隣人、イケメン俳優につき

タタミ

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    22時5分。
    久遠さんを連れて、俺は部屋へ戻ってきていた。西野がもしいたら追い払おうと、俺がマンションまで先に様子を見に行ったが西野はすっかりいなくなっていた。
    久遠さんが部屋のクッションに座り、俺は仕事用の椅子に座る。腹が減ったので俺はインスタントのカップスープを用意し、夕飯は食べたと言う久遠さんにはギリギリ在庫があった麦茶を渡した。

「殴られた日以降、西野と会ってないなら……薬、飲んで寝てるんですか」
「うん。効き悪くてあんまり眠れてないけど」

    カップスープをかき混ぜながら聞くと、久遠さんは俺に心配されたくないのか少し笑いながら答える。そこでふと、俺の上で寝落ちした久遠さんを思い出した。

「昨日はウチで眠れてたみたいですけど……あれは酒の力?」
「いや、どれだけ酒飲んでもダメなはずだから不思議なんだよね。薬も持ってきてなかったし眠れる要素がないというか」

    あの時の久遠さんは寝るためというか眠るために俺に迫った、ということなんだろうか。おそらく入眠前のやりとりとしてああいう行動が刷り込まれているという判断が早い気がする。酒で理性が外れて俺にまで迫ってきた、というわけだ。本人に確認できないけど、とりあえず俺は内心納得した。

「あの、不躾なこと聞くんですけど、女の人とのセックスじゃダメなんですか。根本解決にはならなくとも女性相手なら引く手数多でしょうし、とりあえず西野がいなくても眠れますよね」
「それは……西野と寝てから試してみたんだけどダメだった。女性だとやっぱ気を使うしヤった後すぐ寝たりしたら悪いじゃん。男相手ならされるがまま喘いでればいいだけだし、すぐ寝ても別にお互い気にしないし気楽というか」
「な、なるほど……」

    男相手だとされるがまま喘いでるのか、久遠さん。
    てかさっき土手でさらりと言われたけど、久遠さんは抱かれる側なんだよな。抱かれてるのか……。
    そんなところに気をとられて頭の中が喘いでいる久遠さんに支配されそうになる。支配されそうになってどうにかそれ以上の妄想を止めた。
    俺は男子高校生か、ちょっと落ち着けよ。真面目な話してんだぞ。

「あ、ごめん。キモかったよね男同士の話とか」
「いや!そういうんじゃないです、全然偏見ないんで大丈夫です」

    男子高校生みたいな妄想と戦う俺の真顔を見て、久遠さんが麦茶を置いて謝ってきたので慌てて否定した。

「女性相手はダメで男相手なら良いということは、セックスすれば眠れるというわけではなく『愛されてる』とか『寂しくない』とか感じられれば脳が安心して眠りに近づけるってことなんじゃないかなと思ったんですが、どうですかね」

    久遠さんの妄想を追い払いながらもっともらしいことを述べると、久遠さんは恥ずかしそうに首を触る。

「そう、だね。具体的に言葉にされると、俺メンヘラみたいだな……いや、メンタルやられてるから間違いではないか……」

    長い脚でくまれたあぐらをといた久遠さんが、俺の方に近づいた。

「今日……部屋泊まりたいって言ったらイヤ?昨日眠れたなら一太くんがいれば寝られるのかなって思ったんだけど」
「全然いいですよ。泊まるか聞こうと思ってましたし、これで眠れたら1歩前進ですもんね」
「うわーありがとう……!そしたら隣から毛布とか歯ブラシとか取ってくる!」

    きらめく笑顔で立ち上がった久遠さんは、言うが早いか楽しそうに部屋を出ていった。元気そうな姿に少しホッとする。
    問題は2時間前まで寝ていた俺が寝られるのかということだなと時計を睨みながらも、俺は寝るスペースを確保するためテーブルを片付け始めた。

    23時18分。
    ささっとシャワーを浴びて着替えた俺たちは、早速横になっていた。まずどっちがベッドで寝るのかで攻防戦があったが、久遠さんが寝られるかどうかが大事なのでと押しきって久遠さんをベッドに寝かせ、俺は床に毛布などを適当に敷いて寝ていた。やるべき仕事はあったが、今日は20時まで寝て1日を無駄にしたことと西野のことで仕事のやる気がゼロになっていたので俺は寝てしまおうと思っていた。

「明日の仕事、何時に起きないととかあります?」
「えーと、現場が9時入りだから7時には起きようかと思ってる。あ、一太くんは寝てていいからね」
「俺は何時に寝て何時に起きても平気なんで大丈夫っすよ」

    言いながら7時にスマホのアラームをセットして薄暗い天井を見る。「おやすみ」と言い合ってお互い黙った。全然眠くないが何かしたいこともない。
    時計の針の音を聞くだけの時間が流れる。結構な時間、時計の音を聞いてからちらっとベッドの方を見ると、久遠さんは微動だにしていなかった。眠れたのかなと思っても、起こしては悪いので話しかけられない。
    なんとなく寝返りをうつとテレビの下に置いてあるSwitchが目に入った。途端に頭に中に久遠さんとしたキスが甦って、脳内が再び男子高校生みたいになる。
    くそっ、ダメだ。落ち着け。そうだ、音楽でも聴いて気分を変えよう。
    邪念を捨てるためゆっくり起き上がる。と、手を掴まれた。

「一太くん」

    ベッドに起き上がった久遠さんに手を掴まれていた。

「あ……起こしちゃいましたか、すみません」
「いや眠れてないから平気」

    平気ではないこと返して久遠さんは俺を見上げた。

「一太くんも眠れない?」
「あーいや、俺は今日かなり寝ちゃってたんで眠れないのは必然的というか」

    言いながら俺はベッドに腰かけた。久遠さんは俺の手を掴んだままだ。

「やっぱり、寝るのダメそうですかね……ちょっと酒飲んでみたりします?」
「あの、嫌なら断ってほしいんだけど」

    正座するようにベッドの上で姿勢を正した久遠さんは、真剣な顔で俺を見つめた。

「添い寝、してくれないかな」
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