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2-22 カッツェのお悩み相談室
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◆カッツェのお悩み相談室
ランチタイム。アイリスたち、一学年組の到着を、食堂で待っているところです。
窓際にカッツェ、その隣は陛下。対面の窓際に、シオン。その隣は、ぼく。という席順だ。
おもむろに、カッツェが。陛下に申し出ました。
「イアン様、実は私、クロウ様に、相談したいことがありまして。クロウ様とお話してもよろしいでしょうか?」
そんなふうに言われたら、陛下も、無下にはできませんよ。
小さくうなずいて、了承を返す陛下。
つか、ぼくに相談って、なんでしょう?
人から相談を受けることなんか、今までなかったから。ドキドキです。
「クロウ、そのように、目をピカピカキラキラさせるんじゃない。可愛いが過ぎる」
そう、陛下に言われ。
ぼくは。どういう顔をしたらいいのか、わからなくなって。顔の筋肉がピクピクした。ふえぇ。
「イアン様、そのように、不用意に兄上を褒めないでください。顔面崩壊してしまいます」
冷静な顔で、シオンがツッコんだ。
むむっ、いつもながら、失礼な弟め。
「…クロウ様、以前聞いた、騎士団長とシヴァーディ様と、お友達というのは。本当だったのですね? 今日、お二方の、気の置けない表情を見て…特に、冷徹の騎士と言われるシヴァーディ様の、あのように和んだお顔を拝見し。私はとても感動しっ。その表情を引き出したクロウ様に、さらに、尊敬の念をかき立てられましたっ」
ぼくは、カッツェの力説を聞いて、力強くうなずく。
「もしかして、カッツェもシヴァーディ様推しなのですか? そうですよね。あのように美しく凛々しいお方が、この世に生まれ出でている、そのことこそが、まさに奇跡ッ」
「そのとおりです、クロウ様。シヴァーディ様の流麗な剣技に、見惚れぬ者などおりませんっ。シヴァーディ様こそ、カザレニアの騎士の中の騎士ッ」
「騎士の中の騎士ッ!」
紫の目がピカピカな、カッツェとともに。シヴァーディ推しの雄叫びをあげる。
そんなぼくらを、シオンと陛下が胡乱に眺めていた。
「カッツェ、おまえはクロウと、シヴァーディのことについて、語り合いたかったのか?」
陛下のツッコミに、カッツェは目を覚ましたかのように、まばたきし。居住まいを正した。
つか、陛下もシオンも、ボケが不在の世の中で、なぜに、こんなにツッコみが上手くなったのでしょう? 不思議ですね。
「いえ…本題に入ります。その、私はクロウ様を尊敬しているということを、まず、お知らせしたかったのです。クロウ様はつい最近、公爵家に入られたと聞き及んでおります。経緯は違えど、それは私と似ているというか…。クロウ様は清廉で、聡明で、陛下のお心を射止めた御仁。私と比較するべくもない、優秀な方だと。わかってはおりますが。だからこそ、お聞きしたいというか…」
「褒め殺しがはなはだしいですが。気負うことなく、お話しください」
なんか、カッツェの、それは誰ですかぁ? な言葉の数々に。
モブのぼくは、逆に打ちのめされそうな気になりながら。
苦笑して、先をうながした。
「私も、つい先日、公爵家の後継を指名されたのです。全く、そのつもりがなくて。のほほんと騎士を目指していたのに、いきなり公爵の地位が目の前に現れて。すぐに、どうこうはないものの。本当に、驚いてしまって。その、気構えというか。常に泰然としているクロウ様は、正式に公爵家に入ったとき、どういう心持ちであったのかと、お聞きしたいと思っていたのです」
公爵家に入ったときの、心構えかぁ。
えっと。ぼくはシオンに、常に公爵子息だってことを意識させられていて。
でも、あまりそのことは考えないようにしてきた。
公爵家に入れるなんて、つい最近まで思っていなかったから。
だから、あまり高位貴族の自覚がないというか…。流れに身を任せて、いつの間にか、って感じだから。
うーん、なにも言えぬ…。
「カッツェは、三男だと聞きましたが。公爵の後継者になられるのですか?」
ぼくの疑問に。カッツェは。苦笑するような、言いにくそうな感じで。口にした。
「お恥ずかしい話ながら。長兄と次兄は、バミネに追随したのです。オフロ公爵家は、長兄を後継者に。次兄は、武門の家系として騎士の名をあげるよう、定めていました。でも、バミネが騎士団に入ってから、次兄は、バミネに加担して、身を持ち崩し。長兄も、金回りの良いバミネに乗せられて、賭け事に狂ってしまい…。振る舞いも横暴になってしまいました。陛下が、ご復帰なされて。オフロ公爵家は、一番に、長兄と次兄の勘当を言い渡しました。陛下の御世に二心なし、と示したのでしょう」
そのカッツェの話に、陛下が補足を加える。
「オフロ公爵家は、名の知れた騎士を何人も輩出した、武門の家柄だ。愚直で武骨ながら、王家への忠誠心が人一倍強く。王家を、剣技で守ることを信条としている。我は、オフロ家の子息に罰則は与えなかったが。オフロ翁が、それを許さなかったようだな?」
「はい。祖父は、大局を見誤る者に、オフロ家は任せられぬ、と。公爵家は、今は父が当主ですが。父も、祖父には逆らえないのですよ。それに…兄上たちは、やり過ぎた」
苦しげな顔で、カッツェは言葉を続けた。
「私は、兄上を尊敬しておりました。次兄は、剣術に秀でていて、シヴァーディ様には敵わないものの、その剣筋はとても素直で、猛々しく、勇壮だった。私と一緒になって、シヴァーディ様の剣技の、どこが優れている、とか。夜通し、語ったりして。なのに、その、尊敬していたシヴァーディ様を、蹴落とした者に、加担するなんて。長兄もです。真面目で勉強熱心な方だったのに。いつの間にか、金の亡者になっていて。人というものは、そこまで変わってしまうものかと。失望しました」
うつむけていた顔を上げて、カッツェはぼくをみつめた。
「尊敬していた兄たちを押しのけて、後継者におさまるのが。私は心苦しくて。なにより、剣技を磨いて、騎士として、憧れのシヴァーディ様の前に立ちたかった。そういう夢があったのです。だから…」
「後継者でも、騎士の道は目指せます。カッツェの御父上様は、まだお若いでしょう? オフロ家の騎士として、腕を磨くのは。公爵家にとっても、有益なことですし。シヴァーディ様の前に立つことは、鍛錬していけば、叶えられる夢だと思います。でも、カッツェが引っかかっているところは、そこではない。でしょう?」
たずねると、カッツェは、自分でもよくわかっていないような顔で、小首を傾げた。
「カッツェの話を聞いていると、後継がどうというより。お兄様たちへの思慕が、前に進む足を引き留めているように感じます。お兄様たちを、お好きだったのですね?」
聞けば、カッツェは。紫の瞳を、ゆらりと揺らす。
「あ、兄上は間違ったことをしたのです」
「それでも。そんなに簡単に心を切り離せない。それが肉親の情です。間違ったことをして、その処断は別の方がくだした。だから、カッツェも同じように、家族の情を切り離さなければならないと、思っているのでしょうが。それは、無理にすることではない。公爵家の総意ではないかもしれませんが。カッツェはカッツェの想いを抱いていればいいのですよ」
「兄を、嫌わなくても。兄に背を向けなくても、いい?」
こくりとうなずく。
「公爵家のメンツや、お考えもあるでしょうから。どのように行動するのかは、重々考えなくてはなりませんよ? でも、好きな人を、無理に嫌うことはない。人間なのですから、ここは好きだけどここは嫌い、みたいなことだってあるし、ね?」
じっとりした目をして、ぼくは過去を思い出す。
前世では、姉の巴と静に、かなりムチャぶりをされたもの。
でも、心底嫌いにはなれないものだよね?
兄弟ってさ、そういうものじゃん?
「そうそう、兄上は総じて、よく出来た御方だが。たまに天然おバカで、ぼくは頭を抱えることがあります」
そうしたらシオンが、ぼくとカッツェの話にくちばしをはさんで、そんなことを言うから。
ぼくは、こめかみに怒りマークを浮かべたよ。
「シオン、今はぼくの話ではありません」
「天然おバカだなんて、クロウ様に、そのような一面があるとは、思いませんでした」
なんでか、カッツェが驚きの表情でみつめてくる。
ええ? カッツェは、ぼくのなにを見て、そのように言うのでしょうか。
ぼくは、九十パーおバカだと思いますけど? 自覚はあります。
ただ、人に…弟に、言われたくないだけなのですっ。
「クロウ様、ありがとうございました。なんか、目の前が開けたような、すっきりした気持ちです」
カッツェは、ひとつうなずき。ぼくをまっすぐみつめた。
だ、大丈夫? 大した話はしていないけど。
つか、ぼくは。カッツェが、なにに納得したのかも、よくわからない。
お兄さんのことで悩んでいたのなら、こんな話で良かったのなら、まぁ、いいのだけど。
「…いいのか? 助言とか、なにもしていないのに? あ。後継の心構えのことですけど。ぼくは、以前カッツェにも言われましたが。公爵子息としての振る舞いとか、今も、よくわかっていないのですよ。それに、たぶん。公爵家の後継者には、シオンがなる予定ですし。ぼくは、相変わらずの、のほほんです」
「え、なぜ…クロウ様は、後継者として非の打ちどころのない御方なのに」
「だって、ぼくは陛下と結婚しますから」
そう言うと、カッツェは、今、思い出した、みたいな顔をした。
ここ、ちょっと、大事なところなので。忘れないでくださいねぇ?
「あぁ…そうでしたね。それで公爵家は、シオンを…」
「それで、というよりも。公爵家の後継に、シオンほど相応しい者はいません。シオンは、後継としての心がけがしっかりできているので。カッツェはぼくより、シオンに教えを乞うた方が、良いかもしれませんね?」
ふーん、という様子で、カッツェはシオンを見やる。
カッツェは、シオンをライバル視しているみたいなんだよね? ライバルだから、教えを乞うのは、プライドが許さないかもしれないけど。
ふたりで切磋琢磨して、ふたつの公爵家を盛り立てることになると、いいね?
「クロウ様が、私の憂いを晴らしてくれたので。それはおいおいで良いです。それにしても、さすが陛下の伴侶様です。御慧眼が素晴らしい。これからも、貴方を謹んでお守りさせていただきます、ね?」
ね? で、ウィンクされて。
ぼくは、おおぉ、チャラっ、と思う。
最初に会ったときに感じた、チャラ男っぽい感じが、突然出てきたんですけどぉ?
「カッツェ、我の目の前で、我の嫁を口説くとは、いい度胸だな。公爵家を潰されたいのか?」
「く、口説いたわけでは。ただ……イアン様より先に出会いたかったとは、思わなくもなくもなくもないというか…」
「カッツェよ。おまえは、近衛には絶対に入れぬ。そしてシヴァーディの前にも、立たせぬ」
「そんなぁ、イアン様。お怒りを解いてください」
陛下とカッツェが、男同士の、気の置けない、友達の軽口を言い合っている。
いいなぁ。
「兄上。兄上は『男友達いいなぁ』なんて、のんきに思っているみたいですが。アレはマジの牽制のし合いですからね。つか、陛下がデロアマ溺愛の暴走一歩手前なんだが?」
『けんせーとはなんぞや?』と思っていたところに。
アイリスとシャーロットがやってきて。それで、カッツェのお悩み相談室は終了したのだった。
デロアマデキアイノボーソーって、料理名? なんか、美味しそうだね。…聞かなかったことにしよう。
「お兄様? 今度、こちらに、私のお友達を呼んでもいいかしら? 私も、マリーとランチをご一緒したいの」
昼食の席で、シャーロットが陛下にお願いをした。
それで、陛下は。アイリスに目を向ける。
アイリスはうなずいて、陛下の杞憂を晴らした。
「シャーロット様のご友人である、マリアンヌ・マルセル嬢は。男爵令嬢です。マルセル男爵家は、製本業で財を築き、前国王が亡くなる直前に爵位を賜った、新興貴族。バミネが権勢を誇っていた時代も、マルセル新聞社では、真実を世間に知らせることを信条とし、権威におもねらなかった。気骨のある御家柄のようですよ? 身元の調査などは、アルフレドがいたしております」
「そうか。シャーロット、明日から、この席にマルセル嬢をご招待しなさい。可愛い妹が世話になっているのだから、我も挨拶をしなければな?」
「ありがとうございます、お兄様」
シャーロットは、とても嬉しそうに、笑みをほころばせ。アイリスとうなずき合っていた。
とても仲の良いお友達のようですね?
明日は、マルセル嬢に会えるようです。楽しみ、楽しみ。
ランチタイム。アイリスたち、一学年組の到着を、食堂で待っているところです。
窓際にカッツェ、その隣は陛下。対面の窓際に、シオン。その隣は、ぼく。という席順だ。
おもむろに、カッツェが。陛下に申し出ました。
「イアン様、実は私、クロウ様に、相談したいことがありまして。クロウ様とお話してもよろしいでしょうか?」
そんなふうに言われたら、陛下も、無下にはできませんよ。
小さくうなずいて、了承を返す陛下。
つか、ぼくに相談って、なんでしょう?
人から相談を受けることなんか、今までなかったから。ドキドキです。
「クロウ、そのように、目をピカピカキラキラさせるんじゃない。可愛いが過ぎる」
そう、陛下に言われ。
ぼくは。どういう顔をしたらいいのか、わからなくなって。顔の筋肉がピクピクした。ふえぇ。
「イアン様、そのように、不用意に兄上を褒めないでください。顔面崩壊してしまいます」
冷静な顔で、シオンがツッコんだ。
むむっ、いつもながら、失礼な弟め。
「…クロウ様、以前聞いた、騎士団長とシヴァーディ様と、お友達というのは。本当だったのですね? 今日、お二方の、気の置けない表情を見て…特に、冷徹の騎士と言われるシヴァーディ様の、あのように和んだお顔を拝見し。私はとても感動しっ。その表情を引き出したクロウ様に、さらに、尊敬の念をかき立てられましたっ」
ぼくは、カッツェの力説を聞いて、力強くうなずく。
「もしかして、カッツェもシヴァーディ様推しなのですか? そうですよね。あのように美しく凛々しいお方が、この世に生まれ出でている、そのことこそが、まさに奇跡ッ」
「そのとおりです、クロウ様。シヴァーディ様の流麗な剣技に、見惚れぬ者などおりませんっ。シヴァーディ様こそ、カザレニアの騎士の中の騎士ッ」
「騎士の中の騎士ッ!」
紫の目がピカピカな、カッツェとともに。シヴァーディ推しの雄叫びをあげる。
そんなぼくらを、シオンと陛下が胡乱に眺めていた。
「カッツェ、おまえはクロウと、シヴァーディのことについて、語り合いたかったのか?」
陛下のツッコミに、カッツェは目を覚ましたかのように、まばたきし。居住まいを正した。
つか、陛下もシオンも、ボケが不在の世の中で、なぜに、こんなにツッコみが上手くなったのでしょう? 不思議ですね。
「いえ…本題に入ります。その、私はクロウ様を尊敬しているということを、まず、お知らせしたかったのです。クロウ様はつい最近、公爵家に入られたと聞き及んでおります。経緯は違えど、それは私と似ているというか…。クロウ様は清廉で、聡明で、陛下のお心を射止めた御仁。私と比較するべくもない、優秀な方だと。わかってはおりますが。だからこそ、お聞きしたいというか…」
「褒め殺しがはなはだしいですが。気負うことなく、お話しください」
なんか、カッツェの、それは誰ですかぁ? な言葉の数々に。
モブのぼくは、逆に打ちのめされそうな気になりながら。
苦笑して、先をうながした。
「私も、つい先日、公爵家の後継を指名されたのです。全く、そのつもりがなくて。のほほんと騎士を目指していたのに、いきなり公爵の地位が目の前に現れて。すぐに、どうこうはないものの。本当に、驚いてしまって。その、気構えというか。常に泰然としているクロウ様は、正式に公爵家に入ったとき、どういう心持ちであったのかと、お聞きしたいと思っていたのです」
公爵家に入ったときの、心構えかぁ。
えっと。ぼくはシオンに、常に公爵子息だってことを意識させられていて。
でも、あまりそのことは考えないようにしてきた。
公爵家に入れるなんて、つい最近まで思っていなかったから。
だから、あまり高位貴族の自覚がないというか…。流れに身を任せて、いつの間にか、って感じだから。
うーん、なにも言えぬ…。
「カッツェは、三男だと聞きましたが。公爵の後継者になられるのですか?」
ぼくの疑問に。カッツェは。苦笑するような、言いにくそうな感じで。口にした。
「お恥ずかしい話ながら。長兄と次兄は、バミネに追随したのです。オフロ公爵家は、長兄を後継者に。次兄は、武門の家系として騎士の名をあげるよう、定めていました。でも、バミネが騎士団に入ってから、次兄は、バミネに加担して、身を持ち崩し。長兄も、金回りの良いバミネに乗せられて、賭け事に狂ってしまい…。振る舞いも横暴になってしまいました。陛下が、ご復帰なされて。オフロ公爵家は、一番に、長兄と次兄の勘当を言い渡しました。陛下の御世に二心なし、と示したのでしょう」
そのカッツェの話に、陛下が補足を加える。
「オフロ公爵家は、名の知れた騎士を何人も輩出した、武門の家柄だ。愚直で武骨ながら、王家への忠誠心が人一倍強く。王家を、剣技で守ることを信条としている。我は、オフロ家の子息に罰則は与えなかったが。オフロ翁が、それを許さなかったようだな?」
「はい。祖父は、大局を見誤る者に、オフロ家は任せられぬ、と。公爵家は、今は父が当主ですが。父も、祖父には逆らえないのですよ。それに…兄上たちは、やり過ぎた」
苦しげな顔で、カッツェは言葉を続けた。
「私は、兄上を尊敬しておりました。次兄は、剣術に秀でていて、シヴァーディ様には敵わないものの、その剣筋はとても素直で、猛々しく、勇壮だった。私と一緒になって、シヴァーディ様の剣技の、どこが優れている、とか。夜通し、語ったりして。なのに、その、尊敬していたシヴァーディ様を、蹴落とした者に、加担するなんて。長兄もです。真面目で勉強熱心な方だったのに。いつの間にか、金の亡者になっていて。人というものは、そこまで変わってしまうものかと。失望しました」
うつむけていた顔を上げて、カッツェはぼくをみつめた。
「尊敬していた兄たちを押しのけて、後継者におさまるのが。私は心苦しくて。なにより、剣技を磨いて、騎士として、憧れのシヴァーディ様の前に立ちたかった。そういう夢があったのです。だから…」
「後継者でも、騎士の道は目指せます。カッツェの御父上様は、まだお若いでしょう? オフロ家の騎士として、腕を磨くのは。公爵家にとっても、有益なことですし。シヴァーディ様の前に立つことは、鍛錬していけば、叶えられる夢だと思います。でも、カッツェが引っかかっているところは、そこではない。でしょう?」
たずねると、カッツェは、自分でもよくわかっていないような顔で、小首を傾げた。
「カッツェの話を聞いていると、後継がどうというより。お兄様たちへの思慕が、前に進む足を引き留めているように感じます。お兄様たちを、お好きだったのですね?」
聞けば、カッツェは。紫の瞳を、ゆらりと揺らす。
「あ、兄上は間違ったことをしたのです」
「それでも。そんなに簡単に心を切り離せない。それが肉親の情です。間違ったことをして、その処断は別の方がくだした。だから、カッツェも同じように、家族の情を切り離さなければならないと、思っているのでしょうが。それは、無理にすることではない。公爵家の総意ではないかもしれませんが。カッツェはカッツェの想いを抱いていればいいのですよ」
「兄を、嫌わなくても。兄に背を向けなくても、いい?」
こくりとうなずく。
「公爵家のメンツや、お考えもあるでしょうから。どのように行動するのかは、重々考えなくてはなりませんよ? でも、好きな人を、無理に嫌うことはない。人間なのですから、ここは好きだけどここは嫌い、みたいなことだってあるし、ね?」
じっとりした目をして、ぼくは過去を思い出す。
前世では、姉の巴と静に、かなりムチャぶりをされたもの。
でも、心底嫌いにはなれないものだよね?
兄弟ってさ、そういうものじゃん?
「そうそう、兄上は総じて、よく出来た御方だが。たまに天然おバカで、ぼくは頭を抱えることがあります」
そうしたらシオンが、ぼくとカッツェの話にくちばしをはさんで、そんなことを言うから。
ぼくは、こめかみに怒りマークを浮かべたよ。
「シオン、今はぼくの話ではありません」
「天然おバカだなんて、クロウ様に、そのような一面があるとは、思いませんでした」
なんでか、カッツェが驚きの表情でみつめてくる。
ええ? カッツェは、ぼくのなにを見て、そのように言うのでしょうか。
ぼくは、九十パーおバカだと思いますけど? 自覚はあります。
ただ、人に…弟に、言われたくないだけなのですっ。
「クロウ様、ありがとうございました。なんか、目の前が開けたような、すっきりした気持ちです」
カッツェは、ひとつうなずき。ぼくをまっすぐみつめた。
だ、大丈夫? 大した話はしていないけど。
つか、ぼくは。カッツェが、なにに納得したのかも、よくわからない。
お兄さんのことで悩んでいたのなら、こんな話で良かったのなら、まぁ、いいのだけど。
「…いいのか? 助言とか、なにもしていないのに? あ。後継の心構えのことですけど。ぼくは、以前カッツェにも言われましたが。公爵子息としての振る舞いとか、今も、よくわかっていないのですよ。それに、たぶん。公爵家の後継者には、シオンがなる予定ですし。ぼくは、相変わらずの、のほほんです」
「え、なぜ…クロウ様は、後継者として非の打ちどころのない御方なのに」
「だって、ぼくは陛下と結婚しますから」
そう言うと、カッツェは、今、思い出した、みたいな顔をした。
ここ、ちょっと、大事なところなので。忘れないでくださいねぇ?
「あぁ…そうでしたね。それで公爵家は、シオンを…」
「それで、というよりも。公爵家の後継に、シオンほど相応しい者はいません。シオンは、後継としての心がけがしっかりできているので。カッツェはぼくより、シオンに教えを乞うた方が、良いかもしれませんね?」
ふーん、という様子で、カッツェはシオンを見やる。
カッツェは、シオンをライバル視しているみたいなんだよね? ライバルだから、教えを乞うのは、プライドが許さないかもしれないけど。
ふたりで切磋琢磨して、ふたつの公爵家を盛り立てることになると、いいね?
「クロウ様が、私の憂いを晴らしてくれたので。それはおいおいで良いです。それにしても、さすが陛下の伴侶様です。御慧眼が素晴らしい。これからも、貴方を謹んでお守りさせていただきます、ね?」
ね? で、ウィンクされて。
ぼくは、おおぉ、チャラっ、と思う。
最初に会ったときに感じた、チャラ男っぽい感じが、突然出てきたんですけどぉ?
「カッツェ、我の目の前で、我の嫁を口説くとは、いい度胸だな。公爵家を潰されたいのか?」
「く、口説いたわけでは。ただ……イアン様より先に出会いたかったとは、思わなくもなくもなくもないというか…」
「カッツェよ。おまえは、近衛には絶対に入れぬ。そしてシヴァーディの前にも、立たせぬ」
「そんなぁ、イアン様。お怒りを解いてください」
陛下とカッツェが、男同士の、気の置けない、友達の軽口を言い合っている。
いいなぁ。
「兄上。兄上は『男友達いいなぁ』なんて、のんきに思っているみたいですが。アレはマジの牽制のし合いですからね。つか、陛下がデロアマ溺愛の暴走一歩手前なんだが?」
『けんせーとはなんぞや?』と思っていたところに。
アイリスとシャーロットがやってきて。それで、カッツェのお悩み相談室は終了したのだった。
デロアマデキアイノボーソーって、料理名? なんか、美味しそうだね。…聞かなかったことにしよう。
「お兄様? 今度、こちらに、私のお友達を呼んでもいいかしら? 私も、マリーとランチをご一緒したいの」
昼食の席で、シャーロットが陛下にお願いをした。
それで、陛下は。アイリスに目を向ける。
アイリスはうなずいて、陛下の杞憂を晴らした。
「シャーロット様のご友人である、マリアンヌ・マルセル嬢は。男爵令嬢です。マルセル男爵家は、製本業で財を築き、前国王が亡くなる直前に爵位を賜った、新興貴族。バミネが権勢を誇っていた時代も、マルセル新聞社では、真実を世間に知らせることを信条とし、権威におもねらなかった。気骨のある御家柄のようですよ? 身元の調査などは、アルフレドがいたしております」
「そうか。シャーロット、明日から、この席にマルセル嬢をご招待しなさい。可愛い妹が世話になっているのだから、我も挨拶をしなければな?」
「ありがとうございます、お兄様」
シャーロットは、とても嬉しそうに、笑みをほころばせ。アイリスとうなずき合っていた。
とても仲の良いお友達のようですね?
明日は、マルセル嬢に会えるようです。楽しみ、楽しみ。
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サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
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学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
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