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告白
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トイレに行った皆木を探そうとすると、皆木は探すまでもなくフロアのソファに座って装飾品の水槽を見ていた。店の売りなのか、壁一面が水槽になっておりそこをたくさんの熱帯魚が泳いでいる。
「おい、皆木。用済んだなら戻ってこいよ」
「あ、ハセさん。あれ、もう飯終わりっすか」
「会沢さんはまだ食ってる。俺たちは先に帰るぞ」
初瀬はさっさと店を出たかったが、立ち上がった皆木は後ろ髪を引かれるように水槽に目を奪われている。
「ハセさんは海行ったことある?」
「まぁな。何回かは」
まだ水槽を見ていたそうな皆木の横に並ぶと、初瀬の気配を感じた魚たちが逃げていく。
「いいな~。オレ海見たことないんすよ。やっぱキレイ?」
「海による。ここからちょっと行けば東京湾見えるぞ」
「え、東京湾ってヤクザが死体沈めるとこでしょ?オレが見たいのは違うんだよな……。沖縄みたいなキレイな海の話で」
水槽が皆木の瞳に写って煌めいている。自分とは違う綺麗な目だと初瀬が見つめると、皆木も初瀬を見た。
「あの。ハセさん」
「なんだ」
「さっきはすいませんでした。セクハラみたいなこと言っちゃって」
「別に気にしてねえよ。お前そんなこと気にするキャラか?」
初瀬は軽く笑ったが、皆木は笑わない。少し緊張したような顔をしていて、初瀬は何かを感じて自分が落ち着かなくなるのがわかった。
「いやでもホラ、謝んないとキャラってことになっちゃうでしょ。さっきは失敗したと思ってて……。欲ばっかでダメなんすよね、オレ。客しか相手にしたことないから色々わかってないっつーか。でも今、ひとりでちゃんと考えてました」
皆木は珍しく忙しなく喋って、初瀬は冷静になることに努めた。
「何考えてたんだ」
「なんだろ、つまり……。オレ、ハセさんのこと好きです。ハセさんに恋してるって、伝えたくて」
明確な告白だった。今まで散々言われていたキスしたいだのやりたいだのという文言とは違う。初瀬は答えが見つからず、しばし沈黙した。こちらを見る目は相変わらず綺麗で、その純粋な視線から逃れるように初瀬は目をそらす。
「セックスしてえだけだろ。それは性欲であって恋じゃない」
「違う、違います」
一辺倒の答えを出すと、皆木は即座に否定した。
「キスもセックスも、ハセさんが嫌ならなくていい。これから一生なんにもしてくれなくても、好きだから。本気で」
皆木がひとりで悩んで出した回答は、初瀬が今まで受けたどの告白よりも真摯だった。初瀬はもう、皆木の感情を否定する術を失っていた。
「恋がわかってないの、オレじゃなくてハセさんのほうだと思いますよ」
黙る初瀬に皆木は言った。その通りだと思った。誰かを愛する感情など捨ててしまった初瀬には、皆木の気持ちに応える資格はない。会沢に渡された封筒が、今も暗然たる質量を持って初瀬に身の程をわからせてくる。
「……俺は誰かと、生きていくことが許される人間じゃない。嫌でもわかるだろ、近くで見てれば。さっきだって──」
「いやわかんないです。誰が決めたんですか、それ。オレはハセさんが殺人鬼でも好きだし、関係ないです」
言い切られて、それに胸の穴を埋められたような気がした。深い穴の中にある、誰にも見せたくない傷口に触れられた気がした。それがなぜか怖くて、初瀬は皆木を見ないままでいた。
「……お前の気持ちはわかった。ただ俺は、今以上のことは考えられない」
「全然それで大丈夫です。オレが勝手に言いたくなっちゃっただけなんで」
皆木はやっと、少し笑った。その表情にどこか安堵を覚えながら、初瀬は「もう帰るぞ」と踵を返す。皆木は素直についてきたが、店を出てエレベーターを待つ間にぽつりと呟いた。
「……あの、さっきカッコつけたこと言っちゃったんですけど。やっぱ気ぃ向いたらキスはしてくれません?」
「あ?初志貫徹しろ」
「ショシカンテツ?」
「もっと勉強しろよ、お前」
初瀬はいつもの調子に戻った皆木を後ろに、まとまらない感情を抱いたままエレベーターに入った。
「おい、皆木。用済んだなら戻ってこいよ」
「あ、ハセさん。あれ、もう飯終わりっすか」
「会沢さんはまだ食ってる。俺たちは先に帰るぞ」
初瀬はさっさと店を出たかったが、立ち上がった皆木は後ろ髪を引かれるように水槽に目を奪われている。
「ハセさんは海行ったことある?」
「まぁな。何回かは」
まだ水槽を見ていたそうな皆木の横に並ぶと、初瀬の気配を感じた魚たちが逃げていく。
「いいな~。オレ海見たことないんすよ。やっぱキレイ?」
「海による。ここからちょっと行けば東京湾見えるぞ」
「え、東京湾ってヤクザが死体沈めるとこでしょ?オレが見たいのは違うんだよな……。沖縄みたいなキレイな海の話で」
水槽が皆木の瞳に写って煌めいている。自分とは違う綺麗な目だと初瀬が見つめると、皆木も初瀬を見た。
「あの。ハセさん」
「なんだ」
「さっきはすいませんでした。セクハラみたいなこと言っちゃって」
「別に気にしてねえよ。お前そんなこと気にするキャラか?」
初瀬は軽く笑ったが、皆木は笑わない。少し緊張したような顔をしていて、初瀬は何かを感じて自分が落ち着かなくなるのがわかった。
「いやでもホラ、謝んないとキャラってことになっちゃうでしょ。さっきは失敗したと思ってて……。欲ばっかでダメなんすよね、オレ。客しか相手にしたことないから色々わかってないっつーか。でも今、ひとりでちゃんと考えてました」
皆木は珍しく忙しなく喋って、初瀬は冷静になることに努めた。
「何考えてたんだ」
「なんだろ、つまり……。オレ、ハセさんのこと好きです。ハセさんに恋してるって、伝えたくて」
明確な告白だった。今まで散々言われていたキスしたいだのやりたいだのという文言とは違う。初瀬は答えが見つからず、しばし沈黙した。こちらを見る目は相変わらず綺麗で、その純粋な視線から逃れるように初瀬は目をそらす。
「セックスしてえだけだろ。それは性欲であって恋じゃない」
「違う、違います」
一辺倒の答えを出すと、皆木は即座に否定した。
「キスもセックスも、ハセさんが嫌ならなくていい。これから一生なんにもしてくれなくても、好きだから。本気で」
皆木がひとりで悩んで出した回答は、初瀬が今まで受けたどの告白よりも真摯だった。初瀬はもう、皆木の感情を否定する術を失っていた。
「恋がわかってないの、オレじゃなくてハセさんのほうだと思いますよ」
黙る初瀬に皆木は言った。その通りだと思った。誰かを愛する感情など捨ててしまった初瀬には、皆木の気持ちに応える資格はない。会沢に渡された封筒が、今も暗然たる質量を持って初瀬に身の程をわからせてくる。
「……俺は誰かと、生きていくことが許される人間じゃない。嫌でもわかるだろ、近くで見てれば。さっきだって──」
「いやわかんないです。誰が決めたんですか、それ。オレはハセさんが殺人鬼でも好きだし、関係ないです」
言い切られて、それに胸の穴を埋められたような気がした。深い穴の中にある、誰にも見せたくない傷口に触れられた気がした。それがなぜか怖くて、初瀬は皆木を見ないままでいた。
「……お前の気持ちはわかった。ただ俺は、今以上のことは考えられない」
「全然それで大丈夫です。オレが勝手に言いたくなっちゃっただけなんで」
皆木はやっと、少し笑った。その表情にどこか安堵を覚えながら、初瀬は「もう帰るぞ」と踵を返す。皆木は素直についてきたが、店を出てエレベーターを待つ間にぽつりと呟いた。
「……あの、さっきカッコつけたこと言っちゃったんですけど。やっぱ気ぃ向いたらキスはしてくれません?」
「あ?初志貫徹しろ」
「ショシカンテツ?」
「もっと勉強しろよ、お前」
初瀬はいつもの調子に戻った皆木を後ろに、まとまらない感情を抱いたままエレベーターに入った。
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