隣人、イケメン俳優につき

タタミ

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疑惑

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    なんで西野が俺の部屋のチャイムを?
    隣の久遠さんの部屋番号と間違えてるのかと訝しみながら、俺はボタンを押した。

「……あの……部屋間違ってません?」
『清永さんか?それなら合ってる』

    堂々と言い返されて、俺はすぐには何も返せず黙る。
    俺に用があるってことか?西野が久遠さんに用があってこのマンションに来たならまだわかる。喧嘩を止めに入ったとは言え、1度数分会っただけの俺と何の話を俺とする必要が……。

『少し話がしたい。下りてきてもらえないか』

    俺がまだ黙っているうちに西野にそう言われて、悩む隙を与えない会話テクニックだとかいらんことを考えた。断ってもいいが断ったらここから先何の話だったんだと気にしてしまう未来が見えるし、西野に文句のひとつでも言いたい気持ちもあった。

「わかりました。ちょっと待っててください」
『ああ。マンション外にいる』

    仕事終わりなのか濃紺のスーツを着こなしている西野の前に、高校の学祭で作ったTシャツを着た寝起きの俺が出ていったら戦う前から敗けてしまう。俺は急いで1番高い服を求めてクローゼットを漁りに行った。

    結論から言うと俺は高くてオシャレな服なんてものは何も持ってなくて、クローゼットの中にはユニクロと高校のジャージしかなかった。戦闘服としては心もとない1番新しいユニクロの白シャツを着てエレベーターで1階に降りる。
    西野はマンションエントランスを出たところに立ってタバコを咥えていた。相変わらず他人を威圧する顔立ちだ。

「……お待たせしました」
「いや全然。わざわざどうも」

    ちょうど咥えたところでまだ火は付けていなかったようで、西野はタバコをシガレットケースに戻す。俺はシガレットケースなんかにわざわざタバコを入れてる男を初めて見た。

西野大河にしのたいがだ。この間は悪かった」

    名乗りながら西野は俺に名刺を差し出した。分厚くて高そうな紙だ。『ハイエストコンサルティング営業部第一営業課エグゼクティブマネージャー』というクソ長い肩書きが西野の職業らしい。なにやってるやつなのか全然わからないが、前に仕事で『コンサルの金持ちサラリーマン』を描いたことがあるのでコンサルが高給取りなのは知っている。

「西野さんですね。で、俺に話ってなんですか?」
「最近杉崎を見かけたか聞きたい」

    アイスブレイクもなしにいきなり久遠さんの話題とは潔さがすごい。久遠さんなら朝までウチにいたなんて言ったら色々話がこじれそうなので俺は少し考えるフリをした。

「あなたが帰った後、怪我の手当てをして連絡先交換しました。それで連絡取ったりはしてますけど」

    お前のせいで怪我してたんだぞという嫌味を込めた視線を送ったが、西野はイラつきも動揺もせずにそうかと呟いた。

「じゃ、会ったりはしてないんだな」
「隣の部屋には来てないと思います」

    質問に答えずに嘘でも本当でもないことを答える。西野にはあまり真相を話したくなかった。

「なんでそんなことを聞くんですか」
「連絡がつかないし、杉崎の家行っても出てこないからここにいるんじゃないかと」
「それは……あなたが久遠さんのこと殴ったりしたから避けられてるだけじゃないですか」

    自分に非があるとは微塵も思っていない口振りに、遠回しでも嫌味でもなくただストレートな言葉が出てしまった。西野は目を瞬いてから俺のことを上から下までゆっくりと見た。

「名前で呼んでるんだな杉崎のこと」
「え?あぁ、はい」

    気になるのそこなのかよ。

「もう寝たのか」
「は、はい?」
「杉崎ともうセックスしたのか?」

    セックス?なにが?久遠さんと?
    まさかそんなことを聞かれるとは思ってなくて俺は呆然と西野を見つめた。昨日久遠さんが寝てなければそういうことになっていた可能性は否めないが、それと西野からセックスの有無を聞かれるのは訳が違う。
    この西野という男は久遠さんのただの友達じゃないんじゃないのかと、考えたくないことが頭の中を巡る。

「そんな、わけないでしょ。何言ってるんですか。なんでそういうことになるんです」
「本当は杉崎と会ってるんだろ?どこにいるか教え……」

    西野は詰めるように俺に近づいたがそこまで言って口を閉じ、俺の斜め後ろを見た。

「ほら、やっぱりいるじゃないか」

    肩をすくめる西野の視線の先を振り返ると、目を見開いて俺たちを見つめる久遠さんが立っていた。
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