インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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襲撃

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 東京と神奈川の県境。人通りの少ない通りに建つ奈古組事務所の前に、皆木は立っていた。正確には兼城の誕生会を抜け出しここに到着してからついさっきまで建物の影に潜んでいたが、ようやっと立ち上がったところだった。二階に電気がついているのを見上げながら、誕生会の前に会沢に言われたことを思い出す。

「ちょうど雨も降ったし、初瀬くんは今日決行する気だよ。いつも雨の日だからね。ま、そうじゃなくても先に始末できれば初瀬くんの命は守れるしトーマくんは今日にしな。適当に誕生会を抜け出して奈古組に行って、人が十分減ったら事務所にUber のフリして入って撃ち殺す。最後まで残ってるのは満井と山崎だけだ。不意打ちならトーマくんでも勝てるよ。ね、簡単」

 酒の買い出しというのは方便で、会沢は自家用車の中で簡潔に用件を述べると小型の銃を渡して使い方を教えた。

「あ、1時過ぎると初瀬くん来ちゃうから迅速にね」

 初瀬が来るまであと1時間ほどだ。初瀬は満井と山崎が事務所を出るところを狙うだろうと会沢は言っていた。どこまで読みが当たるのかわからないが、既に組員はかなり事務所から出て行っている。

(……もうやるしかないよな)

 銃の使い方をもう一度確認してから、後ろ手でベルトに差し込む。皆木は震えそうになる手を大きく振って、事務所に近づいた。適当に用意した料理が入ったビニール袋を片手に階段を上っていく。初瀬のため、それだけを考えてドアをノックした。
 意外にもあっさりとドアが開き、不健康な顔をした男が出てくる。部屋の中を見ると、スキンヘッドの体格のいい男が座っているのが見えた。出てきたのが山崎で中にいるのが満井だった。狙い通りもう2人しかいない。

「なんだ、お前。こんな時間に」
「こんばんは、Uberです。料理をお届けに──」
「あ?兄貴、なんか頼みました?」

 山崎が振り返り、満井が訝し気な顔で近づいてくる。2人が並んだら撃とう、と手を後ろに回し銃に触れたところで山崎が皆木を見下ろした。

「何コソコソやってんだ?お前変だな」
「あ、いや。全然なんにも」
「口答えすんな。おい、ちょっとこっち来いや」

 皆木は銃を扱ったことも、ましてや人を殺めたこともない。売春以外、犯罪だってしたことはない。そんな人間に出合い頭に人を撃ってこいというのは、そもそも失敗が前提のような作戦だと皆木にはわかっていなかった。
 山崎に肩を掴まれ、皆木は手元が狂って落としそうになりながら銃を取り出した。

「なっ、テメエ!どこの組のモンだ──」

 山崎の背後で満井が目を見開き室内へ走っていく。銃を取りに行ったのだろう。もう今、やるしかない。やるしか。

(オレがハセさんの代わりに……!)

 ──ガシャン!!

 皆木がまさに引き金を引こうとした時、事務所の窓ガラスが盛大に割れた。外からの銃撃かと満井も山崎も身をかがめたが、皆木は割れた窓から目が離せなかった。
 窓を割って入ってきたのは初瀬だった。
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