隣人、イケメン俳優につき

タタミ

文字の大きさ
10 / 31

事情

しおりを挟む
「く、久遠さん……」

    俺が掠れた声で呟くと、久遠さんはハッと俺に目を向けてそしてすぐに西野を睨む。

「西野、なんでお前ここにいるんだよ」

    苛ついた声を久遠さんが出すと、西野は眉を寄せて腕を組んだ。威圧感が増す。

「お前と連絡つかないからわざわざ来たんだろ」
「避けてんだよこっちは。お前と距離置くって決めたんだ。普通わかるだろ」
「何を怒ってるんだ?杉崎。殴ったのが嫌だったなら謝るが」
「謝れば許すと思ってんだろ。ホントにそういうところが嫌いだ」

    久遠さんが苦々しく呟く。こんなに負の感情を露にする久遠さんの姿に俺は正直たじろいだ。それに杉崎久遠の存在に誰かが気付いたら、ちょっと騒ぎになるかもしれない。このただならぬ──どこか痴話喧嘩じみた言い合いの最中、誰か通りかからないか肝が冷えた。

「まぁ気が済むまで怒ってていい。それよりこの清永さんとはどういう関係だ」

    話の矛先が俺に向けられて嫌な汗が背中を伝う。申し訳なさそうな視線を俺に向けてから、久遠さんは西野を見据えた。

「友達。お前が俺を殴ったことで芽生えた友情だけど」
「ここ数日連絡シカトしてたのはこの新しいお友達と遊んでたから、ってことか?」
「そうだよ。俺はお前の身勝手さにいい加減うんざりしてるんだ。だから連絡も取りたくないし会いたくもない」

    久遠さんの非難に動じることもなく、西野は腕組みを解いて俺の横を通りすぎる。そして久遠さんの目の前に移動した。久遠さんはモデル体型の高身長──ウィキペディアによれば180cm──だが、西野はそれよりも背が高い。

「お前が俺と会わずに何日も過ごせるわけないと思ってたが、なるほどな。抱いてもらってんのか、俺の代わりに」

    西野が俺を親指でさしながらさらりと、さも当たり前のように決定的なことを言った。

「っハァ!?んなわけ……!お前、一太くんの前で何言ってんのかわかってんのか」

    久遠さんは一瞬何を言われたのかわからない顔をしたがすぐに動揺で目を見開き、西野の胸ぐらを掴む。西野のオブラートゼロの発言に俺はうまく頭が回っていなかったが、とにかく騒ぎが大きくなるのを避けたくて久遠さんと西野の間に入ろうと近づいた。このふたりがただの友達じゃないのでは、という憶測が肯定されてしまった状況に動悸がすごい。

「あの、ふたりとも一旦落ち着いてください。ここ人目もあるし……!」
「ごめん一太くん、今のは違う、ちがうんだ西野が……!」
「何が違うんだ、杉崎」

    俺の方に顔を向けた久遠さんの顎を西野が掴む。無遠慮で強引で、普通の距離感ではない関係がふたりの間にあるのが嫌でもわかる行動だった。

「ちょっと乱暴なことは……」

    俺が身をよじろうとする久遠さんの肩を持つと西野の濃い二重が俺をとらえた。その視線の鋭さに怯む暇もなく、西野は久遠さんに唇を重ねた。

「えっ……」

    西野が久遠さんにキスしている。
    なんだ?この状況は。なんなんだ。
    俺は呆気にとられて、キスをしたまま俺を見やる西野の視線を呆然と受け止めた。

「ッ……~~!このッ離せ!」

    首を押さえ込むようにされていた久遠さんが西野の身体を思い切り押し返し、肩で息をする。そしてすぐに唇を手の甲で強く拭った。

「ふざけんなッ……!」
「久遠さん落ち着いて!」

    これ以上騒いだらさすがに目立ちすぎる。なんとか久遠さんを制止すると、久遠さんは俺を見て唇を歪めた。泣きそうに見えて胸が塞がる。

「西野さん、あんたは何がしたいんですか」
「清永さんに手っ取り早く『何も違わない』ことをわかってもらおうと思っただけだ」

    相手の気持ちなどお構い無しで傲慢だ。怒りたくなる気持ちを抑えて、拳を握りしめている久遠さんに寄り添おうと近づく。しかし久遠さんは「ごめん」と小さく呟くと後ずさり、逃げるように踵を返した。

「あ、久遠さん!」

    俺は1度西野の方を振り返ったが、追いかけるそぶりも見せずスーツに手を突っ込んで立っているだけだった。その他人事のような態度を睨んでから、俺は久遠さんが消えた方向に走り出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

何となくクリスマス

chatetlune
BL
■工藤×良太52  青山プロダクションには、今年もクリスマスはない。 イブの前日、工藤に札幌に出張を命じられた良太は不承不承、札幌に飛ぶのだが………。  青山プロダクション社長で敏腕プロデューサー、昭和なオヤジ工藤と、部下で秘書兼プロデューサー元野球少年で直球な良太のすったもんだラブ♥。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

処理中です...