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第5章
しおりを挟む「それで華乃さん、本物のゾンビになるってどういうことですか」
佐恵は家に着いて二つのコップに作っておいた麦茶を入れながら質問する。リビングのソファではなく、食卓の椅子にキチンと腰掛ける華乃は佐恵に貸してもらったノートに詳細を書いていく。
「・・・・うん、まあこんなものか」
華乃は顔を上げて、佐恵の方を見る。
「説明するにはいくつか足りない情報があるが、それを無視してもこれは大変な問題になる」
「足りない情報?」
佐恵は華乃の前に麦茶を置き、対面の椅子に腰掛ける。
「今回の問題の原理だ。これが今の私たちに一番足りない情報だ」
「え!?めちゃくちゃ大事な問題じゃないですか!!」
これまでなんとなく『SNSがヤバい』という情報だけでこの事件に臨んでいた佐恵にとっては大問題であった。それを見て華乃は出された麦茶をちびちびと飲み、軽く喉を潤す。
「だがそれは今我聞さんが調べている、そうだろう?」
「まあ、そうなんですが・・・」
佐恵は人一倍に好奇心旺盛だと自負している。華乃の妹、華音と一緒に『面白部』なんていう部活を立ち上げているのが何よりの証拠である。
「とりあえずここでは原理を無視して『催眠アプリ』とだけしておこう」
「それはそれで問題ある言い方だと思うんですけど・・・」
「じゃあ(仮)でも付けておくか」
なんだろう、華音ちゃんと似て華乃さんもちょっとボケが入ってる。佐恵はそれを喉の奥に飲み込み、サラサラと『催眠アプリ(仮)』とノートに書いている華乃に質問を続ける。
「話を戻しますけど大変な問題って何ですか?まさか世界が崩壊するとかそんな絵空事を言うんですか」
ハハハハハと笑いながら冗談みたいに言った佐恵だが、華乃は驚いたように目を開いて眉を上げ、おお、と小さく口から漏らした。
「そうだ、その通りだぞ。なんだ、もう結論が出ているじゃないか」
「いやいやいやいやいや!嘘ですよね!?そんなバカげた話あるわけないじゃないですか!!」
「・・・・・・・・・・・・・だといいんだが」
おもむろに華乃がテレビのリモコンを掴み、電源を入れる。丁度昼のロードショーがやっていたが、それを無視してニュースのやっているチャンネルに切り替える。そこで報道されていたものに佐恵は目を剥いた。
「え・・・・?」
「ああ、やっぱりか」
緊急速報が流れ、テレビの司会者たちは起きた事態を淡々と話す。その衝撃は大きく、彼らは口を動かしてはいるものの、噛み噛みで本当に起きているのか信じ切れていない様子だった。それもそうだ。今朝休戦を発表したところでまた紛争が起きているのだから。
「華乃さん、これって・・・」
「引っかかったんだ、そしてもう手遅れになった」
済ました顔をしながら華乃は麦茶を一気に飲み干す。そして大きく息を吐くと、スマホを取り出し電源を切った。それを見て華乃は煩わしく喋る司会者が気に入らなかったのかテレビの電源も切った。
「さて、佐恵。色々質問したいと思うけど、まずは聞いて欲しいことがある」
「・・・・・・・え?」
本当に自分の言っていたことが起きそうになるのを感じて茫然自失となっていた佐恵はそこでハッと我に返った。佐恵は華乃が机にスマホを置いてあるのを見て慌てて、スマホの電源を切った。
「な、なんですか?何か言いましたか?」
「端的に言うと、どういえばいいか・・・・うん、こう言おうか」
この後華乃は佐恵にとんでもないことを言う。佐恵はそれを瞬時に理解した。テレビならここでCMに入り、番宣だとかどうでもいい食品のCMが流れるのだろうが残念ながらこれは現実だった。佐恵はゴクリと生唾を飲み込んで、華乃の口元を見た。
「恐らく、我聞さんが原理を見つけようが見つけまいが、一週間かそこらで世界の経済が破綻する」
「な・・・・・」
何の冗談を、と言おうとして口を閉じた。経済の破綻という言葉に佐恵は動揺を隠せなかった。歴史で習った世界恐慌やオイルショックが今の自分に迫っていることがどうにも信じられなかった。加えて当てずっぽうな予想でも簡単に当たってしまうぐらい少ない情報量でこの答えを出せてしまったという事実が佐恵の頭の温度を上昇させる。
(・・・・・・いけない、呼吸をしないと)
佐恵は大きく息を吸って頭の中に溜まった熱を吐き出す。落ち着かなければ、こういう状況で焦るのは短絡的な発想に繋がる。地震の時もおかしもなんて教わったぐらいだ、落ち着けば助かる見込みはグンと上がる。
「ふぅ、はぁ、ふぅ、はぁ」
「落ち着いたか?」
「ふぅ・・・・はい、大丈夫です」
「話を戻すか」
華乃は姿勢を崩して腕を組んだ。
「今、あっちの国で戦争が再開された。他の国の首脳陣がまだこの事態の打開策を見つけてない状態で、だ」
「・・・・・まあ、そうですね。結構大変なことになるのは目に見えてますもんね」
まだ余熱の残る脳を回しながら佐恵は他の国がてんやわんやしてる様子を思い浮かべる。
「さて、質問だが」
「え!?いきなり問題!?」
「この情報を調べるのに何を使うと思う?」
「何って・・・・あっ!?」
華乃は机にある黒い画面の箱をコンコンと叩く。
「そうだ、SNSだ。もはや今の時代に置いてテレビのマスコミを信用するよりもネットのSNSの情報を見る方が何倍も早い」
「でも、それって・・・・」
華乃は苦い顔で天井を仰いで目を閉じる。
「調べるのは確実にあちらの国の情報。その中に確実に今回の件で起きたことが起きる。まあ、もっと具体的に言うならば―――」
「今回の件はインプレゾンビが拡散したことで起きた事件。そんな中で起きた戦争、つまり大きな話題性を含んだ大事件が起きれば・・・・」
「そうだ。今回の件で出てきたウイルスが戦争の情報に紛れ込んで拡散される。しかも馬鹿の一つ覚えのようにインプレゾンビ共はひたすら同じことを拡散することを繰り返すから世界のネットワークにこのウイルスが延々と広がり続けるっていうことだ」
華乃は大きく息を吐いて姿勢を正す。
「分かるか、佐恵。これがインプレゾンビを拡散するだけのゾンビにするってことだ」
佐恵は落ち着こうとする頭でどうすればいいかを考えたかった。しかし、この状況で浮かぶのは打開策ではなく、ただ一言詰んでいるという言葉だけが佐恵の頭の中を支配した。
「ど、どうす―――――」
どうすればいいですか、という言葉を佐恵は無理矢理飲み込んだ。分かるはずがない、こんな未曾有の大災害に近いものをどうやって止めればいいかなど華乃や佐恵のような一般人が分かるはずがないのだ。そこに無責任な疑問を投げかけたところで答えなんて当に見えている。
「佐恵、その質問はいい質問だと私は思うぞ」
華乃は臆せずに佐恵の意図を掴んで返答する。
「ここで最も問題なのは疑問を持たずにただ流されることだ。川の先が底の見えない滝つぼだと分かっていても知らんぷりして流されたままになる。それをするのは物言わない木か死んだ魚だ」
華乃は立ち上がり、リビングを出る。
「どこに行くんですか」
「華音を迎えに行ってくる。なに、すぐ近くなんだ。戻ってくるよ」
そう言って華乃は玄関から出て行ってしまう。佐恵はその背中から伝わる焦りを感じた。平静を装っているように見えてはいるが、やはり華乃自身も相当に焦っているように見えたからだ。
「・・・・・・・・・・・私は」
何をすればいいんだろうか。佐恵は思考を巡らしても一向に答えが出ないことを知る。何もすることがないのではない、本来そういう時にこそ役に立つはずのSNSが完全なゾンビの量産工場に成り果てているのだ。
「・・・・・・・・・・・」
ネットワークもいずれ使い物にならなくなる。そうなってしまえば、一体どういう世界になってしまうのだろうか。
「・・・・・・・・・・・待とう」
佐恵は諦めたわけではない。これが一番正しい選択だということをなんとなくだが理解できた。
「おじいも華乃さんも動いている。私がすべきことは余計なことはしない、それと」
そこで、ふとあることが脳裏を過ぎった。現在調べ物をしているおじいこと我聞は陣矢の携帯を見ていないのだろうか。
「・・・・・・・・もし、おじいがゾンビなったら」
いいや、と佐恵は首を振る。ここでマイナスに考えることはさっきの焦る事態に似ている。待つべきなのだ、静観ともいえる待ちをしなければいけないんだ。あれ?静観と待つって同じ意味だったような・・・?いや、似た意味だけど違う意味だ。
「・・・ははは」
佐恵はまず何をすべきかを思いついた。休もう、まずは落ち着くために休むべきなんだ。リビングのソファーに寝転がり佐恵は面白みのない天井を見ながらゆっくり目を閉じる。
(信じるんだ、おじいたちを。これは夢じゃない、現実だ。だからこそこれからのことを考える為に今は休むべきなんだ)
寝付けないと思っていた佐恵だったが、自分では気付かないぐらい疲れていたみたいで意識がすぐに遠のいた。
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