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経緯
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久遠さんに電話をかけながら、俺はマンション周辺の道路を走っていた。すぐに見つかるかと思ったが、街頭の少ない道路は暗くて視界が悪い。久遠さんが駅に戻っていたり、どこかの店に入っていたら見つけ出すのは不可能に近いだろう。
「はぁ……電話も出ないし」
そりゃ出たくないか。
西野に関係を暴露されてキスまでされたら、『どういうことなんだ』って俺に追及されるに決まってる。実際俺が追及するかしないかは関係なく、追及されるに決まってると思うに決まってるのだ。
1人になりたいのかもしれない。あんなことあったら、誰でも1人になりたくなるだろう。でもここで久遠さんを1人したらダメな気がして、見つけて拒否されたら帰ればいいんだと思って、結局俺は走り続けた。
しばらく走ったり歩いたりして、俺は川沿いの土手に来ていた。マンションからは1キロくらいの距離にある場所だ。住宅街よりもさらに明かりがないので女性はもちろん、俺以外の人影もない。
久遠さんはもう自宅に帰ったのかもしれない。引き返すかと思って、最後に電話をかけておこうと発信ボタンを押す。
──リリリリ♪
すぐそばでスマホの呼び出し音がした。辺りを見渡すと土手の中腹で光る画面と座る人影が見えた。
「久遠さん!」
確信して呼びながら駆けおりる。これで人違いだったらヤバイなと思ったが、こちらを振り返って目を見開いたのは久遠さんだった。
「久遠さんッ!あーよかった……!見つかった」
「な、なんで、一太くんがここに?まさか探してたの俺のこと」
「そうです、探しますよ。西野のことなんて置いてきました」
「……わざわざごめん」
「謝らないでください。俺たち、その……友達でしょ」
気恥ずかしくて言うか迷ったが言ってしまった。自分で言っておいて歯が浮きそうだ。キモいと思われたらどうしようと久遠さんを見ると、久遠さんは泣きそうな顔をしていた。
「うわっすみません、キモいこと言って」
「なんにもキモくないよ。ホントにありがとう……俺なんかのために友達になってくれて」
両手で顔を覆って長く息を吐く久遠さんを見て、俺は久遠さんと同じように座った。
「さっきは騒がせてごめんね。仕事が近くで終わったから一太くんにちょっと会いに行こうかと思っただけだったんだけど、結局見苦しいもの見せちゃって」
見苦しいもの、とはキスのことだろうか。
「いや、あの全然大丈夫です。驚きはしましたけど……」
「誤解されたくないから言うけど、西野は恋人とかじゃないよ」
「あっそうなんですね」
DVな彼氏か元カレかと思っていたが、違うならセフレか?セフレなんて都市伝説かと思っていたのでそれはそれで内心驚く。
「……西野と出会ったのは2年くらい前。バーであっちから話しかけてきて、それで連絡先交換して。西野はゲイで、俺は男でも女でもって感じなんだけど」
そこまで言ってから「あーダメだ」と久遠さんが呟く。
「自分のこと話すの苦手なんだよね、ごめん。意味わかんない話になってたら言って」
頷いて促すと、久遠さんは膝を抱えた。
「俺、芸能界合わなくて一時かなり精神に来ててさ。20歳のときから薬──睡眠薬飲んでるんだ」
久遠さんが時折見せたほの暗さがフラッシュバックする。絵描き界隈にも精神がやられている人間は多いが、キラキラ笑顔で人前に出る職業なら対人ストレスは段違いだろう。
「睡眠薬って飲んでるうちにどんどん効かなくなってくるんだよ。もうこのままだと仕事に支障が出るレベルの強いやつ飲むことになっちゃいそうで、俺自棄になってて。本当に自棄で、自棄なときに西野と知り合って色々どうでもよくて西野と寝たのが始まり」
久遠さんはどうでもいいと言いながら遠い目をしていた。
「で、気付いちゃったんだ。抱かれると薬なしで眠れることに」
静かに言って久遠さんは川を見続けている。
「医者に言ったら『精神的身体的に満たされることで脳が安堵するから』じゃないかって言われた。ホントかどうかは知らないけど、でもたぶんそうなんだ。だから西野のことは全然好きじゃなくても、眠るために寝る、っていう関係になってた。あいつはDV気質で独占欲も強くて、マジで一緒にいるとうんざりするよ。うんざりでも都合の良い相手、西野しかいなくてね」
言外に『いろんな男と寝るのはリスクが高すぎる』という意図を感じた。
「……大変、ですね。ちょっと月並みなことしか言えなくてすみません」
「ううん、引いたでしょ。ごめんね、こんな話して。結局西野を切ってもその後どうしたらいいかわかんなくて、だらだら関係続けてた。そんなときに一太くんが助けてくれてさ。それで、一太くんの優しさにつけこんで無理矢理友達になろうなんて言って。俺、弱いしセコいんだ」
抱えていた膝を投げ出して久遠さんは夜空を見上げた。
暴力があったとしても自分の相手をしてくれる西野に久遠さんは依存している、ということなる。俺はカウンセラーじゃないから詳しくはわからないが、睡眠障害が解消されるという条件付きなら久遠さんは余計に西野を頼る他ない。西野があれだけ強気に出てくるのも、そもそも力関係が圧倒的に西野に有利に働いているからなんだろう。
「あの、俺難しいことよくわかんないですけど『脳が安堵できれば眠れる』ってことなら俺にも何か協力できると思います」
「一太くん……」
夜空を見上げた体勢で久遠さんは顔だけ俺に向けた。
「優しすぎるねホントに。『2度と会いたくない』って言ってくれていいんだよ」
「言わないです、そんなこと。ホントに力になりたい。西野なんか頼らなくても大丈夫にしましょう」
久遠さんの肩に手を置いて覗き込むように見つめると、久遠さんはちょっと照れたみたいに目を泳がせた。
「い、一太くんってさぁ、やっぱモテるでしょ」
「今冗談言ってる場面じゃないですよ」
「冗談じゃないんだってば。天然なの?」
なんで天然扱いされてるのかわからないが、久遠さんが目を細めて微笑んでくれたので俺は満足だった。
「はぁ……電話も出ないし」
そりゃ出たくないか。
西野に関係を暴露されてキスまでされたら、『どういうことなんだ』って俺に追及されるに決まってる。実際俺が追及するかしないかは関係なく、追及されるに決まってると思うに決まってるのだ。
1人になりたいのかもしれない。あんなことあったら、誰でも1人になりたくなるだろう。でもここで久遠さんを1人したらダメな気がして、見つけて拒否されたら帰ればいいんだと思って、結局俺は走り続けた。
しばらく走ったり歩いたりして、俺は川沿いの土手に来ていた。マンションからは1キロくらいの距離にある場所だ。住宅街よりもさらに明かりがないので女性はもちろん、俺以外の人影もない。
久遠さんはもう自宅に帰ったのかもしれない。引き返すかと思って、最後に電話をかけておこうと発信ボタンを押す。
──リリリリ♪
すぐそばでスマホの呼び出し音がした。辺りを見渡すと土手の中腹で光る画面と座る人影が見えた。
「久遠さん!」
確信して呼びながら駆けおりる。これで人違いだったらヤバイなと思ったが、こちらを振り返って目を見開いたのは久遠さんだった。
「久遠さんッ!あーよかった……!見つかった」
「な、なんで、一太くんがここに?まさか探してたの俺のこと」
「そうです、探しますよ。西野のことなんて置いてきました」
「……わざわざごめん」
「謝らないでください。俺たち、その……友達でしょ」
気恥ずかしくて言うか迷ったが言ってしまった。自分で言っておいて歯が浮きそうだ。キモいと思われたらどうしようと久遠さんを見ると、久遠さんは泣きそうな顔をしていた。
「うわっすみません、キモいこと言って」
「なんにもキモくないよ。ホントにありがとう……俺なんかのために友達になってくれて」
両手で顔を覆って長く息を吐く久遠さんを見て、俺は久遠さんと同じように座った。
「さっきは騒がせてごめんね。仕事が近くで終わったから一太くんにちょっと会いに行こうかと思っただけだったんだけど、結局見苦しいもの見せちゃって」
見苦しいもの、とはキスのことだろうか。
「いや、あの全然大丈夫です。驚きはしましたけど……」
「誤解されたくないから言うけど、西野は恋人とかじゃないよ」
「あっそうなんですね」
DVな彼氏か元カレかと思っていたが、違うならセフレか?セフレなんて都市伝説かと思っていたのでそれはそれで内心驚く。
「……西野と出会ったのは2年くらい前。バーであっちから話しかけてきて、それで連絡先交換して。西野はゲイで、俺は男でも女でもって感じなんだけど」
そこまで言ってから「あーダメだ」と久遠さんが呟く。
「自分のこと話すの苦手なんだよね、ごめん。意味わかんない話になってたら言って」
頷いて促すと、久遠さんは膝を抱えた。
「俺、芸能界合わなくて一時かなり精神に来ててさ。20歳のときから薬──睡眠薬飲んでるんだ」
久遠さんが時折見せたほの暗さがフラッシュバックする。絵描き界隈にも精神がやられている人間は多いが、キラキラ笑顔で人前に出る職業なら対人ストレスは段違いだろう。
「睡眠薬って飲んでるうちにどんどん効かなくなってくるんだよ。もうこのままだと仕事に支障が出るレベルの強いやつ飲むことになっちゃいそうで、俺自棄になってて。本当に自棄で、自棄なときに西野と知り合って色々どうでもよくて西野と寝たのが始まり」
久遠さんはどうでもいいと言いながら遠い目をしていた。
「で、気付いちゃったんだ。抱かれると薬なしで眠れることに」
静かに言って久遠さんは川を見続けている。
「医者に言ったら『精神的身体的に満たされることで脳が安堵するから』じゃないかって言われた。ホントかどうかは知らないけど、でもたぶんそうなんだ。だから西野のことは全然好きじゃなくても、眠るために寝る、っていう関係になってた。あいつはDV気質で独占欲も強くて、マジで一緒にいるとうんざりするよ。うんざりでも都合の良い相手、西野しかいなくてね」
言外に『いろんな男と寝るのはリスクが高すぎる』という意図を感じた。
「……大変、ですね。ちょっと月並みなことしか言えなくてすみません」
「ううん、引いたでしょ。ごめんね、こんな話して。結局西野を切ってもその後どうしたらいいかわかんなくて、だらだら関係続けてた。そんなときに一太くんが助けてくれてさ。それで、一太くんの優しさにつけこんで無理矢理友達になろうなんて言って。俺、弱いしセコいんだ」
抱えていた膝を投げ出して久遠さんは夜空を見上げた。
暴力があったとしても自分の相手をしてくれる西野に久遠さんは依存している、ということなる。俺はカウンセラーじゃないから詳しくはわからないが、睡眠障害が解消されるという条件付きなら久遠さんは余計に西野を頼る他ない。西野があれだけ強気に出てくるのも、そもそも力関係が圧倒的に西野に有利に働いているからなんだろう。
「あの、俺難しいことよくわかんないですけど『脳が安堵できれば眠れる』ってことなら俺にも何か協力できると思います」
「一太くん……」
夜空を見上げた体勢で久遠さんは顔だけ俺に向けた。
「優しすぎるねホントに。『2度と会いたくない』って言ってくれていいんだよ」
「言わないです、そんなこと。ホントに力になりたい。西野なんか頼らなくても大丈夫にしましょう」
久遠さんの肩に手を置いて覗き込むように見つめると、久遠さんはちょっと照れたみたいに目を泳がせた。
「い、一太くんってさぁ、やっぱモテるでしょ」
「今冗談言ってる場面じゃないですよ」
「冗談じゃないんだってば。天然なの?」
なんで天然扱いされてるのかわからないが、久遠さんが目を細めて微笑んでくれたので俺は満足だった。
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