隣人、イケメン俳優につき

タタミ

文字の大きさ
11 / 31

経緯

しおりを挟む
    久遠さんに電話をかけながら、俺はマンション周辺の道路を走っていた。すぐに見つかるかと思ったが、街頭の少ない道路は暗くて視界が悪い。久遠さんが駅に戻っていたり、どこかの店に入っていたら見つけ出すのは不可能に近いだろう。

「はぁ……電話も出ないし」

    そりゃ出たくないか。
    西野に関係を暴露されてキスまでされたら、『どういうことなんだ』って俺に追及されるに決まってる。実際俺が追及するかしないかは関係なく、追及されるに決まってると思うに決まってるのだ。
    1人になりたいのかもしれない。あんなことあったら、誰でも1人になりたくなるだろう。でもここで久遠さんを1人したらダメな気がして、見つけて拒否されたら帰ればいいんだと思って、結局俺は走り続けた。

    しばらく走ったり歩いたりして、俺は川沿いの土手に来ていた。マンションからは1キロくらいの距離にある場所だ。住宅街よりもさらに明かりがないので女性はもちろん、俺以外の人影もない。
    久遠さんはもう自宅に帰ったのかもしれない。引き返すかと思って、最後に電話をかけておこうと発信ボタンを押す。

    ──リリリリ♪

    すぐそばでスマホの呼び出し音がした。辺りを見渡すと土手の中腹で光る画面と座る人影が見えた。

「久遠さん!」

    確信して呼びながら駆けおりる。これで人違いだったらヤバイなと思ったが、こちらを振り返って目を見開いたのは久遠さんだった。

「久遠さんッ!あーよかった……!見つかった」
「な、なんで、一太くんがここに?まさか探してたの俺のこと」
「そうです、探しますよ。西野のことなんて置いてきました」
「……わざわざごめん」
「謝らないでください。俺たち、その……友達でしょ」

    気恥ずかしくて言うか迷ったが言ってしまった。自分で言っておいて歯が浮きそうだ。キモいと思われたらどうしようと久遠さんを見ると、久遠さんは泣きそうな顔をしていた。

「うわっすみません、キモいこと言って」
「なんにもキモくないよ。ホントにありがとう……俺なんかのために友達になってくれて」

    両手で顔を覆って長く息を吐く久遠さんを見て、俺は久遠さんと同じように座った。

「さっきは騒がせてごめんね。仕事が近くで終わったから一太くんにちょっと会いに行こうかと思っただけだったんだけど、結局見苦しいもの見せちゃって」

    見苦しいもの、とはキスのことだろうか。

「いや、あの全然大丈夫です。驚きはしましたけど……」
「誤解されたくないから言うけど、西野は恋人とかじゃないよ」
「あっそうなんですね」

    DVな彼氏か元カレかと思っていたが、違うならセフレか?セフレなんて都市伝説かと思っていたのでそれはそれで内心驚く。

「……西野と出会ったのは2年くらい前。バーであっちから話しかけてきて、それで連絡先交換して。西野はゲイで、俺は男でも女でもって感じなんだけど」

    そこまで言ってから「あーダメだ」と久遠さんが呟く。

「自分のこと話すの苦手なんだよね、ごめん。意味わかんない話になってたら言って」

    頷いて促すと、久遠さんは膝を抱えた。

「俺、芸能界合わなくて一時かなり精神に来ててさ。20歳のときから薬──睡眠薬飲んでるんだ」

    久遠さんが時折見せたほの暗さがフラッシュバックする。絵描き界隈にも精神がやられている人間は多いが、キラキラ笑顔で人前に出る職業なら対人ストレスは段違いだろう。

「睡眠薬って飲んでるうちにどんどん効かなくなってくるんだよ。もうこのままだと仕事に支障が出るレベルの強いやつ飲むことになっちゃいそうで、俺自棄になってて。本当に自棄で、自棄なときに西野と知り合って色々どうでもよくて西野と寝たのが始まり」

    久遠さんはどうでもいいと言いながら遠い目をしていた。

「で、気付いちゃったんだ。抱かれると薬なしで眠れることに」

    静かに言って久遠さんは川を見続けている。

「医者に言ったら『精神的身体的に満たされることで脳が安堵するから』じゃないかって言われた。ホントかどうかは知らないけど、でもたぶんそうなんだ。だから西野のことは全然好きじゃなくても、眠るために寝る、っていう関係になってた。あいつはDV気質で独占欲も強くて、マジで一緒にいるとうんざりするよ。うんざりでも都合の良い相手、西野しかいなくてね」

    言外に『いろんな男と寝るのはリスクが高すぎる』という意図を感じた。

「……大変、ですね。ちょっと月並みなことしか言えなくてすみません」
「ううん、引いたでしょ。ごめんね、こんな話して。結局西野を切ってもその後どうしたらいいかわかんなくて、だらだら関係続けてた。そんなときに一太くんが助けてくれてさ。それで、一太くんの優しさにつけこんで無理矢理友達になろうなんて言って。俺、弱いしセコいんだ」

    抱えていた膝を投げ出して久遠さんは夜空を見上げた。
    暴力があったとしても自分の相手をしてくれる西野に久遠さんは依存している、ということなる。俺はカウンセラーじゃないから詳しくはわからないが、睡眠障害が解消されるという条件付きなら久遠さんは余計に西野を頼る他ない。西野があれだけ強気に出てくるのも、そもそも力関係が圧倒的に西野に有利に働いているからなんだろう。

「あの、俺難しいことよくわかんないですけど『脳が安堵できれば眠れる』ってことなら俺にも何か協力できると思います」
「一太くん……」

    夜空を見上げた体勢で久遠さんは顔だけ俺に向けた。

「優しすぎるねホントに。『2度と会いたくない』って言ってくれていいんだよ」
「言わないです、そんなこと。ホントに力になりたい。西野なんか頼らなくても大丈夫にしましょう」

    久遠さんの肩に手を置いて覗き込むように見つめると、久遠さんはちょっと照れたみたいに目を泳がせた。

「い、一太くんってさぁ、やっぱモテるでしょ」
「今冗談言ってる場面じゃないですよ」
「冗談じゃないんだってば。天然なの?」

    なんで天然扱いされてるのかわからないが、久遠さんが目を細めて微笑んでくれたので俺は満足だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

ボクの推しアイドルに会える方法

たっぷりチョコ
BL
アイドル好きの姉4人の影響で男性アイドル好きに成長した主人公、雨野明(あめのあきら)。(高2) 学校にバイトに毎日頑張る明が今推しているアイドルは、「ラヴ→ズ」という男性アイドルグループのメンバー、トモセ。 そんなトモセのことが好きすぎて夢の中で毎日会えるようになって・・・。 攻めアイドル×受け乙男 ラブコメファンタジー

なぜかピアス男子に溺愛される話

光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった! 「夏希、俺のこと好きになってよ――」 突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。 ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。

黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。 ※このお話だけでも読める内容ですが、 同じくアルファポリスさんで公開しております 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 と合わせて読んでいただけると、 10倍くらい楽しんでいただけると思います。 同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。 魔法と剣で戦う世界のお話。 幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、 魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、 家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。 魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、 「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、 二人で剣の特訓を始めたが、 その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・ これは病気か!? 持病があっても騎士団に入団できるのか!? と不安になるラルフ。 ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!? ツッコミどころの多い攻めと、 謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの 異世界ラブコメBLです。 健全な全年齢です。笑 マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。 よろしくお願いします!

処理中です...