インテリヤクザは子守りができない

タタミ

文字の大きさ
29 / 51

告白

 トイレに行った皆木を探そうとすると、皆木は探すまでもなくフロアのソファに座って装飾品の水槽を見ていた。店の売りなのか、壁一面が水槽になっておりそこをたくさんの熱帯魚が泳いでいる。

「おい、皆木。用済んだなら戻ってこいよ」
「あ、ハセさん。あれ、もう飯終わりっすか」
「会沢さんはまだ食ってる。俺たちは先に帰るぞ」

 初瀬はさっさと店を出たかったが、立ち上がった皆木は後ろ髪を引かれるように水槽に目を奪われている。

「ハセさんは海行ったことある?」
「まぁな。何回かは」

 まだ水槽を見ていたそうな皆木の横に並ぶと、初瀬の気配を感じた魚たちが逃げていく。

「いいな~。オレ海見たことないんすよ。やっぱキレイ?」
「海による。ここからちょっと行けば東京湾見えるぞ」
「え、東京湾ってヤクザが死体沈めるとこでしょ?オレが見たいのは違うんだよな……。沖縄みたいなキレイな海の話で」

 水槽が皆木の瞳に写って煌めいている。自分とは違う綺麗な目だと初瀬が見つめると、皆木も初瀬を見た。

「あの。ハセさん」
「なんだ」
「さっきはすいませんでした。セクハラみたいなこと言っちゃって」
「別に気にしてねえよ。お前そんなこと気にするキャラか?」

 初瀬は軽く笑ったが、皆木は笑わない。少し緊張したような顔をしていて、初瀬は何かを感じて自分が落ち着かなくなるのがわかった。

「いやでもホラ、謝んないとキャラってことになっちゃうでしょ。さっきは失敗したと思ってて……。欲ばっかでダメなんすよね、オレ。客しか相手にしたことないから色々わかってないっつーか。でも今、ひとりでちゃんと考えてました」

 皆木は珍しく忙しなく喋って、初瀬は冷静になることに努めた。

「何考えてたんだ」
「なんだろ、つまり……。オレ、ハセさんのこと好きです。ハセさんに恋してるって、伝えたくて」

 明確な告白だった。今まで散々言われていたキスしたいだのやりたいだのという文言とは違う。初瀬は答えが見つからず、しばし沈黙した。こちらを見る目は相変わらず綺麗で、その純粋な視線から逃れるように初瀬は目をそらす。

「セックスしてえだけだろ。それは性欲であって恋じゃない」
「違う、違います」

 一辺倒の答えを出すと、皆木は即座に否定した。

「キスもセックスも、ハセさんが嫌ならなくていい。これから一生なんにもしてくれなくても、好きだから。本気で」

 皆木がひとりで悩んで出した回答は、初瀬が今まで受けたどの告白よりも真摯だった。初瀬はもう、皆木の感情を否定する術を失っていた。

「恋がわかってないの、オレじゃなくてハセさんのほうだと思いますよ」

 黙る初瀬に皆木は言った。その通りだと思った。誰かを愛する感情など捨ててしまった初瀬には、皆木の気持ちに応える資格はない。会沢に渡された封筒が、今も暗然たる質量を持って初瀬に身の程をわからせてくる。

「……俺は誰かと、生きていくことが許される人間じゃない。嫌でもわかるだろ、近くで見てれば。さっきだって──」
「いやわかんないです。誰が決めたんですか、それ。オレはハセさんが殺人鬼でも好きだし、関係ないです」

 言い切られて、それに胸の穴を埋められたような気がした。深い穴の中にある、誰にも見せたくない傷口に触れられた気がした。それがなぜか怖くて、初瀬は皆木を見ないままでいた。

「……お前の気持ちはわかった。ただ俺は、今以上のことは考えられない」
「全然それで大丈夫です。オレが勝手に言いたくなっちゃっただけなんで」

 皆木はやっと、少し笑った。その表情にどこか安堵を覚えながら、初瀬は「もう帰るぞ」と踵を返す。皆木は素直についてきたが、店を出てエレベーターを待つ間にぽつりと呟いた。

「……あの、さっきカッコつけたこと言っちゃったんですけど。やっぱ気ぃ向いたらキスはしてくれません?」
「あ?初志貫徹しろ」
「ショシカンテツ?」
「もっと勉強しろよ、お前」

 初瀬はいつもの調子に戻った皆木を後ろに、まとまらない感情を抱いたままエレベーターに入った。
感想 4

あなたにおすすめの小説

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。