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誕生会
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「お誕生日おめでとうございまーす!!」
男たちのドスの効いた合唱とクラッカーが鳴り響いて、20時ちょうどに誕生会はスタートした。初瀬と会沢が兼城の両隣に着席し、その他役職付きがテーブルに続く。平の組員は立食──という体裁なだけで実際大したものは食えない──で周囲に立ち、盃もまともに交わしていない皆木は店員に紛れて給仕をしていた。
「──というわけで、100歳まで組長やるぞ!乾杯!」
「乾杯!」
兼城の長い挨拶がやっと終わり、初瀬は形式的に乾杯酒のビールに口をつけグラスをすぐに置いた。ぞろぞろと列をなし兼城にグラスを当てに行く役職付きたちの相手をしながら、兼城は会沢が用意したウィスキーをロックで飲み始める。会沢に勧めて飲ませているのを見て、自分にも来るだろうなと察してすぐ兼城が初瀬に笑いかけた。
「ガク。お前ウィスキー飲む口だったか?飲んでみろ。これは味わい深さが違えぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
飲むか飲まないか初瀬に決定権はない。ロックで注がれたウィスキーをある程度含み、おしぼりで口を拭くふりをしながらほとんどを布に吐き出す。無駄にするには勿体ない酒だが、初瀬は今日酔うわけにはいかなかった。
「うまいです。さすが親父は趣味がいい」
「そうだろう!お、皆木!お前うちに拾われた時と比べたら随分立派になったじゃねえか。背も伸びたか?」
「たぶん伸びました!全部ハセさんのおかげです」
空いたグラスを下げに来た皆木を兼城が呼び止め、皆木は笑顔で答えている。端から見ると孫と祖父のようだ。
「そうかそうか!ガクに子育ての才能があるとはなぁ。ガキだと思ってたが今は立派な組員に見えるぜ」
「アハハ、ありがとうございます~照れちゃうな~」
皆木はグラスを片付けながら相槌を打ち、兼城の興味が他に移ったところで初瀬に近づいた。
「ハセさん。ビール以外、なんか飲みますか」
「じゃ烏龍ハイを頼む」
「うす。すぐ持ってきます」
初瀬は去ろうとする皆木のスーツを引っ張り、短く耳打ちした。
「酒は抜いてくれ。この後俺が何を頼んでも同様に」
皆木は少し目を丸くしただけで特に理由も聞かず、小さく頷いて厨房に戻って行った。会が進むにつれて何度かグラス交換があったが皆木が他の店員にも共有したらしく、初瀬には酒のフリをしたソフトドリンクが提供され続けた。
(……そろそろ、頃合いか)
兼城へのプレゼントコーナーと余興も終わり、既に数時間が経過していた。場全体にアルコールが回り、余興で一気飲みを披露した下っ端たちは既に何人も潰れている。
「すみません。ちょっと酒抜いてきます」
「なぁんだ~?もう酔ってんのかガク!ったく最近の若いやつは情けねえな!ハハハ!ゲロ吐きまくってこい!」
女に囲まれて上機嫌の兼城もすっかり酔っていて、初瀬の動向を深く追求しなくなっている。兼城だけではない。その場にいる組員は皆アルコールに支配され思考が鈍っているのが見て取れた。会沢だけは立ち上がった初瀬を目で追ってくるのがわかったが、初瀬は気にせずトイレに向かった。
1番端の個室に入り、ジャケットを脱ぐ。吐きに来たわけではない。『兼城の誕生会にいた』というアリバイが成立するうちに、満井と山崎を殺しに行くのだ。ヤクザが殺されれば抗争を危惧した警察が必ず捜査を行う。兼城組にも疑いの目は向けられるだろう。だから初瀬にはアリバイが必要で、雨の降る梅雨の誕生会は決行にうってつけだった。
「ふー……」
雑念を払うために息を長く吐き、初瀬は拳銃とナイフをホルスターに装着した。取り出す練習を何度か試し、弾の装填を確認してジャケットを羽織り直す。
(ああ、長かった)
ついに最大の復讐が終わりを迎える。果たせれば死んでも構わない。今までそう思って疑わなかった初瀬の心に、皆木の姿が過った。正直に言えば、唯一の心残りだった。初瀬が死んで後ろ盾を失えば、皆木はどうなるかわからない。
時計を確認し、最後に事情くらい話しておこうと皆木に電話をかけた。しかし、呼び出し音が鳴る前に機械音声が流れた。
『現在、お呼び出しの電話番号は圏外か電源が切れているため、接続できません』
初瀬は直感でおかしいと感じた。買い直したケータイは電話以外やることもないガラケーで、充電が切れるほど使うとは思えない。地下でも圏外にはならない店を選んだのだから、店内にいるはずの皆木に繋がらないわけもなかった。
(どこで何やってんだ、あいつ)
皆木のケータイにはストラップ代わりにGPSタグをつけている。当初皆木を信用できずに監視用として付けていたのだが、今では会沢の部屋など危ないところに行ってないか時折確認するだけになっていた。
アプリを見ると皆木は店内にいなかった。ピンが見覚えのあるマップに立っている。そこは奈古組の事務所だった。わかった途端、初瀬はドアを蹴破って走り出していた。
アプリの誤作動で、皆木本人は店内にいるんじゃないのか。やるべき検討と確認はいかようにもあったが、初瀬に考えている暇はなかった。想定外の事象に冷静を欠きながら、店の出口階段を駆け上がった。
男たちのドスの効いた合唱とクラッカーが鳴り響いて、20時ちょうどに誕生会はスタートした。初瀬と会沢が兼城の両隣に着席し、その他役職付きがテーブルに続く。平の組員は立食──という体裁なだけで実際大したものは食えない──で周囲に立ち、盃もまともに交わしていない皆木は店員に紛れて給仕をしていた。
「──というわけで、100歳まで組長やるぞ!乾杯!」
「乾杯!」
兼城の長い挨拶がやっと終わり、初瀬は形式的に乾杯酒のビールに口をつけグラスをすぐに置いた。ぞろぞろと列をなし兼城にグラスを当てに行く役職付きたちの相手をしながら、兼城は会沢が用意したウィスキーをロックで飲み始める。会沢に勧めて飲ませているのを見て、自分にも来るだろうなと察してすぐ兼城が初瀬に笑いかけた。
「ガク。お前ウィスキー飲む口だったか?飲んでみろ。これは味わい深さが違えぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
飲むか飲まないか初瀬に決定権はない。ロックで注がれたウィスキーをある程度含み、おしぼりで口を拭くふりをしながらほとんどを布に吐き出す。無駄にするには勿体ない酒だが、初瀬は今日酔うわけにはいかなかった。
「うまいです。さすが親父は趣味がいい」
「そうだろう!お、皆木!お前うちに拾われた時と比べたら随分立派になったじゃねえか。背も伸びたか?」
「たぶん伸びました!全部ハセさんのおかげです」
空いたグラスを下げに来た皆木を兼城が呼び止め、皆木は笑顔で答えている。端から見ると孫と祖父のようだ。
「そうかそうか!ガクに子育ての才能があるとはなぁ。ガキだと思ってたが今は立派な組員に見えるぜ」
「アハハ、ありがとうございます~照れちゃうな~」
皆木はグラスを片付けながら相槌を打ち、兼城の興味が他に移ったところで初瀬に近づいた。
「ハセさん。ビール以外、なんか飲みますか」
「じゃ烏龍ハイを頼む」
「うす。すぐ持ってきます」
初瀬は去ろうとする皆木のスーツを引っ張り、短く耳打ちした。
「酒は抜いてくれ。この後俺が何を頼んでも同様に」
皆木は少し目を丸くしただけで特に理由も聞かず、小さく頷いて厨房に戻って行った。会が進むにつれて何度かグラス交換があったが皆木が他の店員にも共有したらしく、初瀬には酒のフリをしたソフトドリンクが提供され続けた。
(……そろそろ、頃合いか)
兼城へのプレゼントコーナーと余興も終わり、既に数時間が経過していた。場全体にアルコールが回り、余興で一気飲みを披露した下っ端たちは既に何人も潰れている。
「すみません。ちょっと酒抜いてきます」
「なぁんだ~?もう酔ってんのかガク!ったく最近の若いやつは情けねえな!ハハハ!ゲロ吐きまくってこい!」
女に囲まれて上機嫌の兼城もすっかり酔っていて、初瀬の動向を深く追求しなくなっている。兼城だけではない。その場にいる組員は皆アルコールに支配され思考が鈍っているのが見て取れた。会沢だけは立ち上がった初瀬を目で追ってくるのがわかったが、初瀬は気にせずトイレに向かった。
1番端の個室に入り、ジャケットを脱ぐ。吐きに来たわけではない。『兼城の誕生会にいた』というアリバイが成立するうちに、満井と山崎を殺しに行くのだ。ヤクザが殺されれば抗争を危惧した警察が必ず捜査を行う。兼城組にも疑いの目は向けられるだろう。だから初瀬にはアリバイが必要で、雨の降る梅雨の誕生会は決行にうってつけだった。
「ふー……」
雑念を払うために息を長く吐き、初瀬は拳銃とナイフをホルスターに装着した。取り出す練習を何度か試し、弾の装填を確認してジャケットを羽織り直す。
(ああ、長かった)
ついに最大の復讐が終わりを迎える。果たせれば死んでも構わない。今までそう思って疑わなかった初瀬の心に、皆木の姿が過った。正直に言えば、唯一の心残りだった。初瀬が死んで後ろ盾を失えば、皆木はどうなるかわからない。
時計を確認し、最後に事情くらい話しておこうと皆木に電話をかけた。しかし、呼び出し音が鳴る前に機械音声が流れた。
『現在、お呼び出しの電話番号は圏外か電源が切れているため、接続できません』
初瀬は直感でおかしいと感じた。買い直したケータイは電話以外やることもないガラケーで、充電が切れるほど使うとは思えない。地下でも圏外にはならない店を選んだのだから、店内にいるはずの皆木に繋がらないわけもなかった。
(どこで何やってんだ、あいつ)
皆木のケータイにはストラップ代わりにGPSタグをつけている。当初皆木を信用できずに監視用として付けていたのだが、今では会沢の部屋など危ないところに行ってないか時折確認するだけになっていた。
アプリを見ると皆木は店内にいなかった。ピンが見覚えのあるマップに立っている。そこは奈古組の事務所だった。わかった途端、初瀬はドアを蹴破って走り出していた。
アプリの誤作動で、皆木本人は店内にいるんじゃないのか。やるべき検討と確認はいかようにもあったが、初瀬に考えている暇はなかった。想定外の事象に冷静を欠きながら、店の出口階段を駆け上がった。
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