貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ

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13話

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「んん……」

 俺はうっすらと目を開けて、あぁまた寝てしまった、とぼんやりと考えていた。千明さんはもう風呂から上がってきているだろうかと、まだぼうっとしたまま起き上がると、

「あれ起きちゃった?」

 と隣から声が聞こえた。振り返れば、部屋着に着替えた千明さんが、ベッドに寝そべりながらスマホを弄っている。

「わ、ベッド占領しててすみません……」
「あはは、全然へーき。巡の寝顔可愛いし」

 前髪を上げて完全にくつろぎモードの千明さんを見ると、さっきの欲情的な行為が嘘のように思えてくる。

「もう遅いですし、部屋戻ります」

 お邪魔しました、と梯子を下りようとしたら後ろから抱きつかれて、俺はベッドになだれ込んだ。

「ちょっと!危ないッスよ!」
「せっかく起きたなら、ちょっとお話してこ」

 俺の抗議はすっかり無視した千明さんが笑顔でのしかかって来る。

「話ってなんの……」
「俺に聞きたいこととか、ないの?」

 千明さんに聞きたいこと。
 そう言われて思いつくのは、男と経験があるのかとか、男と付き合っていたことはあるのかとか、そもそも歴代の恋人は何人いて男女比はどうなのかとか。主にそんなことしか思い浮かばないが、俺にとっては重要な疑問だった。

「男と経験あるのかとか、男と付き合ったことあるのか、とかさ」

 心を読まれたのかと思うくらい的確に質問を提示され、思わず千明さんの目を見返してしまう。

「巡はある?男とヤッたこと」
「な、ないッスよ!そもそも、男で好きになったのなんて千明さんが初めてです!」

 反射的に答えてから、「へぇ~そっか~」と嬉しそうにニヤニヤしている千明さんが目に入る。いいように掌の上で転がされている気がして、「千明さんはありそうッスよね」と不機嫌な声が出た。

「あるよ、何回か」

 あまりにもあっさりと、「パクチー食べたことある?」に対する答えのようにあっさりと言われて、俺は「そ、そっすか」と気の抜けた返答をすることしかできなかった。

(いや、あるだろうなとは思ってたけど)

 それでも実際言われると、反応の準備が出来ていない自分がいる。

「え、怒った?」

 反応が薄くなった俺を見て、千明さんが顔を覗き込んでくる。

「いや、単純にどう反応したらいいかわかんなかっただけっす……」
「あ、でも男と付き合ったことはないよ。彼女は何人かいたけど、彼氏は巡が初めて」

 『巡は初カレ』という事実もあっさりと告げられて、また俺は反応に困った。

「そ、そっすか……」
「巡大丈夫?やっぱ眠い?」
「いや、眠気は吹き飛んでます……」

 千明さんは男性経験があるけど、彼氏が出来たのは初めて。その事実をゆっくりと噛み締める。

(なるほど、なるほど……)

「てかさ、巡の言ってた『キス以上』ってさっきのことくらい?」

 事実の噛み締めを行っていたら、千明さんが追撃をしてきた。さっきのことを思い出し、すぐ様顔に血が昇ってくるのを感じる。

「えっ、あ、えーっと…それは…」

 しどろもどろで何て答えようかと口ごもっていると、千明さんは「さっきみたいなので終わらせるのもありだしね」とか言いながらスマホで何かを検索している。

「たとえばさ、男同士の場合だとタチとネコって役割があるじゃん?」

 千明さんに見せられたスマホには保健体育の教科書のような絵柄で、男同士のセックスについて書いてあった。

(このページ、見たことある。自分で調べた時に、読んだやつだ)

 と思ったが、実際詳しく読み込んだわけでは無いし、千明さんとこのページを仲良く読める程、俺は大人ではなかった。

「で、俺はタチしかやったことなくて──」

 普段と変わらぬ様子でセックスについて語る千明さんに、これが経験を積んだ大人なのかと面食らう。俺は恥ずかしさが勝ってしまって、まともに話し合いに参加出来ない。

(タチ?ネコ?)

 何にせよ、性経験の無い俺には未知の世界だった。でも、さっき以上の世界があるなら、体験したい。
 そんなわがままな思考は、

「俺、よく分かんないので、できれば千明さんにお任せしたいッス……」

 という、他力本願な答えを出した。
 呆れられるかと思ったが、千明さんはちょっと目を見開いてから「わかった」と言って笑っただけだった。
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