらもですか?」
 すると、クロウは。薬指の指輪も一緒に取られて、心細そうに、眉尻を下げた。

 んんんっ、可愛い。

 目がウルウルで、上目遣いで、頼りなさげで。でも、下品なこびではなくて。
 その顔は、ずるいぞ? さっきは自分から指輪を外そうとしたくせにぃ。

 っていうか。あぁ、可哀想。可愛い。すぐに指輪を返してあげたい。

 しかし、我にも考えがあってだな?
 もっと、よりよくして、指輪を返してやるからな?
 三ヶ月だけ待っていてくれ。すぐだ、すぐ。ちょっぱやで加工してもらうからな?

 我は、クロウには弱い。
 そういう自覚が、もう、明らかに、あからさまに、ある。
 捨てられた子犬のごとき、つぶらで、頼りない、濡れた黒い瞳でみつめられると。すぐにクロウを抱き締めたくなるではないかっ?

 弁解を述べて、よしよしと慰めてやりたいのは山々。
 はたまた、許しまでいたくなってしまう。
 ひざまずいて、かしずきたくもなる。

 しかし、目の前には公爵がいる。

 脂下やにさがった王の姿を、公爵に見せるわけにもいかず。
 サイズ直しをするだけだ、みたいなことを、素っ気なく言うしかなかった。むうぅ、王様は、つらい。

 指輪を内ポケットにしまうまで、クロウは手をうろうろさ迷わせていた。それが、迷子の子供のように幼気いたいけに目に映るが。
 ううぅ。許せ、クロウ。

 そうする間に、セドリックが、来客があると告げてきた。
 ええぇ? ここでクロウと別れることになってしまうのかぁ?
 嫌だなぁ。それこそ、がえんじないのだが。

 しかし、隣国大使との面会は、公務であるし。その後も政務が。書類仕事やなんやかや、仕事が詰まっている。
 夜、部屋に戻っても、クロウはいないのだろうし。すこぶる、不快である。
 つまり、嫌なのだがぁ。

 そうは言っても、人を待たせるわけにはいかないので。
 我は。すっごく。すっごく。断腸の思いで。サロンを出たのだった。
 クロウ、学園で、また会おうな?

 クロウと公爵と別れたあと。謁見の間で面会したのは、隣国、アルガル公国の大使だった。
 大使の話によると。アルガルの第三公女殿下が、お忍びで、セントカミュ学園に編入したので、お見知りおきください。というものだった。

 でも。お忍びなのに、報告しちゃうんだ? とか。思って。笑いをこらえるのが大変だった。
 だって、いかにも。学園で、公女殿下と仲を深めてくださいませぇ、という感情がダダ漏れだったものだから。

 まぁ、笑っていられないことではあるのだが。
 宰相以下、王宮の政務を取り仕切るジジイどもが、笑顔でうなずいているところを見ると。
 クロウを王妃に据えたくない連中の、あわよくば王妃を差し替え、なんて思惑、企てが透けて見える。

 無理です。クロウ以外の者と関わる時間も、暇もないですから。

 まぁ、我の気持ちはクロウひと筋。王妃は。我の伴侶は、クロウの他はない。そう、気持ちが固まっているからこそ、笑える話になる、ということだ。

 というか。我が学園に入学する話は、つい先ほど決まったのだが?
 なぜ、公国の大使が、それを知っているのかな?
 もしかして、公爵から情報が漏れているのかな?
 さらには、公爵もクロウが王妃となることを、阻もうとしているのかな?
 それで、公女を我にあてがおうとしているのかな?

 我は。薄っすら笑いで。心の中で、がえんじないと叫んだのだった。

 まずは、結婚式を挙げて。周囲を味方で固めてから、クロウの地位を盤石にしようと思っていたが。
 この様子では、官吏かんりの代替わりの方が先かな? と思ってしまった。
 バジリスク公爵は、まだ若手なので、排除はできないが。
 クロウの父であるので、うまく取り込めなくはないだろう。
 でも、官吏の古株のジジイどもが、我を傀儡かいらいにし、利権を貪ろう、自分の良いように国を動かそうと、そういう気であるのなら。早々に改変をするべきだ。

 国王の手足とならぬ官吏などいらぬ。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...