インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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 封筒はテーブルの上を滑って、初瀬の手元で止まった。

「今回で最後かな。指示役とその上のヤクザが割れたよ。指示役は奈古組なこぐみの山崎っていう下っ端だ。ただこいつは言われたことをやってるだけで、実際のブレーンは若頭補佐の満井。タタキのシノギ全般を取り仕切ってる」

 タタキ──つまり強盗のことだ。数年前から裕福な一般宅が標的となる強盗が相次いでいた。どこかの半グレ、どこかのヤクザ、はたまた海外マフィアが仕切っているなどと噂されてきたが、どうやら昔ながらの老舗極道のシノギになっていたらしい。もちろんタタキのシノギを奈古組だけがやっているわけではないが、下劣なやり口はヤクザ同士でも軽蔑されるので秘密裏に行っているのだろう。

「警察にその封筒送りつけたら、捜査してくれるかもよ」
「俺がそんなことをすると思ってるんですか」
「思っちゃいないけど。でも今まで処理してきた半端な実行役どもとは違う。今回はヤクザだ。殺しに慣れた同業で、下手したら兼城組うちと泥沼の抗争に発展する。そうなりゃ僕は初瀬くんを見捨てるし、ケジメは指じゃ済まないよ」

 初瀬は会沢に何も返さず、封筒を開いた。指示役だった下っ端とその親玉である満井の情報が羅列されている。会沢の狂言ではないことを示すように、今までと同様にタタキに関連していた証拠に関して記載があった。会沢にここまで捜査ができるなら、なぜ警察が逮捕に至らないのかと何度も思ったが、それは会沢が非合法のやり方で無理やりに情報を仕入れているからなのだろう。

「……情報、ありがとうございます。慎重に実行します」
「もっと喜んだりするかと思った。仇がわかったのに冷静だねえ」
「喜んでますよ。……やっと終わるので」

 初瀬は封筒をジャケットにしまい、震えそうだった手をポケットに突っ込んで隠す。5年前の、幸せな人生がどん底に落ちた時の景色と感情が鮮明に蘇り、憎悪と衝動で他人の目がなければうずくまり嗚咽してもおかしくはなかった。会沢がいるからどうにか真顔を保っているだけだ。

「会沢さん。なんで前回は邪魔をしてきたんですか」
「随分と直球で聞くね」
「今回も相手に情報を漏らして相討ちにしようとしてるんじゃないかと」

 初瀬が不躾に言うと、会沢はにっこりと笑って拍手をした。

「いい心がけだ。でも今回は邪魔する気なんてないよ。前回はさ、初瀬くんがトーマくんといるようになって気ぃ抜けてそうだったからテストしただけ。次たぶんボス戦だな~って僕はわかってたから、難易度上げておかないと危機感出ないでしょ」

 以前はもっとはぐらかす回答だったのに、会沢は初瀬の計画を壊そうとしたことをあっさり認めた。
 会沢に初瀬を殺す気は本当になかったが、想定より初瀬の怪我が酷かったから医者まで手配して命を助けたのだろうか。会沢が初めて封筒を持ってきた時、『健気で可哀想なやつが好き』だと初瀬に言ってきたことが蘇ってくる。初瀬はずっと、会沢に遊ばれているに過ぎないのかもしれないが、初瀬のプライドがそれを認めようとはしなかった。

「……本心は教えてもらえませんか」
「本心だよ」

 張り付いた笑顔のまま会沢は言って、ベルを鳴らした。初瀬はまだ会沢に探りを入れたかったが、呼ばれた従業員が入ってきて会沢との会話は終わりを迎える。メニューについて何やら指示している会沢に一礼して去ろうとすると、会沢が手を振った。

「あ、掃除は好きなタイミングで進めていいけど、その前に組長の誕生会よろしくね」
「……失礼します」

 初瀬はもう一度頭を下げて、部屋を出た。
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