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4話
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「ひえ~!コワッ!きゃー!」
「そんな怖いですかこれ」
明樹の部屋でIT鑑賞会が始まって、明樹は優成の隣でワーワーと声を出しながら楽しんでいた。自分が明樹のことを好きなのかもしれない、と高嶺と仁に思わされた後なので、優成は明樹の隣にいるだけなのに妙な緊張を感じていた。
「うあー!ピエロ来た!」
ポップコーンを溢しそうになりながら、明樹が優成の腕にひっつく。
自分の腕に絡み付く明樹の腕を、優成はじっと見た。鍛えるのが好きな優成ほどではないにせよ、ファンが喜ぶくらいには筋肉質で男らしさ溢れる腕だ。
(そりゃそうだ。明樹さんはいい大人で、俺より年上の男だし)
そう思って、でもそのことを再確認したことで何故か胸が締まった。
「どうしたんだよ、優成。今日やっぱ変じゃん」
黙り込んでいる優成を不思議に思ったのか、明樹は抱きついたまま上目で優成を見上げた。
(心臓がうるさい、なんだこれ)
ITの再生を止めた明樹が、優成の顎下を指先で撫でる。今まで普通に受け入れていたスキンシップのはずなのに、優成は肩がびくついた。
「ITつまんない?」
「あ、いや。それは平気。面白いです」
目をそらしながら伝えると、明樹は不服そうに唇を動かした。
「言いたいことあるなら、言ってほしいんだけど」
明樹の声が低くなる。
不機嫌にさせたくなくて、優成は何を言うか何も考えられてないまま口を開いた。
「俺……」
「うん」
「俺、明樹さんの顔……好きです」
「ハハ、なに急に。俺も優成の顔好きだよ」
絵のような無表情が間近で破顔する。
優成はその瞬間、グッと強く心臓を掴まれた気がした。
(キスしたい)
そう思ってしまった。
「……キスしたい」
「え?」
思ったどころではなく、口に出ていた。
目の前で明樹が面食らっている。優成は己の過ちに血の気が引いた。
「あっ、違う!マジで変なこと言った、いまのは違っ──」
「いいよ」
「……え?」
聞き間違いかと思って明樹を見ると、明樹は真顔で優成を見返していた。
「キスでしょ?してみたいなら、どうぞ」
真顔のままそんなことを言うので、優成は膝の上のポップコーンが溢れる勢いでソファの背もたれから上体を起こした。
「は?なん、なんで!?」
「え、優成がしたいって言ったから」
明樹は当たり前、みたいな顔で言う。優成は起き上がった体勢から動けなかった。
したいって言われたらなんでも許すの?とか、もしかしてめちゃくちゃ遊び人なの?とか、それで結局俺は明樹さんのこと好きなの?とか。
答えを出すべき問いがいくつも優成の頭を巡った。しかし、優成の頭の大部分を占めたのが『キスできるならしておきたい』という欲望だったので、数多くの答えを出すべき疑問はどんどん消えていった。
「しないならIT再生していい?」
「待った、します!!」
男、優成。
たくさんのファンに愛と夢を与えてきたアイドルは、駆け引きもへったくれもない大きい声を出した。
「あ、そう。どうぞ」
ソファの背もたれに片腕を乗せて、宗教画みたいに脱力した明樹が優成を見る。
そんなイカしたキス待ちがあるか、と女性としかキスしたことのない優成は内心動揺するも、さすがにカッコつけたくてキメ顔を崩さなかった。
「……ホントにするよ?」
「うん」
明樹の返事を聞き終わる前に、優成は唇を重ねていた。
(柔らかい)
(本当にしてしまった)
(明樹さんとなんでキスしてんだ俺は)
耳鳴りするかと思う程の心拍数を心臓が叩き出している。高血圧で死ぬわ、と思ってもそう感じさせない澄まし顔で、優成は顔を離した。
「あ、リップ塗ればよかった」
一方、明樹は唇を触りながら斜め上の感想を述べていた。
「……ありがとうございました」
「なんのお礼だよ」
明樹はなんだか楽しそうに笑っている。
それがIT鑑賞会の最後の記憶。
キス以降優成は上の空過ぎて、ITが何の映画だったのかも理解できなかった。
「で、自覚した?」
腕を組んで立っている仁が、優成を見下ろす。
ここはリーダー高嶺の部屋だ。IT鑑賞会から数日後、優成は高嶺と仁に呼び出されて床に座らされていた。
「仁の問いはつまり、優成が明樹への恋心を自覚したかってことだぞ」
バカでもわかるようにしてあげなきゃ、というリーダーシップを発揮した高嶺が補足を入れる。優成だって、さすがに仁と高嶺が聞きたい内容はわかっていた。
「……一緒に映画観たんです。明樹さんと」
「うん、ITでしょ」
「それで、ふたりに『明樹さんに俺が恋してる』って指摘されたこともあって、緊張しちゃって」
「うんうん」
「明樹さんの顔見てたら、急に『キスしたい』って気持ちが出てきちゃって……」
「うんうん!」
優成の話を聞く仁の顔が、期待と慈愛に満ちていく。
「で、よくわかんないけど、キスはしました」
「……よくわかんないけど、キスはしました?」
「明樹さんがキスさせてくれたんで、キスしたんです。それ以降は、なんでキスしたいって思ったんだろってずっと考えてます。だからキス止まりで気持ちの整理はついてないです」
優成は素直に率直に自分の気持ちを述べた。
正直でいることは誉められることだが、正直すぎることはあまり誉められることではない、と高嶺は眉間をかいた。
「……キスするだけしてケジメつけてないってこと?てか何、明樹にキス迫ったの?」
「え、あーまぁ、したいって言ってノリで……?」
優成は何故自分がキスしたのか、何故明樹がキスさせたのかどちらの答えも持ってなかったので、返答がひどく曖昧になっていた。しかしその曖昧さを受けて慈愛に満ちていた天使は消え、優成の目の前には怖いお兄さんが現れる。
「テメェ、この不健全野郎が!!」
「ストップ仁!この子も悪気は──」
高嶺の制止虚しく、強めのボディーブローが優成の腹筋にめり込んでいた。
「そんな怖いですかこれ」
明樹の部屋でIT鑑賞会が始まって、明樹は優成の隣でワーワーと声を出しながら楽しんでいた。自分が明樹のことを好きなのかもしれない、と高嶺と仁に思わされた後なので、優成は明樹の隣にいるだけなのに妙な緊張を感じていた。
「うあー!ピエロ来た!」
ポップコーンを溢しそうになりながら、明樹が優成の腕にひっつく。
自分の腕に絡み付く明樹の腕を、優成はじっと見た。鍛えるのが好きな優成ほどではないにせよ、ファンが喜ぶくらいには筋肉質で男らしさ溢れる腕だ。
(そりゃそうだ。明樹さんはいい大人で、俺より年上の男だし)
そう思って、でもそのことを再確認したことで何故か胸が締まった。
「どうしたんだよ、優成。今日やっぱ変じゃん」
黙り込んでいる優成を不思議に思ったのか、明樹は抱きついたまま上目で優成を見上げた。
(心臓がうるさい、なんだこれ)
ITの再生を止めた明樹が、優成の顎下を指先で撫でる。今まで普通に受け入れていたスキンシップのはずなのに、優成は肩がびくついた。
「ITつまんない?」
「あ、いや。それは平気。面白いです」
目をそらしながら伝えると、明樹は不服そうに唇を動かした。
「言いたいことあるなら、言ってほしいんだけど」
明樹の声が低くなる。
不機嫌にさせたくなくて、優成は何を言うか何も考えられてないまま口を開いた。
「俺……」
「うん」
「俺、明樹さんの顔……好きです」
「ハハ、なに急に。俺も優成の顔好きだよ」
絵のような無表情が間近で破顔する。
優成はその瞬間、グッと強く心臓を掴まれた気がした。
(キスしたい)
そう思ってしまった。
「……キスしたい」
「え?」
思ったどころではなく、口に出ていた。
目の前で明樹が面食らっている。優成は己の過ちに血の気が引いた。
「あっ、違う!マジで変なこと言った、いまのは違っ──」
「いいよ」
「……え?」
聞き間違いかと思って明樹を見ると、明樹は真顔で優成を見返していた。
「キスでしょ?してみたいなら、どうぞ」
真顔のままそんなことを言うので、優成は膝の上のポップコーンが溢れる勢いでソファの背もたれから上体を起こした。
「は?なん、なんで!?」
「え、優成がしたいって言ったから」
明樹は当たり前、みたいな顔で言う。優成は起き上がった体勢から動けなかった。
したいって言われたらなんでも許すの?とか、もしかしてめちゃくちゃ遊び人なの?とか、それで結局俺は明樹さんのこと好きなの?とか。
答えを出すべき問いがいくつも優成の頭を巡った。しかし、優成の頭の大部分を占めたのが『キスできるならしておきたい』という欲望だったので、数多くの答えを出すべき疑問はどんどん消えていった。
「しないならIT再生していい?」
「待った、します!!」
男、優成。
たくさんのファンに愛と夢を与えてきたアイドルは、駆け引きもへったくれもない大きい声を出した。
「あ、そう。どうぞ」
ソファの背もたれに片腕を乗せて、宗教画みたいに脱力した明樹が優成を見る。
そんなイカしたキス待ちがあるか、と女性としかキスしたことのない優成は内心動揺するも、さすがにカッコつけたくてキメ顔を崩さなかった。
「……ホントにするよ?」
「うん」
明樹の返事を聞き終わる前に、優成は唇を重ねていた。
(柔らかい)
(本当にしてしまった)
(明樹さんとなんでキスしてんだ俺は)
耳鳴りするかと思う程の心拍数を心臓が叩き出している。高血圧で死ぬわ、と思ってもそう感じさせない澄まし顔で、優成は顔を離した。
「あ、リップ塗ればよかった」
一方、明樹は唇を触りながら斜め上の感想を述べていた。
「……ありがとうございました」
「なんのお礼だよ」
明樹はなんだか楽しそうに笑っている。
それがIT鑑賞会の最後の記憶。
キス以降優成は上の空過ぎて、ITが何の映画だったのかも理解できなかった。
「で、自覚した?」
腕を組んで立っている仁が、優成を見下ろす。
ここはリーダー高嶺の部屋だ。IT鑑賞会から数日後、優成は高嶺と仁に呼び出されて床に座らされていた。
「仁の問いはつまり、優成が明樹への恋心を自覚したかってことだぞ」
バカでもわかるようにしてあげなきゃ、というリーダーシップを発揮した高嶺が補足を入れる。優成だって、さすがに仁と高嶺が聞きたい内容はわかっていた。
「……一緒に映画観たんです。明樹さんと」
「うん、ITでしょ」
「それで、ふたりに『明樹さんに俺が恋してる』って指摘されたこともあって、緊張しちゃって」
「うんうん」
「明樹さんの顔見てたら、急に『キスしたい』って気持ちが出てきちゃって……」
「うんうん!」
優成の話を聞く仁の顔が、期待と慈愛に満ちていく。
「で、よくわかんないけど、キスはしました」
「……よくわかんないけど、キスはしました?」
「明樹さんがキスさせてくれたんで、キスしたんです。それ以降は、なんでキスしたいって思ったんだろってずっと考えてます。だからキス止まりで気持ちの整理はついてないです」
優成は素直に率直に自分の気持ちを述べた。
正直でいることは誉められることだが、正直すぎることはあまり誉められることではない、と高嶺は眉間をかいた。
「……キスするだけしてケジメつけてないってこと?てか何、明樹にキス迫ったの?」
「え、あーまぁ、したいって言ってノリで……?」
優成は何故自分がキスしたのか、何故明樹がキスさせたのかどちらの答えも持ってなかったので、返答がひどく曖昧になっていた。しかしその曖昧さを受けて慈愛に満ちていた天使は消え、優成の目の前には怖いお兄さんが現れる。
「テメェ、この不健全野郎が!!」
「ストップ仁!この子も悪気は──」
高嶺の制止虚しく、強めのボディーブローが優成の腹筋にめり込んでいた。
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