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来訪
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シャワーと朝飯を済ませた久遠さんは玄関で再三俺に礼を言った。
「この恩には必ず報いるから!なんか欲しいもの考えといて、何でも買う」
「わかりましたから、早く出ないと間に合わなくなりますよ」
言いながら靴を履こうとすると「一太くんも出掛けんの?」と無邪気に聞かれる。
「いや、駅まで送ってこうと思って」
西野に久遠さんが殴られた日から、俺はとりあえず久遠さんを駅までは送ることにしていた。それでなにが解決するというわけじゃないとわかっていても、暴行を知っている身として何かしておきたいエゴがあった。あの一件の後、久遠さんが西野と接触してるのか知らないが、キレて一方的に殴るようなやつは何をしでかしてもおかしくはない。
西野のことかと察したらしい久遠さんが無邪気さを消して眉を下げた。
「俺のことは気にしなくて平気だよ。西野と連絡も取ってないし、もちろん会ってもない。あいつ、一太くんに目撃されて大人しくなってんだよ。西野も体裁があるからさ。だから……ホントに平気」
ふにゃっと笑う久遠さんを見て、困ったときにこの笑い方をするんだなとわかってしまった。
「それにマンション下にタクシー呼ぶし」
「……わかりました、気をつけて。それと仕事頑張ってください」
「うん。俺のこと心配してくれてホントにありがと。また連絡する」
華やかに手を振る久遠さんがドアの外に消えて、俺は玄関の壁に身を預けた。頭を抱える。キスのことはなかったことにして友達を続けるのか、やはり言及すべきなのかわからない。久遠さんはいい人だけど、だからこそ言及しにくい。
玄関で悩んでいても仕方がないので、とりあえず部屋に戻って俺はもう一度頭を抱えた。ヤフー知恵袋に聞いてみようと思い立ってスマホを手に取り、高速で同じ悩みを抱える人間を検索していく。
『キスして悩むってことは嫌じゃなかったってことですよね?つまりそういうことですよ』
だからどういうことなんだよ。
『酔った勢いとか1番よくない!』
それは、ホントにそう。
『過ちから始まる恋ってのもいいもんだなと思います』
感想文?
「ダメだ!役に立たん!」
俺は怒りながら『友達 キス』『友達の基準 キス』『友情とは キス』という何に悩んでいるのか丸わかりの検索履歴に羞恥を感じて長押しで消していった。
──ピロン♪
そこに久遠さんからLINEが来て、スマホを床に落としそうになりながら間違ってトークを開いた。即既読つける俺、キモいな。
『元気に行ってきます』
という文と家で着替えたらしい久遠さんの自撮りが連投される。自撮りの高すぎるクオリティに目をしょぼつかせつつ、「頑張って下さい」と返す。『任せとき!』と言っているユルいラッコのスタンプが返ってきて、ラッコ好きなのホントなんだと思った。それでやりとりは終わって、スマホをベッドに置く。
久遠さんの休日が唐突に終わり、俺の非日常も唐突に終わった。シンとした室内はいつも通りのはずなのに少し寂しさを覚える。
「はー……一旦寝よ」
久遠さんと喋ったり笑ったり飲んだりキスしたりした記憶がすべて凝縮されている部屋に気圧されて、俺は倒れるようにベッドに横になる。気が抜けた俺はすぐに泥に沈むように意識を失った。
──ピンポーン。
──ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴らされている。
俺は呻きながら薄目を開けてスマホを見た。
20時18分。
「20時18分!?」
何時間寝てんだよ。
慌てて起きて、寝すぎて痛む頭に顔をしかめる。
──ピンポンピンポン。
チャイムが止まらないので覚束ない足取りでインターホンまでたどり着き、画面を見る。
ネットでなんか買ってたっけ?とボーッと考えていたが、画面に写っている人物を見てむせた。
マンションのエントランスでチャイムを鳴らしているのは西野だった。
「この恩には必ず報いるから!なんか欲しいもの考えといて、何でも買う」
「わかりましたから、早く出ないと間に合わなくなりますよ」
言いながら靴を履こうとすると「一太くんも出掛けんの?」と無邪気に聞かれる。
「いや、駅まで送ってこうと思って」
西野に久遠さんが殴られた日から、俺はとりあえず久遠さんを駅までは送ることにしていた。それでなにが解決するというわけじゃないとわかっていても、暴行を知っている身として何かしておきたいエゴがあった。あの一件の後、久遠さんが西野と接触してるのか知らないが、キレて一方的に殴るようなやつは何をしでかしてもおかしくはない。
西野のことかと察したらしい久遠さんが無邪気さを消して眉を下げた。
「俺のことは気にしなくて平気だよ。西野と連絡も取ってないし、もちろん会ってもない。あいつ、一太くんに目撃されて大人しくなってんだよ。西野も体裁があるからさ。だから……ホントに平気」
ふにゃっと笑う久遠さんを見て、困ったときにこの笑い方をするんだなとわかってしまった。
「それにマンション下にタクシー呼ぶし」
「……わかりました、気をつけて。それと仕事頑張ってください」
「うん。俺のこと心配してくれてホントにありがと。また連絡する」
華やかに手を振る久遠さんがドアの外に消えて、俺は玄関の壁に身を預けた。頭を抱える。キスのことはなかったことにして友達を続けるのか、やはり言及すべきなのかわからない。久遠さんはいい人だけど、だからこそ言及しにくい。
玄関で悩んでいても仕方がないので、とりあえず部屋に戻って俺はもう一度頭を抱えた。ヤフー知恵袋に聞いてみようと思い立ってスマホを手に取り、高速で同じ悩みを抱える人間を検索していく。
『キスして悩むってことは嫌じゃなかったってことですよね?つまりそういうことですよ』
だからどういうことなんだよ。
『酔った勢いとか1番よくない!』
それは、ホントにそう。
『過ちから始まる恋ってのもいいもんだなと思います』
感想文?
「ダメだ!役に立たん!」
俺は怒りながら『友達 キス』『友達の基準 キス』『友情とは キス』という何に悩んでいるのか丸わかりの検索履歴に羞恥を感じて長押しで消していった。
──ピロン♪
そこに久遠さんからLINEが来て、スマホを床に落としそうになりながら間違ってトークを開いた。即既読つける俺、キモいな。
『元気に行ってきます』
という文と家で着替えたらしい久遠さんの自撮りが連投される。自撮りの高すぎるクオリティに目をしょぼつかせつつ、「頑張って下さい」と返す。『任せとき!』と言っているユルいラッコのスタンプが返ってきて、ラッコ好きなのホントなんだと思った。それでやりとりは終わって、スマホをベッドに置く。
久遠さんの休日が唐突に終わり、俺の非日常も唐突に終わった。シンとした室内はいつも通りのはずなのに少し寂しさを覚える。
「はー……一旦寝よ」
久遠さんと喋ったり笑ったり飲んだりキスしたりした記憶がすべて凝縮されている部屋に気圧されて、俺は倒れるようにベッドに横になる。気が抜けた俺はすぐに泥に沈むように意識を失った。
──ピンポーン。
──ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴らされている。
俺は呻きながら薄目を開けてスマホを見た。
20時18分。
「20時18分!?」
何時間寝てんだよ。
慌てて起きて、寝すぎて痛む頭に顔をしかめる。
──ピンポンピンポン。
チャイムが止まらないので覚束ない足取りでインターホンまでたどり着き、画面を見る。
ネットでなんか買ってたっけ?とボーッと考えていたが、画面に写っている人物を見てむせた。
マンションのエントランスでチャイムを鳴らしているのは西野だった。
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